第157話

 えーと、この家でいいのか?

 はてさてナセルリナさんはなんて答えてくれるのかね?

 こないだの村見学は上手くいったと言えるのかよくわからんからな。


「おはようございます! ヒダリさま」


 元気だねぇ。

 外で待ってたのか。


「おはようございます、ナセルリナさん」


「ゆっくりと考える時間をいただき、ありがとうございました!」


 あの足下の荷物はうちで働いてくれるつもりがあるからかな?


「いえいえ。それで結論はだしていただけましたか?」


「はい、是非ヒダリさまの村で働かせていただきたいです」


 村を案内した甲斐があったかな。

 とりあえず、商業関連の担当者確保かね。


「わかりました。それでは改めてよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いいたします!」


 さて、どうしようか。

 ドラヤナンさんが隠れて聞いてるみたいなんだけど。

 出てくるのかね?


「おい! ナセルリナ!」


「ドラヤナン?」


「お前なに考えてるんだ!? 本気でそんな胡散臭いやつのところに行くつもりか?」


 胡散臭いって。

 隠れて聞き耳たててた奴に言われてもなぁ。


「大丈夫だよ、ドラヤナン。ヒダリさまには村を案内してもらったし、村の人たちもイイ人達ばかりだったから」


 イイ人達ね……。

 一部の連中の過去に目をつぶればな。

 まあ、悪い人達ではないか?


「そんなもの、その時だけの演技かもしれないだろ!」


 確かに。

 普通に考えればその可能性はあるよな。


「心配してくれてありがとう、ドラヤナン。例えそうだとしてもね、私いろいろ見せてもらってスッゴいワクワクしたの」


 ワクワクしたか。

 ナセルリナさんとは楽しくやれそうかな?


「お前なに言ってるんだよ! ワクワクしたってなんだよ。そんな怪しいやつのどこがいいんだよ!」


 ドラヤナンさん、冷静になってくれ。

 俺の話はどこにも出てきてないぞ。

 こっちに飛び火させるんじゃない。


「どこがって……、それは、その」


 ナセルリナさん、意味深な感じにしないでください。

 ドラヤナンさん、俺をそんなに睨まないでください。


「いいか、お前はそんな奴の所に行かなくていいんだよ! ずっとここに、俺の近くにいればいいんだよ!」


 ドラヤナンさん、前回あれだけの目にあったのに頑張るね。

 今回は結合ストレートに伝わったんじゃないか?


「ドラヤナン……」


 いけるか?


「小さいときからいつもそうやって側にいてくれて、ありがとう。ちょっと怖いときもあったけど、私ドラヤナンがいつもそばにいてくれて、本当に良かった」


「ナセルリナ……」


「いつまでもドラヤナンが側にいてくれたら、私もとっても嬉しいよ」


 もうこの辺で俺、席はずしたいんだけど。

 あとは二人の時間ということでさ。

 なんか、こう、ねぇ?


「でもね」


 ん?


「今回のことはやっぱり私一人で頑張ってみようと思うの」


 またこの展開かよ!


「いままで本当にありがとう、ドラヤナン」


 そしてドラヤナンさんの告白とどいてねー。

 意味深な前台詞があったぶん、前回より質が悪いなこれ。


「これからは私も一商人。もしかしたらあなたと対峙することもあるかもしれないけど、お互いに頑張りましょう!」


 プロポーズしたのに気付いてもらえない

 その上、商売敵宣言とか。

 この空気どーすんだよ。


「ヒダリさま」


「え、あ、はい」


「申し訳ありませんが早く出発してもらえませんか。いつまでもここで大切な友人の顔を見ていると決意が鈍ってしまいそうで」


 今度は友人宣言。

 とどめ指しに来たよ、おい。

 天然鈍感娘、別な意味で危険すぎるわ。


 ドラヤナンさん、動かなくなっちまってるぞ。

 これどーすんたよ?

 誰か助けてー。

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