第197話

 しかし、変わってる木だよな。


「この木の育成や栽培等もされているのですか?」


「もちろんだ。あの木はマーグが育てている木だ」


「マーグ?」


「ああ、そうか。あいつは自己紹介もしていなかったか。あそこで飛び回っているのがマーグことマーグガルだ」


 そういや、自己紹介されてなかったな。

 お義兄さん、マーグガルっていうのか。

 最初から義兄と呼ぶようにしか言われなかったからな。


「それで育てるとは、どのようなことをしているのですか?」


「先ほどあの木は獲物を捕らえて、魔力を吸収すると言っただろう」


「はい」


「あの木は食らいついて獲物の魔力を吸う以外にも、地中の根を魔方陣のように配置させていてな」


 根で魔法陣つくるとか、器用なことする木だな。


「それなりの範囲の広さの魔方陣でな、上にいる生物すべてから微量に魔力を吸収しているのだ」


 微量の魔力を吸収か。

 魔窟や魔塔みたいな感じなのかね。


「そして吸収する魔力というのが重要でな。魔力の属性や質が酒の味に大きく影響するのだ」


 酒の味に魔力が影響ねぇ。

 吸った魔力を酒に変換させる上で、何らかの関連があるってことだよな。

 もしかしたら魔力そのものにも味があるのかね?

 酒の木、面白い植物だな。


「マーグの仕事は魔力の供給と、余計な魔力が混ざらないように、他の生物があの木に近づかないようにすることだ」


「均質で同じ属性の魔力を与え続けていると」


「そうだ。吸収する魔力にばらつきがでると、味に雑味が混じりやすいからな」


「なるほど」


 やはり魔力によって、味に近いなにかがあるみたいだな。

 ということは上手く混ぜ合わせることで、新しい味も作れるそうだ。


「お義父さん、素人がこのような質問をすると失礼に当たるかもしれませんが」


「む? なんだ? 気にせず聞いてみろ」


「ありがとうございます。先ほどの雑味の話なのですが」


「どうかしたか?」


「色々な魔力を混ぜ合わせて、新しい味を作ることも可能なのでは?」


 分量やら質やら属性やら、色々実験しないことにはどうにもならなさそうだけどな。


「ほう、なぜその事を?」


 いきなり殺気かよ。

 企業秘密だったか?


「私の故郷でも複数を混ぜ合わせて、新しい味を作るという飲み物があったので」


 コーヒーやらワインやらカクテルやらな。


「ふむ、それを信じろと?」


「いえ、別に。信じる信じないはお任せします」


「ほう、では娘のことも諦めると?」


「なぜそうなるのかわかりませんが、そのつもりはありません」


「そのような怪しげな輩に、娘をやるわけにはいかんからな」


 はあ。

 駆け引きなのか本気なのか。


「グディーダムさんがなにを仰りたいのかわかりませんが、私はセフィをもらった覚えはありませんが?」


「なに!?」


「私はセフィと一生を共に添い遂げるだけです。勿論、彼女にその気があればですが」


「何を言っている?」


「セフィが本気で断らないかぎり、私からセフィの手を離すつもりはない、ということですよ」


「甘いな、そのよ、ぐぅ」


「あなたが何をどうしたいのかわかりませんが、私にも私の想いというものがありますので」


 さすがにこのまま、首を折るわけにもいかないよなぁ。

 セフィの家族だし、仲良くやれたらよかったんだけどな。

 これ以上揉め事が大きくなる前に退散かね。


「それではこの辺りで失礼させてます」


 木が生えているのはこかだけではないだろうしな。

 後はナセルリナさんにでも相談してみるかね。


「お酒の木に関してはありがとうございます。よい勉強になりました」


 うーん、俺もまだまだガキだね。

 無駄に熱くなっちまったよ。


 さて、セフィに謝ってこないとな。

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