第256話 とある漁師の帰郷と混沌

 

「あ、シアねーちゃん」


「おや、ほんとだ。シアだ」


 ロナにデアばあ。


「デアばあ、みんな無事だったかい!?」


「ああ、なんとかな」


「怪我したりしたやつは?」


「安心しろ、みんなピンピンしておる」


 良かった。

 本当に良かった。


「いきなりクジラに飲まれたときは、どうなるかと思ったが」


「そうだ、村は大丈夫なのかい?」


「特に変化はないね。井戸から水も出るし、畑の作物もみんな無事だ」


 村にも特に変化はないみたいだね。

 空もあるし水もあって作物も育つ。

 でもここはクジラの中、いったいどういうことなんだい?


「そんなことよりもシア……」


「なんだい?」


「シアねーちゃん、男に抱っこされてる!」


 な!?


「あれだけ男っ気がなかったあんたが、いったいどういう風の吹き回しだい?」


「いや、これは、その」


「シアが男を連れてきたってのは本当かい?」


 な。

 お、男!?


「あれま、ロナの言う通りだ。こりゃ村のみんなに知らせないと」


「ちょ、セダル。待って」


 ああ、行っちまった。

 止めないと大変なことに。


「ねえねえ、シアねーちゃん」


「なんだいロナ?」


「その人とケッコンするの?」


 は!?


「な、ロナ何言ってるんだい!」


「でもデリサ姉もそうやってジアサを連れて帰ってきてたし」


「ち、違うんだよ。デリサとジアサの時とは」


「でもほかのお姉もそうやって男の人と帰ってくると、みんなケッコンするじゃない」


「いや、それはそうなんだけど」


「だからシアねーちゃんもケッコンするんでしょ?」


「そうなのかい、シア?」


 デアばあまで!?


「いや、違うんだよ。この人じゃなかった、この方は」


「あれま、このひとと来たかい。いやいやあのシアがねえ」


「だからデアばあ違うって」


「シア!」


「デリサ」


「あんた結婚したんだって?」


 へ?


「セダルが、シアが旦那を連れて帰ってきたって」


 セダル!?

 話を勝手に盛らないでおくれ!


「いや、アタイは」


「シア結婚したんだって? おめでとう」


「まさか無事に帰ってきたと思ったら、旦那つきとは」


「あのシアがねえ」


 あああああああああああ。

 次から次へと。

 ど、どうすりゃいいんだい。


 は!?

 しまった。

 ヒダリのダンナ。


 ってなんで笑ってるんだい!

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