第208話 ダチキッシュの苦悩

 

 うるさいやつが出てきたな。


「ゼンムッサ、何事だ」


「ダチキッシュ様。このような、何処の馬の骨かもわからんような輩に降るとは何事ですか!」


 誰だ、ゼンムッサに教えたのは。

 面倒を避けるために、こいつにはわからないように事を進めていたというのに。


「控えろゼンムッサ。客人に対して失礼だぞ」


「いいえ、控えません! 例えこの場で打ち首になろうとも、私は帝国を守り抜く所存です!」


 忠誠心の高さは認めるが、やはりこういった場面でば鬱陶しいな。


「反対する人もいるみたいだし、この話はなかったと言うことに」


 まとまりかけた話を。

 ゼンムッサめ!


「いや、こいつは一家臣の戯れ言だ。気にするな」


「な、なんと。歴代の皇帝の中でも一、二を争う先見性をお持ちの方が! そこまでして、このお話を進めたいと仰るのですか!?」


 はあ。

 名誉やらを重んじるのは構わん。

 だが名誉だけで民達の腹は膨れはしない。


「ゼンムッサ。貴様の忠誠心はありがたい、だが現実を見ろ」


「ダチキッシュ様」


「私達が戦を仕掛けることになった理由を、まさか貴様ほどの者が忘れたとは言わんよな?」


「それはもちろん存じております」


「ならば貴様とてわかっているのだろう? たとえ城を囲んでいる奴等を奴退けたところで、この国が追い込まれている事実は変わらんということを」


「……」


 はあ、わかっていてもか。

 どうにもならんな。


「おい、皇帝。話が見えないぞ」


「簡単なことだ。先の戦はな、民達の腹を満たしてやるためだったと言うことだ」


「魔窟に魔塔。それに帝国と名乗るくらいだ、それなりの領地もあったんじゃないのか?」


「ふん、魔窟や魔塔からの利益など微々たる物。多くは協会や買い取り業者の懐の中だ」


「それにしたって、税をとるなりやり方もあるだろう」


「ふん、税か。奴等にかけられる税など微々たる物だ。なにせ協会の窓口がなければ、魔窟や魔塔の獲物を換金する手段がないからな」


「不当に安い税をも飲まなきゃ無理ってことか」


「そうだ、換金できない獲物を取りに来る探索者など多くはないからな」


 撤退をちらつかせ、言い値で納める税金の額まで決めててきたからな。

 本当に胸くその悪い連中だ。


「そいつら相手の商売だってできただろう?」


「ふん。一等地に店を構えて繁盛している店の大半が。協会と買い取り業者が外から連れてきた連中だ」


「おいおい、美味しい所はほぼ外部にもっていかれてるってことか?」


「ああ」


 本当に悔しいが、その通りだ。


「いくら立場の話があったとしても、よくそんな契約を認めたな」


「認めたのは私では無い! もう何代も前の阿呆な皇帝が、国のことなど考えもせずに結んだだけだ」


 阿呆続きの皇帝達のせいで、私がどれだけ苦労しているか!


「それにな、領地が広くても食料が多いとは限らんのだ」


「どういうことだ?」


「大きな穀倉地帯は全て地方貴族の領地でな」


「地方貴族から税収はどうなっている? 物納という形ならばそれなりに集めることも可能じゃないのか?」


「納めさせてはいるさ。だがな納めている量が尋常じゃないほど少ない」


「?」


「税収の査定にいく奴等が、決まった一族で固められていてな」


「そいつらに賄賂を送ればってことか?」


「その通りだ。そいつらが中央の有力貴族や皇帝に貢ものを捧げて、その地位を確固たるものにしていてな。文句を言うやつもいなかった」


「よくそれで国が回ったな」


「回ってなどいないさ。私が皇帝になったときには、既にこの国は限界だった」


「だからこそのガウンティへの遠征か」


「ああ、民を食わせるためには新たな収入源が必要だった」


 あれだけの力を得たんだ。

 野心が無いわけではなかったがな。


「そして遠征失敗の穴埋めのために、うちへ降るってことか」


「そういうことだ」


 まあ、もちろんそれだけでは無いがな。


「はあ、俺としては同情の余地があるような気もするが……。兎に角これから来る二人を説得してくれ。それ以上の話はそれからだ」


 ふむ、なんとかゼンムッサの失点は取り返したか。

 ゼンムッサ、これ以上無駄なことを言うなよ。

 本当に貴様の首を、はねなければならなくなるからな。


「ダチキッシュ様!」


 くそ、頼むゼンムッサ。


「あれを! 奴等城壁の前でなにかをするつもりのようです!」


 のようだな。

 しかしあれは一体?


「あれは子ども?」


 奴等一体なにをするつもりだ?

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