第97話 ケイトの想い その2

 

「ケイト様」


 やはり来たか。


「こんな夜分に何事だ?」


「国からのお手紙です」


 ふん、いつの手紙やら。


「わかった。感謝する」


「くれぐれも、使命をお忘れなきように。あなた様には我らラグレシュルの民の命運がかかっておりますので」


「わかっている」


「では、失礼させていただきます」




 行ったか。

 言われなくともわかっているさ。

 姉様も待っているんだ、忘れるわけがない。


 そういえば手紙を持ってきていたな。


 母上からか。

 いつも通りの内容だな。

 中身を確認されているだろうし、しょうがないか。

 そして細工のほうには、どうやらまだ気づかれていないみたいだな。


 母上も相変わらずだな。

『いざとなればラグレシュルなんか捨てろ。自分の好きなように生きろ』か。

 自分の好きに……か。


 先生。

 先生と一緒なら楽しそうだな。

 チキュウの話も面白いし、他にも色々なことを知っている。

 なのに普通のことに疎かったり、一緒にいると本当に飽きない。


 あの話ももったいない。

 もしこんな立場でなかったら、すぐにでもお願いしたかった。


 狂竜アスクリスの住み処だった浮遊島。

 どんなところなのだろうな。

 どんな風が吹いていて、どんな水質で、どんな土があって、どんな植生なのだろうか?


 先生の言っていた予算があれば、何ができるだろうか。

 まずは植生の確認だな。

 それを見た上で、あとは土の性質と水質の確認か。

 いや待てよ、日照時間と昼夜の寒暖差も確認しないとな。

 一年を通した気候の変化の記録も必要だ。

 いくつかの作物を植えてみて、同時にどんな方法で畑を作るのが良いかの調査も必要だろうな。


 毎年の予算はどのくらいなのだろうか?

 毎年一千万ラルというのならば夢は広がるな。

 土地にあった品種改良の研究に、あとはそうだな新しい農法の研究もできるか?

 あとはあとは……。


 そうだな、先生の隣に立ってみたかったな。

 レイラ様やカシュタンテ女王のように。

 一緒に村を作って、畑をつくって。

 ずっと一緒に生活していく。


 そうだ世界中で新しい農作物を探し回って見るのも面白そうだ。

 多分先生なら一緒に来てくれるだろう。

 そしてとんでもないことを仕出かしてくれそうだ。


 ああ、なんと楽しそうな日々だろう。


 先生……。

 あなたの作る村に行きたかった。

 誘ってもらえたことは、本当に本当に嬉しかった。

 一瞬使命を忘れてしまうほどに。


 使命の為に生きて、時間が来れば姉様の所にいくだけだと思っていた。

 それがこんなことまで考えることができるとは。


 この想いが叶うことはない。


 でもそれでも時間がくるまでは。

 先生のそばにいられる時間を大切にしよう。

 一瞬たりとも無駄にしないように。


 だから明日もよろしくお願いいたします、先生。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る