第258話 曳航

「そんなうまい話を信じろと?」


「デアばあ!」


「シア、あんたは黙ってな! これはこの村全体の話なんだ。そうホイホイと簡単に返事ができる話じゃないんだよ」


 まあ、そうなるよな。

 こっちは言葉以外、なにも提示していないからな。


「わかりました。どちらにしても、このクジラは私達の村に曳航します」


「なんだって?」


「このクジラを、ガウンティの空に置いておくことも出来ませんし。当人からも許可は貰っていますので」


「当人? 許可? なんの事だい?」


「詳しい話は省きますが、このクジラは意志も持っていて、会話も可能なのです。そしてこのクジラに確認したところ、私達の村に来ていただけるということになりまして」


「あんた何を言ってるんだい!?」


「まあ、信じられないのも無理はありませんが。そうですね、見てもらったほうか早いかも知れませんね」


 百聞は一見に如かずって言うしな。


「レシアさん、力を貸してください」


「あ、ああ。アタイはなにをすればいいんだい?」


「私がクジラを曳航しますので、レシアさんの機体を使ってデアさん達、村の有力者の方々にその様子を見学してもらってください」


「は?」


「わかったよ」


「シア? あんたまで」


「ああ、もし手に乗せるようなことをするのならば、おっしゃって下さい。私の方で、安全を確保するための対応をさせていただきますので」


「わかった。レヴァン!」


「シア?」


「デアばあ、言われた通りに。大丈夫、ヒダリのダンナがいるなら危ないことはないから」


「ああ! もう、わかったよ、シア。あんたの話に乗ってやるよ。ちょっと、誰か! ミジアとレプトを呼んできておくれ!」


 思慮深く、おもいきりもいい、情もある。

 俺がこんなこと言うのはおこがましいのかもしれんが。

 いい村長だな。




『さて、お待たせしました』


 しかし、まさかクジラが魔窟の亜種だったとは。

 酒の木といい、他にも枝分かれして色々いるのかもしれないな。


『おわったのかい?』


『ええ。それで申し訳ないのですが、あなたの背中に、あの機体を乗せてもらえないでしょうか?』


『あれはぼくのあたまに、とげをさしたこだね』


『その件については申し訳ありません』


『あはは。すこしいじわるをいってみただけさ。ぼくのせなかでよければ、どうぞ』


『ありがとうごさいます』


「レシアさん、許可をもらいましたのでクジラの背中に乗ってください」


「わかった」


『それでは跳びます』


『よろしくね』


 また勝手に色々やっちまったけど。

 まあ、なんとかなるさ。


「レシアさん達も、行きます!」


「あいよ!」

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