第266話 友を呼ぶ唄

 仕事がほしいか。

 取りあえずいつもの二人に見てもらうか。

 ソラハラヌさんはなんとかなりそうなんだけど。


 うーん。

 一緒にいたあの二人の女性は、無理そうなんだよなぁ。

 まあ、なるようになるか。


『ひだりさん、どうしたんですか?』


『いえ、何でもないですよ』


『それで、ぼくもここにすんでもいいのですか?』


『ええ、あなたの中にある村の方々もそれでいいそうですので』


『それはよかった。ぼくのかんちがいであんなことになってしまって』


『それも含めて村の方々は感謝しているみたいなので、あまり気にされなくてもよろしいかと思いますよ』


『そういってもらえるとたすかります』


 このクジラはえらく謙虚というか。

 まあ人間だって性格なんざ人それぞれなんだから、誰かと誰かを比べるものでもないか。


『そうそう、これはお近づきのしるしに』


『それはなんですか?』


『あなたと同じような言葉を使う方々が、大変気に入ってくれたサンドイッチというものですよ』


『さんどいっち?』


『食べる物ですので、説明するよりは食べてもらった方が早いかもしれませんね』


『なるほど。まりょくいがいをくちにするのははじめてですが。いただけますか?』


『どうぞ』


『では。……』


 ?

 口に合わなかったか?


『……』


『あの、お口にあいませんでしたか?』


『お、お、お、おいしいいいいいいいいいいい』


 ぬあああああ。

 耳があああああ!


『おいしゐいいいいいい』


『お、落ち着いてください』


『あ、す、すいません』


『いえ』


『それにしてもここはよいばしょみたいですね』


『わかりますか?』


『ええ、なんせぼくがそらにいてもだれもきにしません』


『まあ竜とかもいますしね。大概のことでは驚かなくなっているかもしれません』


 魔窟と魔塔と酒の木ですでに慣れてるしな。


『それにさんどいっちもおいしい』


『気に入っていただけて、なによりです』


『あのさしちさん』


『なんでしょうか?』


『ともだちにここをしょうかいしても?』


『ええ、もちろんです』


 クジラの二頭や三頭ふえたところで問題もない。


『ありがとうございます。では、さっそく』


 え?

 いきなりか。


『♪~♪~♪』


 これは……歌?


『♪~~♪~~♪』


 !?

 なんだ?

 何かが時空空間を割ってくる?


『♪~~~♪』


 しかも一つや二つじゃないぞ!?

 なんだこれ?


 来る!


『ぶおおおおおおおおおおお』


 く、クジラ?


『ふおおおおおおおおおおお』


 こ、こっちも。

 あっちもか。


 この反応がもしかして全部クジラなのか!?


「左の字!」


「セブーン!」


「佐七さん!」


「どうした三人とも。魔動機兵なんて持ち出して」


「ボクたちの機体の調整をしていたら、空にクジラがたくさん出てきたからさ」


「セブンがなにかシタノカト」


 俺が原因といえば俺が原因か。


「それで佐七さん、これは一体どういうことなんですか?」


「クジラに友達を呼んでいいかと聞かれて、いいよと答えたらこうなった」


「次から次へと集まってくるね」


「ガンドラル中カラ集まってるノデハ?」


「佐七さん、すごい数になってきましたけど」


「まあ、危害を加えるつもりもないみたいだし、好きにさせて問題ないだろ」


『~~♪~~~♪』


「あはは。みんな歌を歌ってるみたいだ」


「みたいじゃなくて、歌ってるんだよ」


『~~♪~~♪』


「スゴイデスネ。クジラの大合唱」


「まさに異世界ですね」


 ああ、色々後で怒られそうだが。

 怒られるだけの価値はある景色だ。



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