第127話

「あのエチゴラさん。私が言うのも難ですが、なぜそんなにあっさりと話を進めていただけるのですか?」


「ヒダリ様。こういう仕事をしていると、不確かなことも含めて色々なことが聞こえてくるのですよ」


「例えば?」


「大防壁で飛竜を一撃で仕留めた謎の馬車の話、そして神代竜を拳一つで打ち倒した男の話等々ですかね?」


 色々情報は持ってたって事ね。


「私はそんな不確かなもの中から本物を見極め商機を見つける事で、ここまでやってきたんですよ」


 迫力ある目付きだねぇ。

 こういう顔ももってるのね。

 商会なんてもんを動かしてるんだ、こういう迫力がないと難しいのかもな。


「そして今、私はヒダリ様達に今まで感じたことのないほどの商機を見ているのですよ」


 商機ねえ?

 とりあえずの販路と考えるだけでも、便利そうではあるんだけどねぇ。

 あの目はそれだけで済ませてくれそうに無いんだよな。


「あの、会頭」


「今は大事な商談中です、少し待ってください」


「いえ、そうではなくてですね」


「ネルバ商会会頭! 何をしている!」


「フィーラリア様がお目覚めになられました」


 ああ、忘れてたよ。

 爺さんにブッ飛ばされた人か。

 もう動けるのか。

 結構頑丈だね。


「何をしているのかと聞いている!」


 声が大きいよ。

 もっと小さな声で話してくれよ。


「商売の話ですよ、なにか問題でも?」


「なぜ先ほどの魔獣がそこにいる」


「クリオネ様は魔獣ではごさいませんよ」


「何を言っている!?」


 だから声がでかいって。


「フィーラリア様、私は商売の話と申し上げました。部外者である貴女にそうなんでもお話する必要がありますか?」


「だがそいつは私に!」


「先に斬りかかったのはフィーラリア様では? クリオネ様はそれを迎撃しただけとお聞きしていますが」


「それは」


「ああ、壊された倉庫についてはフィーラリア様にも弁償していただきますので。後日請求書をお持ちいたしますので、よろしくお願いいたします」


「なんだと!?」


「ああ、お支払いただくまでこちらの剣は、私共の方で預からせていただきますので」


「いつの間に!?」


 もうどうにもならないねフィーラリアさん。

 エチゴラさんにしっかり追い詰められてるわ。

 これひっくり返すにはよっぽど口が達者じゃないと無理だな。


「くそ、戦士の剣を奪うとは」


「いや。そんなに大切なもんなら今この場で金払えばいいだろ」


「なっ!?」


「エチゴラさん、こっちの支払い金額はどのくらいになりそうですか?」


「倉庫自体は10万ラル程で再建できるかと。割合としてはフィーラリア様が7、クリオネ様が3ほどですかね」


「7!? 7万ラルなどすぐに支払える訳がないだろう!」


 うるさいな。

 というか大切なもんなんだろ?

 つべこべ言わずに支払えよ。


「わかった、とりあえず20万ラル渡します。余った分はこれからの取引での支払いに回してください」


「!?」


「かしこまりました」


「貴様! どういうつもりだ!」


 は? 俺?

 どういうつもりもなにもないだろ。


「支払うべきお金を支払っただけですが」


「これ見よがしに、大金を支払うなど!」


 いやまあ多分に挑発のつもりもあったけどさ。

 本当にそれに激怒するか?

 赤の他人の取引に文句つけるとか、なに考えてんだよ。


「フィーラリア様。何をお怒りかはわかりませんが、そろそろお引き取り願います」


「な、私の剣は」


「倉庫の再建費用をお支払いただければ、すぐにでもお返しいたしますので」


「ふざけるな!」


 いや、ふざけてるのはあんたの頭の中だろ。

 取引で金払って、関係ない他人にキレられるとかあり得ねーよ。


「はあ、では私達のほうが失礼させていただきますね」


「エチゴラ、それとそこの男、ただで済むと思うなよ!」


 捨て台詞ならぬ追い台詞?

 ただで済むと思うなよとか、本当ににそんなこというやつ始めて見たわ。

 流石異世界、いろんなやつがいるもんだね。

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