第176話 とある孤児の嬉しい困惑

 

 これが引っ越し先?

 どこからどうみてもお屋敷にしか見えないんだけど?

 ここで働くってことなのかな?


「ようこそ。新しい建物でちょっと戸惑うかも知れないけど、悪い所ではないはずだから」


 こんなお屋敷入ったことなんてないよ。

 みんなもどうしていいかわかんないって顔してるし。


「ナノン様。皆どうしていいか、わからないようですが」


 狼!?

 でも声は優しそう。


「こまったわね。どうすればいいのかしら」


「差しでがましいようですが、ここは私にお任せいただけませんでしょうか?」


「お願いできますか、ウロフロスさん」


「皆様協力していただけますでしょうか? まず最初にこの中で、普段まだ話せない小さな子どもの面倒を見てくれている方はいますか?」


 狼さんの質問にいつも小さな子の世話をしている子達が手を挙げる。


「ありがとうございます。それでは今手を挙げていただいた方は、前の方へ来ていただけますか?」


 前に出た子達の側にモフモフ、フワフワした人達が近付いてきた。


「彼女達が小さな子のお世話をさせていただきます。今前に出てきた皆様は彼女達と一緒に別室で待機している小さな子達の所へ移動してください」


 初めての場所なのになんだか静かだと思ったら、小さな子達は別のところにいたのね。


「それでは残った皆様のお部屋を決めさせていただきます」


 部屋?


「兄弟姉妹以外は男女別に二人一組で一つの部屋を使っていただきます」


 え?

 二人で一部屋?


「一人一部屋ご用意できないのは心苦しい所ではありますが、そこはご容赦下さい」


 狼さん、十分過ぎるよ。

 二人で一部屋でしょ?

 今までなんて一部屋に十人とかだよ。


「それでは組分けを行いますので、ご希望のある方はおっしゃってください」


 希望はとくにないかな。

 好き嫌いなんていってられなかったしね。

 誰と一緒でも問題なしよ!



 これが私達の部屋?

 二人で一部屋って言っていたけど二段のベッドが部屋を仕切ってくれているし、もう一人一部屋と変わらないよね。

 そしてタンスに机に本棚もあるし、机とベッドにはランプ草までついてる!


「ね、ねえ。イーリヤこれ全部私一人で使っていいのかな?」


 うん、私も同じ事考えてた。


「こっちにもあるから多分そうだと思う」


 ベッドにもフカフカしたのがひいてあるし。

 これ夢じゃないよね?


「イーリヤ、そろそろいかないと」


 そうだった。

 部屋に荷物を置いたら集合するようにって言われてたんだった。

 急がないとね。


 あれ?

 ドアノブに何か、かかってる。

 これ、鍵?


「ねえ、アニア。これ」


「鍵?」


 鍵が二本ってことは私達二人の?


「二本ってことは私とイーリヤの分かな」


「多分そうだと思う」


「なんだか本当に私達の部屋みたいだね」


「鍵付きの自分の部屋なんて嘘みたい」


 病気は治してもらえるし。

 自分の部屋はもらえるし。

 これ、ホントに夢じゃないんだよね?


「イーリヤ、ホントに急がないと!」


 そうだった。

 ドアの鍵を自分で閉めてっと………。

 あー、ガチャって音が嬉しいな。


「イーリヤ、私も鍵閉めてみてもいい?」


「うん」


 アニアもなんども鍵を開け閉めしてる。

 なんか自分の部屋って感じで気持ちいいよね。


「っとアニア、急がないと!」


「そうだった! 一々ビックリすることだらけで困っちゃうね」


 アニア、その顔は全然困ってないよ。

 でも私もおんなじ顔してるかもね。

 だって嬉しくて楽しくて仕方がないもの!

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