第201話 ソシエルの闘い

 

 サシチさんは酒の木の王と話をしているようね。

 まさか、本当にお酒の木と会話ができるとは。


「セフィ、サシチさんは一体何者なのですか?」


「何者と言われましても」


「セフィ、サシチさんのやっていることの意味を理解している?」


「お酒の木と会話ができるのは驚きですよね」


 やっぱりねぇ。


「そうね、セフィはあまりこちらの仕事に関わっていないものね。しょうがないかしら」


 木を枯らす。

 木を吹き飛ばす。

 セフィはお酒関係の作業は本当に不向きだったものねぇ。


「サシチさんは私達一族どころか、この世界中の誰もがなし得ないことをやっているのですよ」


「ですからお酒の木との会話ですよね?」


「確かに会話ができていることにも驚いたわ。でもね、お酒の木の王の前に立っていることが何よりも凄いことなのよ」


「?」


「あそこにたどり着くことはね、竜や女神の眷属にもできなかったことなの」


 色々なお酒好きが返り討ちにあってきたの。


「お酒好きな竜や女神の眷属が、サシチさんと同じようなことをしようとして、みな失敗しているのよ」


「あの母様」


「何かしら?」


「ヒダリ様は神代竜や女神を一撃で仕留めるお方ですし、並みの竜や眷属と比べられましても……」


 え?


「神代竜と女神さまを仕留める?」


「はい、どちらもこの目で確認しました」


「ならば彼は神をも凌ぐ存在だと?」


「多分。神代竜や女神様もそう仰っていましたし」


「……」


 まさか。

 いえ、セフィのこの顔は全く嘘を言っていない。


「ということは本当なのでしょうね」


 普通という枠に収まる方とは思わなかったけど、まさかここまでとは。


「女神以上とはね。セフィ、貴女は本当にとんでもない方を選び見初められたのですね」


「……」


 セフィ、さっきのことを思い出したのかしら。

 確かにあれはなかなか情熱的だったわね。


「そ、それよりも母様、サシチ様が戻ってこられたようですよ」


「本当ね。あら? 手に何かもっているわね」


 両手にもっているのはグラスかしら?


「お二人ともお待たせしました」


「お帰りなさいませ、サシチ様。お話はうまくいきましたか?」


「ああ、かなりの収穫だ。何本かの酒の木が、うちの村へ移住してくれるそうだ」


「それは良かったですね」


「ああ、一時はどうなるかと思ったが。これもセフィのお陰だ、ありがとう」


 素敵な笑顔ですこと。

 セフィも嬉しそう。


「それとな、これは二人にお土産だ」


 先ほどのグラス?

 中は金色の液体?


「まあ、飲んでみてくれ」


 これって、まさか!?


「あの、サシチさん、これってもしかして……」


「ええ、お義母さんの予想通りですよ」


「ま、ほ、本当に?」


 信じられない!

 これを口にできる日が来るなんて。


 ……。

 …………。

 ………………な。


「なんという美味。これが王のお酒……」


「どうですか?」


「サシチさん、素晴らしいものをありがとうございます」


 あら?

 この挑発的な笑み。

 サシチさん、何を考えているのかしら?


「お義母さん、いえあえて名前で呼ばせていただきます。ソシエルさん、この酒を超えるものを作ってみませんか?」


「まさか、それを言うために私にこの一杯を?」


「ええ」


 あの笑みはそういうことなのね。

 その挑戦、受けてたちましょう。


「ふふ、わかりました。是非ともよろしくお願いいたします、サシチさん。これからは私のことは名前で呼んで下さいね」


 共に闘う仲間ですからね。


「わかりました。これからもよろしくお願いいたします、ソシエルさん」


 ふふふ。

 楽しい日々が始まりそう!

 でも、その前にもう一杯もらえないかしらね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る