第175話 とある孤児の一途な思い

 

 引っ越し?

 どういうこと?


「いいからとにかく、自分達の荷物をまとめろ。今すぐに」


 先生、凄く焦ってる。

 いつもはあんなに偉そうなのに、どうしたんだろう?


 そういえば急げって言うだけで、何にもしてこない。

 いつもならゲンコツか飛んでくるのに。


「よし、準備の終わったやつから表にでろ」


 なんだろう。

 今までこんなことなかったのに。

 もしかして私達捨てられちゃうのかな?


「ほら、急げ」


 なにこれ?

 馬がいないけど馬車なのかな?


「全員これに乗るんだ」


 これは捨てられるんじゃなくて、売られるってことなのかな?

 でも孤児院の子達全員?

 私みたいな病気の子も?


 っと体がフラフラする。


「おい、その子は病気なのか? 上手く歩けていないようだが? なぜ無理に歩かせる?」


「も、申し訳ありません」


 先生があんなにペコペコするなんて。

 この白い服の女の人は誰だろう?


「はあ。協会というところは、子ども達にとってはあまり良いところではないみたいですね」


「そのようじゃな。ニノン他にも同じような子がいないか確認しするのじゃ」


「わかりました、確認してきます」


「おい、ハカセ。まず手始めにこの子の治療じゃ」


 治療?

 治すことができるの?

 でも私、お金なんてもってないよ。


「わかった。病巣の方はこっちで何とかする、体力の方はまかせるぞ」


「まかせるのじゃ」


「まずはこいつでこの子の情報を集めてと」


 このフワフワ浮いてるのはなんだろう?

 光った?


「ふむ、クリオネ量産型、村の住人以外でも特に問題はないな。わが作品ながら素晴らしい」


 このフワフワ、クリオネっていうんだ。

 なんか可愛い。


「さてと、ちょっとだけ我慢だぞ」


 えっ、魔法?


「よし、治療完了」


「体力と肉体の回復も完了じゃ。どうじゃ娘、立てるか?」


 え?

 え?


「まだ、回復しきれてないかの? 娘、どこか調子の悪いところはあるか?」


 普通に立てる!

 立ってもフラフラしない。

 なにこれ?

 体が軽い!


「ふむ、どうやら問題ようだな」


「あ、ありがとうございます!」


「ん、気にするな。さてと最後にこいつでもう一度情報を集めてと」


 さっきのクリオネちゃん。

 また光った。


「あ、あの」


「ん、すまんな。特に害のあるものではないので許してもらえないか?」


「い、いえ。そのことじゃなくて」


「ん?」


「なんで私なんかを助けてくれたんですか?」


 体も満足に動かせない。

 なんの能力もない私なんか助けてどうするの?


「うーむ、何故と問われるとな。妾達の主殿がそれを求めているからじゃな」


「そうだな。それに反対する理由もないしな」


「ハカセさん、ヘラレントさんこちらに来て下さい。まだ何人か健康に不安がありそうな子が」


「わかった、今いくよ」


「あ、あの、その方に会ってお礼を伝えることはできますか?」


 なにもお返しはできないけど、きちんとお礼くらいは言いたい。

 こんな素敵なことは生まれて初めてだなんだもの。


「うーむ、主殿にか。まあ、そのうちこちらにも顔を出すだろう。その時にでも伝えるといいのじゃ」


「そのお方のお名前を聞いてもいいですか?」


「サシチ・ヒダリ殿じゃ」


「ありがとうございます!」


 ハカセ様にヘラレント様、ニノン様、そしてヒダリ様ね。

 今日のことは多分一生忘れない。

 そしていつの日かきっと皆さんに恩返しがしたいな。


 折角体が動くようになったんだ。

 私になにができるのか、これからしっかり考えないと!

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