第198話

「なるほど、わかりました」


 ことの成り行きを説明させてもらったが、ソシエルさんは冷静というかあまり反応なしか。


「そういう訳で、セフィ本当に申し訳ない」


「いえ、お気になさらないで下さい。話を聞いた限りでは、サシチ様に落ち度があるようにも思えません」


 落ち度が無くはないんだが。

 たが、殺気を飛ばされた上に絡まれる筋合いもないしな。


「サシチさん、少々失礼しますね」


「はい」


 やはりソシエルさんには、思うところがありそうだな。


「あの、サシチ様。父様が申し訳ありません」


「いや、こっちこそ申し訳ない」


 こういう不安な顔はさせたくないんだよ。

 俺も本当にまだまだ未熟だ。


「セフィル・グラセフル」


 唐突過ぎる気もするが。

 それでも想いは伝えないと、伝わらんからな。


「は、はいっ」


 ここで片膝つくのはこっちの世界でも意味あるのかわからんが。

 俺これしかわからんし。


「私、サシチ・ヒダリはあなたがその手をはなせと言うまで、あなたの側にありたいと願っています。御許しいただけますでしょうか?」


「……」


 涙?


「はいっ、はいっ、はい!」


 うおっと。

 手をとられると思ったら、本人が飛んできた。


「ずっと、ずっと側にいてください」


 嬉し涙でいいのかな?

 なら問題ないだろ。


「あらあらあら、ちょっと席をはずしている間に。セフィったら殿方の唇を奪うなんて、なかなか情熱的ね」


 あ。


「母様、いつからそこに!?」


「サシチさんが跪いたあたりかしら?」


 最初からかよ!


「セフィ、どうやら素敵な旦那様を見つけたようね。その手を離さないよう貴女も精進なさい」


「はい!」


「そしてサシチさん、娘をよろしくね」


「はい、この命に変えても」


「あらあら、見かけによらず情熱的なのね」


 そうか?

 惚れた晴れたなんざ、そんなもんだろ。


「それと、サシチさん。貴方を慕っている他の子達にもしっかりと想いを伝えてあげてね」


「母様にはみんなのことを伝えました」


「貴方の器なら多分大丈夫なのでしょう。貴方もセフィを含め貴方を慕う方達のために精進してくださいね」


「はい」


 ソシエルさんには、取り敢えず認めてもらえたと思っていいのかね。

 今後の努力も期待しての評価だろうけど。

 目の前であそこまで言っちまったんだし、期待に応えられる努力はしていかないとな。


「それで母様、その荷物は一体」


「ああ、これね。私も貴女達に着いていこうかと思って」


 え?


「だって、空に浮かぶ島なんて素敵じゃない?」


「母様?」


「サシチさん、貴方お酒の木がほしいのでは?」


「それは勿論ですが」


「お酒の木の手入れは、初めての方が楽にできるほど簡単ではありませんよ。その点だけでも私はお役にたてると思うけど」


 そりゃ、わかってる職人が側にいてくれるのは助かるが。


「それにお酒の木は簡単に買ったりも難しいの」


「市場には出回っていないと」


「そうね、少なくとも成木は無理ね。苗木だってほとんど出回っていないと思うわ」


 成木は無理なのはしょうがない。

 あんなもん普通に運ぶのは無理だろうな。

 しかし苗木も厳しいのか。


「私なら、苗木を見つけるお手伝いもできるのだけれど」


「セフィ」


「サシチ様、母様は父様や兄様をはるかに越える職人です」


 マジかよ。

 だが……。

 あれ?

 よく考えたら、断る理由もないよな。


「セフィは問題ないか?」


「母様が協力してくれるのなら、私も嬉しいですよ」


 セフィが問題ないなら、問題なしだな。


「ソシエルさん、よろしくお願いいたします」


「……」


 やっぱり、この呼び方はだめなのな。


「よろしくお願いいたします、お義母さん」


「はい、こちらこそ」


 雨降って地固まる。

 って感じなのかね?

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