第196話
まさか、また妻の家族をぶん殴る羽目になるとは……。
「なるほど、サシチ君は酒の採取現場が見たいと」
そしてぶん殴ったから、認めらるとか。
もう、なんなんだろうね、この世界。
まさか、これが普通じゃないよな?
「他ならぬセフィの夫の願いとあっては、聞かぬ訳にはいかんな」
「ありがとうごさいます、グディーダムさん」
「……」
はぁ。
「ありがとうごさいます。お義父さん」
「うむうむ」
「機嫌よさそうね、グディ」
「そりゃあな。最愛の娘がこれ程の男を連れて来たのだぞ。しかも我が家業に興味を持ってくれているんだ」
「では俺が先導してやろう。ついてこい、義弟よ!」
この高めのテンションは随時なのかね。
楽しいっちゃ楽しいんだけどな。
若干暑苦しい。
「ワハハハ、私の方がはるかに早いぞ!」
「くそ、負けるかぁ! 待ちやがれ、親父ぃ!」
若干じゃないな。
普通に暑苦しいわ。
「さ、サシチ君、こ、ここが、酒の、さ、採取場所だ」
「こ、これから、お、俺達が、採取する、所を見せてやる」
二人とも仕事の前に息あがってるじゃねーか。
移動にどんだけ力つかってんだよ……。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。いつも、の、ことだ」
いつもこれなのかよ。
仕事への取り組み方として、否定はしない。
否定はしないが、もう少しなんとかなんないのかね?
「よし、
もつって。
クディーダムさん、噛んじゃってるじゃねーか。
まだ大丈夫じゃないと思うぞ。
「いいか義弟! あそこに見えるのが酒の木だ」
あの二メートルくらいの高さの木か。
一つだけぶら下がってる、でかいボールみたいのが酒の実かね?
「見ていろ、酒の採取とはこうするんだ!」
あのツボみたいのに酒をいれるのか。
実の真下でホバリング?
わざわざ宙に浮かなくても採取できそうだが。
「サシチ君、なんでわざわざ宙にと思うだろ?」
「ええ、あの高さでしたら、宙に浮かずとも採取できそうですが」
「それはな」
?
小石?
「こういうことなのだよ!」
実の真下に?
蔓が!
「うおっ。親父、何しやがる!」
「なに、サシチ君に酒の採取時の危険性を、伝えていただけだ」
「俺で実演するなよ! 危ねぇだろ!」
「お前なら蔓に捕まっても、そうそう死ぬこともないだろう」
「まあ、そんなやわな鍛え方はしてないからな」
「だろう、細かいことで一々騒ぐな」
「それもそうだな」
……。
うん、まあ、もいいや。
多分、この人達はいつもこんな感じなんだろう。
「あの蔓に捕まると地中に隠されてるやつの口がでてきて、食いつかれてな、魔力を吸われてしまうんだ」
なるほどね。
地面に滴り落ちた酒で獲物を呼び寄せる。
飲みに来た、魔獣なんかを捕食してるってことね。
「あの木は地面の振動で獲物を判断していてな」
「だから宙に浮きながらの採取なんですね」
「そうだ。それなりに理由があるのだよ」
うん、それはいいんだけど……。
お義兄さんが襲われっぱなしなんだよな。
なんか色々とんでもないな、酒あつめ。
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