第259話 とある老婆の悪巧み

 

 こいつは傑作だ。

 本当にクジラと話をしてるのかい。

 あの男一体何者だい?


「デア」


「わかってるよ、ミジア」


「あれと話ができるとはね」


「レプト、判断するにはまだ早いよ」


 どう見ても会話をしてるようにしか見えない。

 だが、あれが本当かどうかなんて、わかりゃしないからね。


「レシアさん、許可をもらいましたのでクジラの背中に乗ってください」


 許可?

 許可ときたかい。


「わかった」


 シアめ、疑いもなく。

 いや、疑う必要がないのか。

 へんな男にたぶらかされないか心配していたが。

 まさか、こんな無茶苦茶な男を連れてくるとはね。


「デアばあ、ミジアさん、レプトさん」


「ああ、しっかり掴まってるから大丈夫だよ」


「レシアさん達も、行きます!」


「あいよ!」


 は?

 景色が変わった?

 何が?


「到着しました。あそこに浮かんでいる島が私の村です」


 あはははは。

 無茶苦茶だ、無茶苦茶過ぎて逆に疑う気持ちも萎えちまうよ。


「デアさん?」


「ヒダリのダンナ、島から何か。な、り、竜!? しかも二頭も!」


 今度は竜かい。

 もう何でもありだね。


「ああ、心配されずとも大丈夫ですよ。あれは私の妻ですから」


 は?


「つ、妻!? ヒダリのダンナの?」


 この男はなにを言ってるんだい?


「ええ。クリス、ジジ、ただいま」


『お帰りなさいませ、旦那さま』


『兄貴、このでかいのは?』


 今度は竜とも話すのかい?


「あー、全員お客様だ。二人ともお客様が怯えてる、下に降りて待っててくれないか」


『わかりました』


『わかった』


「身内がお騒がせしてしまい、申し訳ありません。では村のご案内をいたしますので、どうか私についてきてください」


 ま、まさか竜を目の前にして生きていられるとはね。

 長生きはするもんだ。

 危うく逝っちまうところだったが。


「ミジア、レプト生きてるかい?」


「なんとかね」


「危ない所だったけどね」


「あたしも、危うく逝っちまうところだったよ」


「それでどうする、デア」


「ここまで来たら、どうしようもないよミジア」


「じゃあ」


「ああ、レプト。着いていくしかないだろ」


 全く、シアめ。

 本当に面白い男を連れてきたもんだ。


「シア」


「なんだい、デアばあ」


「あんた、あのダンナに抱いてもらったのかい?」


「ぶっ。だ、だ、だ」


「ああ、もういいよ。それだけ見れば十分だ」


 はあ、予想通りか。

 魚取っ捕まえるのはあんなに熱心な癖に。

 それ以外はホントにサッパリだね。


「ひ、ヒダリのダンナとは、そ、そんな、関係じゃ」


「いつまでモソモソしてるんだい。もうその話はいいよ、村のみんなの予想通りだ。そんなにうまくやれるなら、いまだに男関係が皆無なはずないからね」


「な、ひど」


「文句があるなら、あのダンナを落としてみな」


「そんな、ヒダリのダンナをおと、落とすなんて」


 ふん。

 満更でもないくせに。

 この後の話次第じゃ、あんたにも頑張ってもらうからね。


「ミジア、レプト。気合い入れな! 久しぶりの大物だよ」


「わかってるよ」


「この年でこんな勝負ができるとはね」


 クジラに竜に空飛ぶ島。

 それらすべてを手中に収める男か。

 まさかこの年でここまでの相手に会えるとはね。


 さあ、あんたの器、どこまでのものか見せてもらうよ!

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