第210話 サベローの新人歓迎

 

「何かする前に相談はしてほしかったな、我が夫よ」


「せめて最初から一緒に連れていっていただけていれば、また違ったのですが」


 まあ、そうだな。

 ナルディスナ様かレイラ様には相談しておくべきだったな。


「すまない、少しやり過ぎた」


 少し?

 数千の軍勢を消滅させるのは、少しとは言わねーよ。


「まあ、過ぎてしまったことを、これ以上言っても仕方がないか」


 いや、ナルディスナ様。

 一部に問題行動があったとはいえ、数千の軍勢が文字通り消滅しているのですが。

 過ぎたことで済まされる話ではないかなと。


「そうですね。それにこういう時の為に私達がいるのですし」


 ちょ、レイラ様。

 そうですねって。

 村長に甘過ぎでは?


「二人とも本当に申し訳ない」


「いや、いいさ。我が夫よ、結果としてまた領地が増えたのだし」


「あなたが暴れたのは、あの子達が理由なのでしょう?」


「ああ」


 村長にしては珍しい、本当に申し訳なさそうだ。

 子どもを守ったってのは誉められるんだが、全軍を消滅はやり過ぎだよな。

 ここを攻めようとしてた連中は、自分何処の軍勢が全滅した報告も受けられないんじゃないのか?


「ならかまわんさ。我が夫よ、信念に基づいた行動だ我は否定せんよ」


「私もあなたの行動を支持します」


「ナディ、レイラさん」


 ……いや。

 奥方さま?


「凶壁が言ったであろう、こういうときの為に我らがいると」


「狂戦士の言うとおりです。あなたは思うままに行動してください。あなたがあなたの信念に従って動いている限り、私達があなたを支えます」


 いや、ちょっと。

 少しは村長に反省させてくださいよ。

 支えますじゃないですよ。

 明らかにやりすぎでしょ?


 後、お互いの呼び名が凶壁と狂戦士って。

 ダチキッシュ皇帝とゼンムッサさんが若干引いてますよ。

 自重してくださいよ。


「二人ともありがとう」


 おい、村長。

 ありがとうじゃねえよ。

 なにスッキリした顔してんだよ。

 お前はもう少し、いやかなり反省してろよ。


 これか!

 これが村長の数々の行動の原因なのか!

 奥方さま達がこうやって村長を甘やかすから。


「それでダチキッシュと言ったか。ガンドラルに降ると?」


 え?

 おしまいですか?

 あの話。


「ああ、ノーゼノン帝国はガンドラルに降る」


 いや、ダチキッシュ皇帝。

 あんた、明らかにこれでいいのか?って顔してるじゃねぇか。

 何事もなかったように会話に入るなよ。


「ふむ、凶壁どう思う?」


「流石に野心は完全に折られているようですね」


 あの怒気を浴びて、その後にこれだからな。

 下手うったらあれが自分達に向くんだぞ、野心なんざ消し飛ぶわな。

 そして何よりも、数千の軍勢が消滅したことを気にもかけず、淡々と話を進める奥方さま達は恐怖以外のなにものでもないだろ。


「ふん。あれを見て対抗できるなどと思えるほどの阿呆に、私はなれんからな」


 だよな。


「どうやら上手く話がまとまりそうだな」


 上手くまとまりそうだな、じゃねえよ、村長。

 なんで綺麗にまとめてんだよ。

 もう少し反省してろよ。


「後は我と凶壁、ダチキッシュ皇帝で話を進めよう」


「そうですね、あなたは当初の目的地に向かってください」


「わかった、よろしくたのむ」


「任せておけ」


「まかされました」


 ああ、ダチキッシュ皇帝、ゼンムッサさん。

 あんた達のその表情は間違っちゃいない。

 だがこれがガンドラルだ。


 ようこそ、非常識極まりない世界へ。

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