第271話 偽善

「そうだ、ヒダリ君」


「なんでしょうか?」


「ヒダリ君は、組織にあった僕の資料なんかは目を通したのかな?」


「ええ、一通りは」


「あの量をかい? 確かに君達の施設に比べれば、少ない量とはいえ、百年分くらいの資料だよ」


 確かに。

 結構な分量ではあったな。


「全く、君は一体何者なんだい?」


「何者といわれましても」


 まあ、敢えて言うなら元地球人くらいか。


「おっと、話がそれてしまったね。それじゃあ、僕の組織が対峙していた連中についても?」


「ええ、なにやら書いてありましたね。武器商人というか傭兵団というか、そんな感じの方々ですよね」


「そんな感じだね。色々なところで争いの火種を焚き付けたり、時には自分達が火種になってたりしてね」


 マッチポンプみたいな人達だよな。

 武器やら兵力が商売道具だしな。

 商売のやり方としては間違ってないかもしれないが。


「僕はねぇ、なんかそういうのが気に入らなくて」


「?」


「僕の元々の仕事場だったのさ]


「なるほど」


「まあ正義感に駆られてってことではないんだけどね。僕にもそれなりに矜持ってものがあったみたいでさ」


「子どもにまで手を出す奴は許せないと?」


「!?」


 資料から推測しただけだけど。

 正解だったか。


「よくわかったね」


「いえ、資料からの推測。そして彼女たちのあなたに対する態度を見てですかね」


 ところどころでのやり取りの雰囲気がね。

 上司と部下というよりは父親と娘のそれに似ている感じなんだよな。


「ああ、そうかもしれないね。彼女達のほとんどが、僕が奴らの施設から奪った娘たちだからね」


「ソラハラヌさん達が重点的に攻撃目標にしていた施設ですね」


「そうそう。いろんなところから適正のある子どもたちを攫って、育成するクソみたいな施設だよ」


 育成ね。

 戦闘要員として幼少期からの育成なんざ碌なもんじゃなさそうだ。


「まあ、結局ラーヴァくんやパルシラくんを戦場に送り込んでいる時点で、偽善でしかないんだけどね」


「その辺は私もあまり変わりませんよ。人を守るといいながら人を殺す」


「お互い難儀な人間だねぇ」


「そうですね」


「っと、話が変に湿っぽくなってしまった。とにかくヒダリ君のところも奴らに対しては警戒した方がいいよ」


 子どもを狙った人攫いか。


「奴らは、攫うだけで済ませないことも多いしね」


 正義の味方になるつもりはさらさらない。

 さすがに探し出してまでどうこうするつもりもない。

 だがこっちに手を出すなら……。


 やることは一つ。


「あはは、君もそんな顔をするんだね」


 叩き潰す。

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