第96話 ケイトの想い

 

 先生がデルバレバに戻ってきている!?


「ケイト、どうかしたか?」


「いえ、ライラ様」


「今言ったように、ガンドラル村の村長と関係者がデルバレバに来ている。くれぐれもトラブルは起こすなよ」


 ヤヌシュ先生とナチュサたちの件。

 そして、その後の大艦隊の殲滅を思い出しているのだろう。

 周囲の委員や教授陣が神妙な顔つきで頷いている。


「彼らは村を作るそうで、そこに必要な人材やら物資やらを探しているそうだ」


 どうやら村を作る場所は無事決まったようだ。


「その人材の件だ。エーラ市長から、もし声をかけられた際には、ここの部門については各員の判断を優先するそうだ」


 それはそうだろう。

 教師陣はそもそも自由。

 自治委員や運営委員についても学園の生徒でしかないからな。

 学園を出た後の仕事先を強制するなどできないだろう。


「以上だ。重ねて言うがトラブルだけは気をつけてくれ。一つのミスが街の存続にかかわる事態になりうるからな」


 そこまで慎重にならなくても。

 たしかに最初に会った時は傍若無人な人だと思いました。

 話してみてわかりましたが、こちらが余程の無礼をはたらかない限り、先生は危険な方では無いのですが。


「委員長、あいつが戻っているそうですよ。気を付けましょう」


 やっと会えますね、先生。

 聞きたいことも話したいことも沢山有ります。


「委員長?」


 今日の講義はいくつだったか。


「委員長?」


「どうした? ナチュサ」


「ですから、あいつが戻って来ているそうですよ」


「そうだな、また色々な話ができると思うと楽しみだな」


「まだそんなことを! あんな危険人物。委員長もあまり近づかない方がいいですよ」


 一部の人たちの間で、先生の評判が悪いのなぜだろうな?


「委員長!」


 ここで問答したところで意味はないか。


「ナチュサ、私は朝の講義があるので失礼するよ」




 いた、先生だ。

 身だしなみは問題ないな。

 よし!


「せんせーい」


「おう、久しぶりだな」


「領地候補の方はどうでしたか?」


「悪くない場所だったぞ。今は村作りに必要なものを集めてるところだ」


 ライラ様が言っていた事案だ。


「苗や農具なんかですか?」


 もし農業関連ならわたしにも手伝える。


「それもあるが、あとは人材だな」


「人材ですか」


「ただでさえ領主ってものの知識が少ない上に、俺はこの世界そのものの知識も少ないからな。その辺を補助してもらえる人材が必要なんだよ」


 たしかにチキュウとこの世界では多くの事象が異なる。

 となると多くの分野で手伝いが必要になるはず。

 これは農業分野でも可能性があるか。


「例えば農業とかだな」


「農業もですか!」


 きた!


「どんな農作物を育てるつもりなのですか?」


「そこも含めてだ。資金と土地と水は多分問題ないんだが、なにをどう植えればいいのか。何が必要なのか。本当にゼロからはじめるところなんだよ」


 なにも決まっていない?

 ゼロから!


「場所は? 場所はどの辺たりですか?」


 水と土地があるのならば、あとは気候。


「領地のか? 何処になるんだろうな? 近くでもないがガウンティ王国という国がある所だ」


「ガウンティ王国、南方の海を越えた先。ここよりも温暖? いえ、でも季節の変わり目を観測してからでないと確実なことは……」


 土についても調べてみないと。

 いや植生もだな。

 水の成分は?


「実験施設や観測施設等は?」


「必要なら作ればいいんじゃないか?」


 作る!?

 いったいどれだけの規模を考えているんだ?


「予算はどのくらいですか?」


「どのくらいだろうな? 他との兼ね合いがあるたろうからな。一億は難しいが一千万くらいか?」


 え?


「一千万!? 先生、村を作るんですよね?」


「少ないか?」


 先生の価値観が若干心配になるな。

 一千万なんて一つの村の農業の予算ではない。


「いえ、十分過ぎます。予算も潤沢、土地も水もあってゼロからの開発……」


 これだけの好条件。

 早々あるものではないな。


「タフィナスさん、やってみるか?」


「いいんですか!?」


 本当に!?


「レイラさんやナディとの面談を終えてからになるが、それでよければ」


 ああ……。

 わかっている。

 そんな顔でこちらの様子を伺わなくても。

 故郷に心配はかけない。


「あ、あのやっぱりやめておきます。凄く魅力的なお話ですが私には無理そうです」


 これでいいだろう?

 使命を忘れたりなどしていないさ。

 安心してくれ。


「レイラさんはもちろんだが、ナディもそこまで怖くはないぞ」


 そうではないですよ。

 そんなことを言うと奥様たちに怒られますよ。


「いえ、あのお二方がどうかという事ではなくですね、私自身の問題です」


「わかった。しばらくはこの街に滞在している、もし気が変わったら声をかけてくれ」


「わかりました。先生、誘ってくれてありがとうございます」


 申し訳ありません先生。

 私には成さねばならない使命がありますので。


「それじゃあな」


「はい、それでは」


 一瞬ですが夢を見られました。

 先生ありがとうございます。

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