第209話 ダチキッシュの決意

 

「あれは子ども?」


 奴等一体なにをするつもりだ?


「何人かいるようです、なにをするつもりでしょうか」


「このような場だ。まともな事ではないだろうことは、貴様でも想像がつくだろう、ゼンムッサ」


「そうでしょうね。奴等、城攻めが上手くいっていないことにしびれを切らしたようですね」


 しかし、子どもをつかうか。

 街一つ消し飛ばそうとした私が言うのも難だが……。

 手段としてはあまり気分が良いものではないな。


「あのような幼い者達を戦場で利用するとは!」


 特にゼンムッサのような者達にとってはな。

 地方貴族達を上手く陽動したの上手かったが、その手はお堅い軍人共相手では悪手だぞ、協会。


「なにか出てきたようだな、あれはなんだ?」


 何かの魔方具か?


「ノーゼノン帝国帝都におられる探索者の皆さん」


 ここまで声が届くか。

 あれは声を大きくする魔方具のようだな。

 それにしても探索者への呼びかけ、なにをするつもりだ?


「協会は、皆様が協会の意思に反し、帝国に肩入れしていると判断しました」


 協会の連中は阿呆か?

 ただ仕事で来ている連中に、何を言っている。


「もし、協会へ反抗の意志が無いと言うのであれば、直ちに帝都の城門を開けるよう協力してください」


 違うな、これは……焦りか?

 こんな幼稚とも言えないような手段を取ってまで、魔窟や魔塔を手にいれようとするとは。

 私が予想していた以上に、ここの協会支部の状況は悪いということか。


「まずはこの子からです。帝都の門が開くまで、指を折り、目鼻を潰し、手足を切り落としていきましょう!」


 か、体が!?

 汗と震えが止まらん?

 なんだこれは!?


「ではまずは指かピゃ」


 !?

 阿呆が消えた?


「あー、これは終わったな」


 サベローシラ。

 こいつは平気なのか?


「サベロー、この子達を守れ」


 いつの間に!?

 しかもこの子ども達は、先程の。

 どういうことだ!?


「わかりました村長。この命に代えても」


「たのむ」


 き、消えた!?

 何処に行った?


「ダチキッシュ皇帝、ゼンムッサ様、お二人とも大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫とは言えんな。体は幾分ましになったが汗と震えが止まらん」


「村長の怒気をくらってまともに話ができるだけでも、十分凄いですよ」


「世辞はいらん。それよりもどういうことだ?」


「外の連中がうちの村長の怒りを買った、ただそれだけです」


「だ、ダチキッシュ様あれを」


 帝都を囲んでいる連中が消されていく。

 まるで我が軍のようだな。

 まあ、消された規模はあの程度ではないがな。


「こ、これは一体」


「ゼンムッサ。あれが貴様が馬の骨と評価し、私が降ろうとしている相手だ」


「これが……」


 そうだ、ゼンムッサよく見ろ。

 あれが私達が向かい合わなくてはならない現実だ。

 伝説でも言い伝えでもない、現実として存在する圧倒的な存在。

 我らが、なにかをどうにかできる余地が一切ない相手だ。


「申し訳ありません、サベロー殿でよろしかったでしょうか」


「どうかしましたか、ゼンムッサ様」


「彼、いや、あのお方は何にお怒りに? 私には子どもに危害を加えようとしたことに、お怒りになったとしか思えないのですが」


「ええ、その通りですよ。この子達に、危害を加えようとしたことに激怒したのでしょうね」


「この子達は、あのお方のお知り合いなのでしょうか?」


「いえ、違います」


「ではなぜあそこまで」


「村長は子どもを大切にされますから」


「は? それだけですか?」


「それだけですね。まあ、本音は細かい理由等なく、あの行為が単純に気に入らなかっただけだと思いますがね」


「他に理由はないと?」


「今回に関しては無いでしょうね。というかうちの村長は、あまり腹芸は得意ではないですよ」


「ふはははは」


 ゼンムッサ?


「ダチキッシュ様、貴方の判断はやはり素晴らしい!」


「どうした、ゼンムッサ」


「あの力、確かに我らがどうにかできる御仁ではございません。であればそこに降るという選択は、あの力から民を守る一番の方法かと」


 ゼンムッサ?

 先程の奴の怒気でものわかりがよくなったのか?


「子どもを大切にし、その命を蔑ろにするものに怒る。なかなか愉快なお方ではないですか」


 ああ。

 頭の中の筋肉に響いただけか。


「ではヒダリ殿に降る話、進めるぞ」


「はっ。 良い結果を期待しております」


 外の連中は片がついたようだな。

 ならば次は奴が言っていた交渉担当のお目見えか。


 民のための戦い、勝利して見せねばな!

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