第273話 とある武装商団の誤算

 

 しかしまたでかい孤児院だな。

 郊外にあるとはいえ、その辺の貴族の屋敷なんぞより、よほどでかいぞ。

 孤児なんてものにこんな金をかけるとは、物好きな奴もいるもんだ。


 まあ貴族の屋敷と違って衛兵なんざいないけどな。

 郊外にあって衛兵がいなくてと、何とも襲いやすい施設だ。


「師団長、準備完了しました」


「これだけの屋敷だ。仕事に支障をきたさない程度なら略奪も認める」


「ありがとうございます!」


「さっさと済ませ、ぼうふ!」


「師団長!」


 く、一体何が?

 俺が殴られた、のか?


「こどもが寝てるんだ静かにしてもらおうか」


 なんだこいつは?


「サベローシラ殿、準備は万端じゃ」


 女?

 いや子どもか?


「もうしわけありません、ヘラレント様」


「なに、孤児院の責任者は妾じゃ」


 こんな子どもが責任者?


「それでもです」


「ふむ、主殿の許可は得ておる。それに過剰なまでの防壁が妾を守っておるからの、安心せい」


 一体何の話だ?

 まあいい、責任者だか何だか知らんが邪魔をするなら。

 まとめて始末するだけだ。


「俺にかまうな、お前ら仕事にかかれ!」


 ……。

 なんだ?

 なぜ何の反応もない?


「夜の闇は妾の領域。貴様ら程度がなにかできると思ったか?」


「どういうことだ!」


「えーと、周りを見てみるとよいですよ。師団長さん」


 周り?

 どういうことだ?


 !?


 なんだ?

 部隊の連中が全員倒れている?

 何が起こった?


「貴様、いったい何をした!」


「全員、安らかなる闇に沈んでおるよ」


「闇に沈む? 貴様何を言っている!」


「あの、あまり無礼な発言は控えた方がよいかと」


 この男はこの男で一体何なんだ。


「ヘラレント様というお名前に聞き覚えは?」


 聞き覚え?

 ヘラレント……。


 ヘラレント!?

 まさか!


「や、闇の女神」


「ほう、妾の名前を知っておるか」


「いや、さすがに知ってるでしょう。八柱の女神のお一人ですから」


「ふむ、そんなものか?」


「ええ、うちの村長なんかよりよっぽど有名ですよ」


「うーむ、主殿のすばらしさが世界に広まっていないというのは」


「まあ村長ですしねぇ」


「だがあまり広まってこれ以上女子が増えるのものう」


「あー、それはどうでしょうかねぇ」


「どういうことじゃ?」


「えーと…気にしないでください」


 なんなんだこいつら?

 本当に闇の女神なのか?

 いやそんなことは関係ない。


 師団が全滅したことは事実。

 そして俺自身も確実にヤバい。


「何か含みのある言い方じゃのう、サベローシラ殿」


「いいえ、何も言っておりません。どうかお気になさらずに」


 だが、まだ終わってはなさそうだ。

 戦力差がありすぎるせいで、やつら気を緩めていやがる。


 だったらやることは一つ。

 この隙に、転移石で!

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