第150話

「こちらが書庫になります」


 興味がありそうだったから連れて来てみたが、村の魅力ってやつに繋がるのかね?


「あ、あのこちらの書庫の本に触れてみても?」


 お?

 ナセルリナさんは本好きか?


「どうぞ、お好きなものを手にとって下さい」


「ありがとうございます」


「この書庫は整理されていないので、何がどこにあるという法則性はありませんので」


「わかりました」


 おっと、行っちまった。

 まあ、迷子になってもなんとかなるだろうし、大丈夫だろ。


「ヒダリ様、こちらの蔵書はどの程度の時代迄のものがあるのですか?」


「少なくとも1000年くらい前の物はありますね。私も全ての蔵書を確認しているわけではないので、私の知る限りではありますが」


「1000年前ですか……」


「ええ」


 エチゴラさんには、それなりにインパクトはあったかな?

 普通に考えて1000年以上前の書物が手近で気軽に見られるってのは珍しいと思うしな。

 はてさてナセルリナさんに響けばいいが。




「ヒダリさま」


「ナセルリナさん、どうかしましたか?」


「色々な本があることはわかったのですが、古い時代の物と思われる本のほとんどがよく分からない文字で書かれていて」


 ああ、その辺は俺も苦労したよ……。

 お陰でかなりの古い言葉やらマイナーな言語がわかるようになったけどな。


「今の言葉と照らし合わせることができる別の書物を探し、自分で翻訳するしかありませんね。場合によっては翻訳の翻訳が必要だったりもします」


 まあ、時間がある時でもないとなかなか難しいが。

 一冊読むのに半年かかる本とか普通だったからな。


「なるほど、かなりの手間を要するということですね」


「そうですね」


 あとはルドに聞くってのが一番早いかな?

 ルドなら大体の本は読めるはず。

 ただあいつは自分で学んだ上で聞きに来いってスタイルだしなぁ。


「ちなみにヒダリさまが翻訳された時にまとめたメモ等はありませんか?」


「それはあったかもしれませんね」


 確かどこかにあったような?


「直ぐにとは言いませんが、そのメモ等を見せていただけますか?」


「わかりました、かなり記憶が曖昧なので見つかればとしかいえませんが」


「それで結構です」


 これからについて話してくれるってのは、前向きに考えてもらえてるってことなのかね?

 それなら好印象を重ねられるよう頑張るだけだな。


「佐七さん?」


 キョウか。

 書庫で調べものか?


「キョウ、こちらはナセルリナさんと……あれ? もう一人エチゴラさんという方がいるんだが」


「どうやらはぐれてしまったようですね」


 サベローもいるし、大丈夫だろ。


「はじめてナセルリナさん、私はキョウカ・ヒダリといいます。よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。ヒダリさんということはキョウカさんは」


「はい、佐七さんの妻になります」


 なんかかこう、居心地が悪いのは気のせいじゃないんだろうなぁ。


「キョウカさん、その本はもしかして薬草関連の書籍でしょうか?」


「ええ、料理の香りつけや味に深みや変化をつけるために良いものはないかと」


 キョウの料理かぁ。

 味云々以前の問題があるからなぁ。

 変化とか深みって言葉に恐怖を感じるんだが。


「なるほど。ですが何故薬草なのですか?」


「恥ずかしながら、私はこちらの植物についてあまり知識がないので。薬草類なら香りが強いものや味が独特のものも多いのではと思いまして」


「確かに。ですが、料理に使えるものならば、香草や香辛料のほうが使いやすいかと思いますが」


 地球とおんなじようなものがあるのかね?

 料理の幅も広がりそうだな。

 キョウの料理に関してはまあ、うん、いいんじゃないの?


「よく使われるようなものであれば、仕入れることは簡単かと思います。私の方で適当に見繕ってきましょうか?」


「よろしくお願いします!」


「では、簡単な説明書きも添えるようにしますので、気に入ったものがあれば覚えておいてください」


「ありがとうございます」


 あれだね、意図してではないけれど、居心地の悪さはかなり薄れたかな。

 なんか仲良くやって行けそうな感じだね。


「佐七さん、ナセルリナさんのおかけで新しい料理が沢山作れそうです。楽しみにしていてくださいね」


 うん、まあ、頑張るよ。

 お願いしますから、命が危なくなるものはやめてくださいね。

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