第237話 とある居候の心意気


「次は他国の商人か。ヘイゾウどう見る」


「女王陛下、私はただの居候ですよ。国の政に口を出すなど、とてもとても」


「ごちゃごちゃうるさい、今さらだろうが。黙って聞かれたことに答えろ」


「黙ると答えられませんが」


「今すぐ氷付けになりたいか?」


「はあ、わかりましたよ」


 ガンドラルの商人と護衛ね。

 聞いたこともない国だが。

 先代からの紹介だし、無下にはできないよなぁ。


「会わないという選択肢がない以上、会って話を聞いてみないことには」


「それしかないか」


「ですね」


「おい、この商人を通せ」


 うーむ、このツンケンしたのが二人きりだと……。


「ヘイゾウ、殺すぞ」


「私は何もしていませんが」


「お前の頭の中などお見通しだ」


 ……。


「今さら逃がさんからな」


「へいへい、そんなつもりは毛頭ございませんよ」


「ふん、わかっていればいい。その商人共をここへ」




 こいつら一体何者だ?

 なぜレーシャの氷の視線に耐えられる!

 それとも平静を装っているだけか?


「ガンドラル村の商人エヴラチゴラ・ネルバと申します」


「同じくガンドラル村のサベローシラ・ラダヤルと申します」


「うむ、二人ともおもてを上げよ」


 くそ、この二人の表情。

 耐えてるとか、平静を装うとかってレベルじゃねえな。

 全く効いてねえ。


「ガンドラル村か。すまぬが初めて聞く名前なのだが」


 よし、今のところ動揺は隠せているようだな。

 さすがは氷の女王ハイレイン四世。

 がんばれ、リーシャ。


「ごく最近できた村でして、女王陛下がご存じないのも当然かと」


 あの視線が効かないってことは、二人ともリーシャをはるかに凌ぐ実力者ってことだよな?

 商人と村の住人が?

 ありえねえ。


「なるほど新興の村か」


 ありえねえがリーシャの動揺を見るとありえねえことが起こってる。

 あいつは嘘なんざつけねえし、そもそもこんなことで俺を欺く必要もないからな。


「はい、ガウンティ王国のはるか南。帰らずの森のさらに奥にある浮き島を中心とした村でございます」


 な!?

 帰らずの森って、あの帰らずの森か?

 とんでもない強さの魔獣が跋扈していて、その奥には近づくことすら許されない狂竜アスクリスがいるっていう。


「な、なるほど。え、遠路はるばるようこそ」


 くそ、普通なら与太話で済ませられるが。

 こと今回においてはリーシャの視線のせいでこの話に信ぴょう性が出ちまった。

 リーシャの視線が効かない強者が本当に一商人だとしたら……


「女王陛下? 顔色が優れないようですが」


 まずいな。

 リーシャは見た目に反して基本的に小心者だからな。


「もうしわけない、陛下はどうやら体調がすぐれないようだ。代理として、私ヘイゾウ・ミノハタがお話を伺ってもよろしいか?」


「もちろんです。女王陛下の側近中の側近と言われるミノハタ殿ならば、陛下にもしっかりとお話を伝えていただけますでしょうし」


 よし、とりあえずリーシャは守れた。

 あとは俺次第ってところか?

 鬼が出るか蛇が出るか、やれる限りはやってやるさ。

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