第124話

『パン焼きの店トゥーナム』か。

 確かにパン屋じゃなくて、パン焼き屋だな。


「パン焼きを見物したいなんて、あんたら物好きだね」


 何種類か窯があるんだな。

 どの窯もパンというより焼き物を焼く窯みたいだな。


「今日は無理なお願いを聞いていただき、ありがとうございます」


「そんな大層なもんでもないし、満足するまで見ていくといいよ。あたしは仕事に戻らせてもらうよ」


 お、あの四角い黒いやつがパンの実か。

 パンの実を金属の板に並べて、そのまま窯に入れるのか。


「先生、あれは角パンの実ですよ」


 出来上がるのは食パンみたいなやつかね?


「左の字、今度は丸い実だ」


 さっきの角パンとは別の窯で焼くのか。

 パンごとで使う窯が異なるみたいだな。

 窯が展開している魔方陣は同じということは、窯の形で伝わる熱量を変えた焼き加減の調整をしてるのか?




「兄貴、焼けたみたいだぞ」


 どの窯も大体10分くらいで焼き上がるのか。

 やはり窯の形で焼き加減を調整してるみたいだな。

 焼き上がっても見た目はあまり変わらないんだな、黒い実のままだ。


「ノミとトンカチ?」


「あれで皮を割るんですよ」


 お、割れた割れた。

 皮の中身はよくみる焼きたてのパンだ。

 俺の知っているパン作りとは全く異なる光景だけどな。


「ふむ、あの窯を調べてみたいな」


「どうした爺さん、パン焼きに興味がわいたか?」


「うむ、いつも食べているパンがこのように作られていたとはな」


「爺さん達、料理とかしてなさそうだもんな」


「儂らはもともと食事を必要とせんからな。だが作る所を見るとパン焼きはなかなか面白い」


「殴りあいよりは平和だろうし、色々調べてやってみたらどうだ? 」


「うむ、ならば窯が欲しい」


 この店の窯を貰うわけにはいかないしな。

 どうするか。

 ルル達に作ってもらうか?

 ……駄目だな、窯が空を飛びそうだ。


「あの、すみません」


「どうしたんだい?」


「この窯はどこで購入できますか?」


「あははは、本当にあんたら変わってるね。パン焼きをみてパンじゃなくて窯が欲しいってかい」


「申し訳ありません」


「別に怒ってるわけじゃないんだ、気にしないでおくれよ。それにしても窯が欲しいか」


「何とかなりますか?」


工場街こうばまちにこの窯を作った『ネルバ』つて工房があるからそこに行ってみるといいよ」


「わかりました、ありがとうございます」


 今度は窯を作る工房か。


「早く行くぞ」


「まてよ、爺さん」


 当初の目的から徐々にずれてきてるんだが。


「大丈夫ですよ、先生。時間はまだまだたくさんありますから」


「うんうん。ボクも寄り道大歓迎だよ、それにクリオネのおじいちゃんもはしゃいでるみたいだし」


「兄貴、オレも色々見られて楽しいぞ」


私もですびゅい


 なんだろね、この可愛い子達は。


「おい、はやくせんかー」


 急ぐ必要もないし、ガウンティの街を楽しもうかね。

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