第102話 ケイトの想い その4

 

 目の前に先生が立っている。

 今際の際の幻だろうか?

 幻の先生がその手を伸ばし私の頭に軽く触れる。


 幻じゃない!?


「先生?」


 先生が上着を脱いで私にかける。

 あの不思議な形のローブだ。


「流石にその格好のままって訳にはいかないからな」


 ?

 そういえば今の私の服装は……。


「ぁ……」


「苦情も責任も後回しだ。とりあえずはここを切り抜ける」


「おい、前が見えないぞ」


 先生の足元から声がする。

 人の頭?

 それにこの声は、いつもの見張りの人?


「ほらよ」


「おお、間に合ったようだな」


 いつもの見張りの人のようだ。

 ただ頭しかない。

 頭しかないが普通に話している。


「ケイト様、無事で何よりです」


「頭しかないのに真面目な顔で話すなよ。タフィナスさんが対応に困ってるだろ」


「誰が原因だよ! いい加減に元に戻せよ」


 先生は相変わらずだ。

 こんな時でもいつもと変わらない。


「ほらサベロー、笑われてるぞ」


「お前のせいだろうが!」


「いや、笑われてるのはあんただけだろ」


「いいから、早く元に戻せよ!」


 頭だけだったサベロー?さんの首から下が姿を表す。


「やっとまともに動ける」


「サベロー、あんたの妻と娘が囚われているのはあれか?」


「石のようなものと聞いていたんだがな」


「まあ、そういこともあるんだろ」


 うねうねと蠢く黒い塊の下に大きな穴が開き、一瞬で塊全てを飲み込む。


「おし、帰るか」


「な、何かやるならやるって言ってくれ!」


「お前は阿呆か? 何かする前に一々予告なんかするか? 相手に警戒されるだけだろうが」


「それはそうだが……」


 まさにその通りだ、間違っていない。

 でも先生、先生のそれは傍にいる人にしか通じないんですよ。

 だから先生の傍に居たことがない人には、とんでもなく非常識に見えるんです。


「ほら、また笑われてるぞ」


 先生の奥様達はいつもこんな気持ちなのだろうか。

 このとんでもなく非常識な人の行動を普通に理解できてしまう。

 それがどうしようもなく嬉しい。


「いや、明らかにお前の方を見て笑ってるだろうが」


 理解できるからこそ、次の私の一手が見えてくる。


「先生、私の責任もとってくださいね」


「な!?」


 多分これで間違っていない。


「タフィナスさん?」


 困っているが、全く嫌がっていない。

 先生は多分凄く分かりやすい。

 ここは押しの一手。


「ケイトって呼んでください」


「!?」


 もう一押し。


「ケイトです」


「け、ケイト」


「おま、ちょろいなおい」


 サベローさんを一睨み。

 邪魔をするな。


「あ、いえ、なんでもないです」


 最後の止めだ。

 先生に抱きつく。

 この格好だと少し恥ずかしいが、色々あたって効果も高いだろう。


「先生、よろしくお願いします」


「妻達に相談してもいいですか?」

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