第213話

『フオオオオオオオ』


 やっとすべての魔窟と魔塔の転移が終わった。

 これだけの大きさのものを七回。

 精神的に結構大変だった。


『ムォオアアアアア』


『ウォォォォオオオ』


 自画自賛じゃないが、目的地にこれだけピッタリ移せたってのは俺の魔法も中々なもんだな。

 建物どころかこれだけの大きさが行けたんだ。

 次の目標は大陸は厳しそうだし島あたりか?


「なあ、村長」


『オアアアアアアア』


「どうした? サベロー」


『ウワァァァァアア』


「少し、いや、かなりうるさくないか?」


『新天地イイィィィ』


「かなりうるさいな」


 人が折角逃避してたのに、現実に引き戻すなよ。

 魔窟も魔塔もテンション高すぎだろ!


「これ、このままだと誰も寄り付かないぞ」


「そうだな、パンナートさんにも言われたな」


 叫び声が、こだまし続ける街とか嫌すぎるわ。


「どうするんだよ」


「どうするかな」


 本当にどうするかな?

 とりあえず……。


「おい、なにしてんだよ村長」


「なにって、昼飯の準備だよ」


「この状況でか!?」


「この状況でだよ」


「なに考えてんだ?」


「なにも考えられないからだよ」


 そんなにポンポン解決策が出てくるかよ。

 というか、魔窟も魔塔も話したときは、落ち着いた年配みたいだっからな。

 こんなことになるとは予想もできんかったわ!


「サベローの分もあるから、そこに座って一緒に食べろよ」


「はあ、わかったよ」


「ほらよ」


「これは?」


「サンドイッチ」


「?」


 サベロー、食い物に興味なさすぎるんじゃねーのか?

 おんなじようなもん、こっちの世界でもよく見かけるぞ。

 一体どんな食生活してんだよ。


「爺さんが焼いた角パンに、肉やら野菜やらを挟んで軽く調味料で味付けした料理だよ」


「へー、詳しいな。もしかして村長が作ったのか?」


「作ったってほどでもないけどな」


「いやいや、これだけできれば十分だ。家なんて塩ゆでの野菜とかそのままの野菜とかだからな」


 ……。

 大丈夫なのかサベロー一家。


「それじゃあ、早速一つ頂くか」


「おう、食べろ食べろ」


「……」


「どうした? 口に合わなかったか?」


 普段は野菜の塩ゆでとか、野菜そのままとか、言ってたからな。

 もしかして種族的にそういうのじゃないと駄目だったか?


「うめえぇぇぇぇぇぇ! うめえぞ、村長!」


「お、おう。そうか、喜んでもらえてるようで何よりだ」


 サベローのテンションまで上がってしまった……。


「なんだこれ? パンに肉や野菜挟んだだけでこんなに旨くなるのか!?」


「あ、ああ。それな、俺のスキルのお陰もあってだな」


「料理のスキルがあったのか?」


「いや、料理のスキルとはちょっと違うな。味付けなんかの適度な分量調整とか素材を適度な大きさに出来るって感じだな」


「これだけ旨いもの作れるなんざ凄、いスキルだな」


「うーん、どうたろな? こういう時くらいしか使わんからな」


「なんにしても、今この瞬間は俺の中でトップクラスのすげえスキルだぜ」


「ははは、ありがとよ」


『ソレハソンナニ美味ナノカ?』


 おおう!?

 いつの間にこっちの話聞いてたんだ。

 食い物に興味を示すってことは食事もできるのか?


『良ければ一ついかがですか? 味の保証はしかねますが』


『良イノカ?』


『ええ、どうぞ』


『ナラバ入リ口ノ所ニ、一ツオイテクレ』


 言葉を発していたから口だとは思っていたが、食事もとれるのか。


『どうぞ』


『スマンナ』


 おお、サンドイッチが消えた!


『……』


『お口にあいませんでしたか?』


 魔窟や魔塔の好みなんかさっぱりわからんからな。

 口に合わなくてもどうにもできんぞ。


『旨オアアアアアイ!』


 ……。


『ム、何事ダ』


『ワ、我ニモヨコスノダ』


「……。 おい、村長」


『コ、コレハァァァァアア』


『ウォォォォォオオオ』


「なんだよ」


「さらにうるさくなったぞ」


「知ってるよ、今ものすごく後悔してるとこだよ」


 あれだな、うん。

 もう、時間が解決してくれることに期待だな。

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