第101話 ケイトの想い その3

 

 いつもの見張りとは違う五賢老の使いが現れ、急遽学園を出ることになった。

 色々やり残したことがあるが、仕方がない。

 心残りなのは先生にきちんと挨拶ができなかったことか。


 転移結晶まで使うとは。

 道中で私に何かあってはまずいということか。

 いや、この急な呼び出しだ。

 何かあった、もしくは何かあるのだろう。


 久しぶりに戻ったが、この街は相変わらずあまり居心地の良い空気ではないな。

 いや、私の心情がそう思わせているだけか。


「ケイト様」


 しかも五賢老の元に直行とはな。

 何事だ?


「はい、雷賢様」


「急に呼び戻すことになってしまい、誠に申し訳ありません」


「いえ、それで何事でしょうか?」


「早速で申し訳ありませんが、知霊樹のもとに行っていただきます」


「火賢様、事情を伺っても?」


「あなたはあなたのお役目を果たしていただければ」


 説明するつもりもなしか。


「これを」


 水賢様がやけに薄い衣装を持ってくる。


「知霊樹の下へ行く際の正装です」


 進められた衣装に着替える。

 これは……。

 ほとんど着ていないのと変わらないな。

 先生に見せたらなんと言うだろうか?


「着替えましたね。着いてきてください」


 今度は風賢様。

 先導する風賢様の後を追う。


「ケイト様、お待ちしておりました」


 最後は光賢様か。

 光賢様の目にはなんの感情も浮かんでいない。

 何人もの女性を見送り続け、もう慣れてしまっているのだろうか。


「ここからは我ら五人が先導する」


 いつの間にか、ほかの五賢老も回りに立っている。

 こちらには見向きもしない。

 いくら立場があるとはいえ、ここまで冷淡とはな。


 大きな門の前で五賢老が足を止める。

 知霊樹の裏に門があったのか。

 中は……そびえ立つ知霊樹以外は全く見えないな。

 五賢老が門に手を当てると、門が軋んだ音をたてて開いた。


「ケイト様着いてきてください」


 五賢老について門を潜る。


 なんだこれは?

 知霊樹の根が無機質な黒い塊に絡み付いている。

 いや塊から生えているのか?


「これは知霊の泉。知霊樹の根源」


 この塊が根源。

 その塊から生える知霊樹。

 本当に植物なのか?

 生物として空気を全く感じない。


「それではケイト様、前にお進みください」


 姉様もこの中にいるのだろうか?

 いるという表現はあまり正解ではなさそうだ。


 無機質な塊がうねり、触手のようなものが伸びてくる。

 脈打つような動きは見ていてあまり気分の良いものではない。

 姉様はどんな気持ちでここに立っていたのだろうな。

 その触手が目前に迫ってくる。


 私の命もここで終わりか。

 割りきれると思っていたが、そうでもないのだな。

 やはり死にたくはない。

 まだまだやりたいことがある、側にいたい人がいる。


 だから……


「助けて、先生」



「おうよ、任せとけ」

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