第269話 ソラハラヌ嵌められる
「それじゃ、ヒダリ君。君の奥様達に呼ばれているから」
「あ、ええ」
なにかな?
ヒダリ君の視線がそれたような?
「ヒダリ君?」
「いや、大丈夫ですよ。特に問題はありません」
?
「さて。私は格納庫に用があるので、失礼させてもらいます」
うーん。
「村長、明らかに挙動不審でしたよね?」
「そうだな。どう思います司令」
「明らかになにかあったようだけど。まあ、命がどうこうってことじゃなさそうだから、大丈夫じゃない?」
「村長は戦場と普段の格差がありすぎますよね」
「だが毎日戦場のような殺気を出されたら、我々はたまったものではないぞ」
「それもそうですね」
確かにねぇ。
アレを常日頃やられてたら、この村に誰も近付けなくなっちゃうね。
まあ、奥様達だけは気にしなさそうだけど。
「そういう意味では奥様達は、尊敬に値するな」
「ですねぇ、普段がどんなに良い人でも私には無理です」
「同感だ」
どうなんだろうね?
奥様達や村の関係者を見てると、味方にはかなり甘い感じがするけど。
特に奥様達には。
その辺の落差が奥様達にはたまらないのかもね。
ここでいいのかな?
「あの、司令。ここって」
「うん、僕も不思議に思っているところだ」
ナルディスナ様とレイラ様が待っている場所が村長の私室。
さすがにおかしくないかな?
「ナルディスナ様、レイラ様。ソラハラヌです」
「忙しいところ呼びつけてすまないな、入ってくれ」
えーと、いいのかな?
「ソラハラヌさん、皆さん、構いませんよ」
「それでは失礼します」
……。
これはまた……。
「すごい本」
「あれは……作りかけの魔方具!?」
「うむ、驚いているようじゃな」
「普段はあまり人には見せない側面ですしね」
「本人は隠しているわけでもないのだがな」
えーと。
奥様達の誇らしげな顔はちょっと微笑ましいけど。
僕達は奥様達の惚気を聞かされる為に呼ばれたのかな?
「さて、ソラハラヌ殿」
「はい」
「あなたをクジラ地域の統括司令に任命します」
は?
「ナルディスナ様、レイラ様。それはどういう事でしょうか?」
「どういう事とは?」
「クジラ地域というものもよくわかりませんし、統括司令という意味も」
「ふむ。クジラ地域というのはだな、この村に大量のクジラが滞在しているのは知っているな」
「ええ」
初めて見たときは、あまりの多さにきを失いかけましたけどね。
「そのクジラの大半が、体内に町や村といった集落を持っていることも知っているな?」
「ええ」
「それらの町や村の住人から、この村の傘下に入りたいと要望があってな」
まあ、あの閉鎖空間を打破できる唯一といっていい存在だからね。
集落の存続の為にはそうしたい気持ちはよく分かる。
「それで彼らを受けいるれるに当たって、それらの集落をまとめてクジラ地域と呼ぶことにした」
「なるほど」
ん?
クジラ地域の統括司令?
まさか!?
「察しが良くて助かります。ソラハラヌさんには、彼等の窓口となっていただきます」
な!
「組織をつくり、育て、維持してきたあなたなら大丈夫だ、と」
「今も司令と慕われているようだしな」
ヒダリ君!
あの時の挙動不審の原因はこれか!
「で、ですが、私のような新参者に勤まるでしょうか? もしかしたら、それらの集落をまとめてこの村に牙を剥くことだってあるかもしれませんよ」
「それは我らも伝えたのだがな」
「大丈夫ですよ。まあ、いいから任せてみようよ、と」
無茶苦茶だね。
まあ、確かにヒダリ君に向ける牙を僕は持ち合わせていないけどね。
それにしても、こんな新参者によくもまあ。
「という事でよろしく頼むぞ、ソラハラヌ殿」
「必要な予算などは都度こちらに報告をお願いします」
「ああ、それとな我が夫の本音も教えておこう。この村に人的余裕なんざないからな、使える奴はとことん使うだけだよ、だそうだ」
あははは。
わかったよ。
多少嵌められた気がしないが、組織のみんなをまるこど養ってもらった恩くらいは返させてもらうよ。
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次回は10/22(火)を予定しています。
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