第249話 とある漁師の感謝と混乱

 

 なんで不思議な顔してるんだい?


「? ああ、腕を持っていかれたのはアタイじゃないよ。アタイの乗る魔動機兵だ」


 また、言葉が足りなかったか。

 どうにも人に説明するのは苦手だ。

 そして今度は驚かれてるみたいだね。


「なんだい? 魔動機兵をおかしなことに使ってることに驚いたのかい?」


 この人も漁師が魔動機兵なんてって口かい?


「いえ、私の村でも魔動機兵が農業をやっていますし、素晴らしいことだと思いますよ」


 へ?

 あははは。

 アタイ達以外にも変わったやつがいるもんだ。


「農業! こいつはいい、アタイ以外にも魔動機兵を面白いことに使うやつがいるとはね」


「おほめ頂きありがとうございます。漁業での利用も素晴らしいことだと思いますよ」


 嬉しいこと言ってくれるじゃないか。


「ありがとうよ。っと話がそれたな。それで結局、奴には逃げられちまったんだが。それでも目印になるものは残せた可能性が高いんだよ」


「あなたの刺した銛ですか?」


「ああ、海にいる大型の魔獣用のやつを思いっきりぶっさしてやったから。ちょっとやそっとじゃ抜けないだろうし、抜けたとしてもそれなりの跡が残るはずだ」


 手応えはあった。

 あれがそんなに簡単に抜けるとは思えない。


「その目印があるクジラを討伐してほしいと」


「ああ。腕が取れなかったとしても、アタイじゃあれ以上はどうにもならない」


 アタイ達ができうる最高の銛でも、目印として残すのがやっと。

 とてもじゃないが、魔動機兵レヴァンだけじゃどうにもにらない。


「だが飲み込まれちまった村のみんなの仇は何とか取りたい」


 それでも奴は許せない。


「アタイのわがままだっていうのは十分承知だ、それでも」


 無理難題を言ってるって言うのはわかってる。

 自分勝手な言い分だって言うのも。

 それでも今はすがるしかないんだ。


「わかりました]


「!?」


 いま、なんて?


「良い結果をご報告できるかわかりませんが、やってみましょう」


「本当かい!?」


「ええ」


「すまない!」


「いえいえ」


 は、そう言えば!?


「こんなことを頼んでおきながら満足な報酬も用意できないし」


 アタイはたのむばっかりで肝心なことを。

 自分のおつむのできの悪さがホントに嫌になるよ。


「そこも気にされなくても大丈夫ですよ」


 そうはいかない。

 なにか、なにかあるはず。


「そうだ! こんな田舎女だけど下働きくらいはできるかもしれない、なんならどこかに売り飛ばしてくれてもいい」


 こんな無茶をお願いするんだ。

 男もよってこないような女だし。

 大したもんじゃないが、それなりの金か労働力くらいにはなるはずた!


「報酬はお気になさらなくても大丈夫ですよ」


「だけど」


 やっぱりアタイじゃ無理か。


「ああ、それとレシアさんは私にとっては十分魅力的ですよ」


「な!?」


 み、魅力的!?

 こ、ここの人は一体何を言ってるんだい。

 そ、そそそうさ。

 お、おおおお、世辞にきまってる。


 魅力的……。


 いやいやいやいや。


 落ち着けアタイ。

 今までの人生。

 ただの一度だって男がよってきたことなんかなかっただろ。


 落ち着きな。

 落ち着け、アタイ!


「レシアさん」


「……」


 それでも……。

 いやいやいやいや。


「レシアさん」


「は、ひゃい」


「クジラの逃げた方向を教えてもらえませんか?」


 そ、そうだ。

 クジラだクジラ。


 集中しろアタイ!

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