第177話 とある孤児の幸せの予感

 

「みんな集まったかな?」


「ナノン様。全員、集まっているようです」


 凄い!

 狼さん、もう私達全員を覚えてるの?


「それでは今から皆さんに、お風呂の使い方を覚えてもらいます」


 お風呂?

 え?

 お風呂ってあのお風呂!?


「女性はみなナノン様について下さい、男性は私と一緒です」


 え?

 もしかして男女で別々にお風呂があるの!?


「それでは女の子は私達と一緒に行きましょうか」


 ナノン様とモフモフの人達が先に歩いていく。


「大丈夫、ただのお風呂だから。みんな早くいらっしゃい」


 ただのお風呂って……。

 お風呂自体がただ事じゃないんだけど。


「ここが脱衣場といって着ているものを脱ぐところです。脱いだ物はここにある棚の中の籠にそれぞれしまってください」


 たしかに籠が入ってる。

 ここに服を入れるのね。


「自分の着ているものをしまった場所を忘れないようにね」


 えーと、あ、棚に番号が書いてある。

 私の服を置いた場所は17ね。


「着ているものを脱いだ子は、こっちへ」


 こっちでいいのかな。


「この扉のむこうがお風呂になっていますが、お風呂にはいる前の注意事項です。まずお風呂に入る前に石鹸で体と頭を洗ってください」


 石鹸?

 石鹸を使ってもいいの?


「石鹸はこのような入れ物に入れて三種類置いてあります。この入れ物の頭を押すと石鹸が出てきますのでそれで頭や体を洗ってください」


 三種類?

 三種類もあるの?


「入れ物それぞれに体の絵、青い下地に白い頭の絵、赤の下地に白い頭の絵が書かれています」


 ほんとうだ、石鹸の入れ物に絵が書いてある。


「体の絵が書いてある石鹸で体を洗い、青い下地に白い頭の絵が書いてあるもので頭を洗ってください」


 なるほど。

 石鹸にも色々あるのね。

 あれ?

 じゃあもう一つはななに使うんだろ?


「最後にこの赤い下地に白い頭の絵が書いてあるものは、髪の質を整えるものです。頭を洗い終わった後に、髪に満遍なく馴染ませて、髪を洗ってください」


 髪の質を整えるものってなに??

 まあ、いいか。

 とにかく青いので頭を洗ってから赤いのを髪に馴染ませて洗う。

 よし、覚えたわ。


「説明はここまでです。みんなお風呂を楽しんで」


 あれ?

 誰もいかないの?

 ナノン様が困ってる。

 なら私が最初に!


「……」


 これがお風呂……。

 この大きな囲いの中が全部お湯なの!?

 あっ、シャワーがある。

 あっちが体を洗うところかな?


「イーリヤ……」


「アニア、凄い、凄いよ! 早くおいでよ!」


「ほんと……? わぁぁあ! なにこれ!? これ全部お湯なの!?」


「あはは、凄いでしょ?」


 あ、ナノン様。


「はい、これがお風呂なんですね。私初めて見ました!」


「あー、うん。まあ、ね。ここまで立派なお風呂はあんまりないんだけど。何故かお風呂に物凄くこだわる人が多くてね」


 ?


「気にしないで、ほら体を綺麗にしてお風呂に入ってきなさい。みんなもいつまでも入り口で固まっていないで、中に入って」


「はーい!」




 お風呂凄かった………。

 あの体を洗う石鹸も凄かった。


 でもそれ以上にあの髪の毛を洗うやつ!

 そしてあの髪の毛の質を整えるやつ!

 髪の毛が今まで見たこともないほどサラサラの艶々に!

 魔法、あれは魔法の薬なの!?


 あれ?

 新品の下着が置いてあるんだけど、これ誰の?


「皆さんの着替えのところに新品の下着があるかと思います。今日は是非ともその下着を使ってください」


 え?

 なにこれ!?

 すんごい着心地がいいんだけど。


「その下着は皆さん自身のものですので、今後もそれを使っていただいて結構です」


 これもらえるの?

 こんなすごいもの貰っていいの?


「一緒に部屋着になる服も入っているかと思います。このまま夕飯になるので、本日はみんなでその部屋着を着てください」


 変わった形の上着。

 服の中央にチャックがついてるのね。

 しかもフードがついてる。

 下のズボンは……うん、動きやすくていい感じ。


「そろそろ着替えが終わったかな? それでは夕飯にしましょう」



 夕飯は……うん、やっと見慣れたものが出てきた。

 パンとスープと野菜炒めと……お肉。

 お肉!?


「ね、ねえイーリヤ。私のお皿に大きなお肉がのってるように見えるんだけど」


「アニア、私のお皿にものってるから、多分夢じゃないと思うよ」


「はい、それでは皆さんどうぞ召し上がれ。お代わりも沢山あるから、遠慮しないで食べてね」


 お代わり?

 お肉も?


「お肉もパンもお代わりは沢山あるから」


 お肉もおかわりできるの!?

 い、急いで食べないと!


「……ふああああああ」


 なにこれ!?

 なんなのこのパン。

 こんな美味しいパン食べたことない!


 スープも野菜もお肉も美味しい!

 でも何よりもパンが美味しすぎる!!


 うん、みんなもおんなじみたいね。

 お肉よりもパンのお代わりを一生懸命してる。

 私も負けずにお代わりしなきゃ!



 ああ、今日はなんて素晴らしい一日なの。

 こんな一日が過ごせるなんて夢のよう。


「みんな、今日からはここがみんなの家です。これから一緒に頑張っていきましょう」


 あははは。

 もしかしてこれが毎日続くの?

 私、幸せ過ぎておかしくなっちゃいそう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る