第260話 正座と急展開

 さっきからデアさん達の視線が痛い。

 あの三人、何者だ?

 この視線は明らかに、戦いを生業にしているような人間のものなんだが。


「レシアさん、みなさん、こちらで少々お待ち下さい」


 別に何かしようってわけでも無さそうだし、まあ、いいか。


 それよりも……。



「あらためて、お帰りなさいませ旦那さま」


「待っておったぞ、我が夫よ」


「お帰りなさい、あなた」


「お帰りなさい、先生」


『お帰り、サシチ』


「なあなあ、兄貴。あのでっかいのはなんなんだ?」


 さあ、今日一番の大勝負だ。




 どうやら俺は敗戦の将となったようだ。


「旦那さまは相変わらずですね。あ、膝を崩してはいけませんよ」


「はあ。まあポピーが帰って来た辺りから、何かあるかと思っていたが」


「今度はクジラですか」


「働き手が増えるのは嬉しいのですが、それでも相談はしてほしいですね、先生」


『それより、あの女はどこ行ったのよ』


「クジラ、クジラかぁー」


 足が痺れてきた。

 反省させる時は正座ってのは竜族の作法なのかね?


「旦那さま、聞いていますか?」


「ああ、勿論だ」


「それで我が夫よ、どうするつもりだ?」


「いつものように、私達がお相手してしまってよろしいですか?」


「いや。どうやらあちらさんは、俺がお望みみたいだからな。細かい調整の段階からお願いすることになると思う」


「わかりました。ですが先生、ここからは私達もご一緒しますので」


『あの女を見張らないとね!』


「クジラって強いのか?」


 みんなついてくるのか……。

 大丈夫なのか?

 大丈夫だよな。




「デアさん、みなさん、お待たせしました」


「準備はできたのかい?」


「ええ、これからご案内させていただきます」


「それで後ろにいるのは……なんでこんなとこに狂戦士と凶壁がいるんだい!?」


 は?


「狂戦士、凶壁、私だよ。デアトリクスだ」


「な、デアトリクスだと!? では後ろの二人は」


「ああ、年食っちまって見た目は変わってるが、レプララアヌトとミシャナタジアだよ」


「確かに、言われてみると三人とも面影が」


「ふん、あんたらは相変わらず変わってないね」


「あれからまだ100年も経っていないからな」


 え?

 知り合い?


「そんな事より、あんた達こんなところで何してるんだい?」


「何と言われてもな。我が夫の村作りを支えているところだ」


「私も同じです」


「は? 夫? あんた達が? まさか、あんたらを娶る物好きな男がいたのかい!?」


「失礼な」


「そうですよ」


「生身で魔動機兵を殲滅できるような女を娶る男なんざ、物好き以外のなにものでもないだろ」


 まあ、もし友達の彼女がダンプカーを片手で粉砕する人だったら少し心配にはなるよな。

 夫婦喧嘩とか間違って簡単に殺されちゃいそうだしな。


「何か言ってやってくれ、我が夫よ」


「なんとか言ってやってくださいな、あなた」


「は? この二人の男ってのはあんたなのかい!?」


「ええ」


「竜二頭だけじゃ飽きたらず、狂戦士に凶壁もかい」


「というかなデアトリクス。その竜というのは狂竜アスクリスと焔竜ジスジャージルだぞ」


「あんた神々とでも一戦交えるつもりなのかい?」


「既に二柱ほど、倒されてますよ。しかも一柱を妻として娶っていますし」


「あっははははははは! あんた本当に阿呆だね」


 阿呆とは失礼だな。


「神をも越える男ってかい、気に入った! 私達はあんたのとこに降るよ」


 え?


「それとシアをあんたにくれてやる」


 は?

 なにこの急展開?

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