第90話

 まさかの山越え五回。

 全部結構な標高だった。

 そして今は六つ目の山の山頂付近。


「旦那さま、あそこが旦那さまの領地候補地です」


 クリスが指差す先に見えるのは、海に突き出た小さな突起とその先にある空中に浮かぶ島。

 あんなでかい島が空中に浮いてるとか、さすが異世界。

 意味がわからん。


「クリス、あの浮いてるやつがそうなのか?」


「そうです、あの浮遊島が目的地です」


 しかし、あのでっ張り、どっかで見たことあるような地形なんだよな。

 わかった、函館だ。

 北海道の函館の地形に似てるんだな。

 くびれの部分が函館の街で、膨らんだ先端が函館山。

 んで函館山の上にさらに島が浮いてる感じだな。


「レイラさん、浮遊島っていうのは良くある場所なのか?」


「旦那さま、何故私ではなくレイラに聞くんですか?」


 だって竜族、絶対に普通じゃねーから。

 そんな連中の普通なんて全く当てにならねぇから。


「竜族の感覚と、普通の街に住んでる人達で感覚が違うかもしれないだろ?」


「そう言われると確かにそうですね。あまり長期に滞在したこともないですし、そういった感覚は違うかもしれません」


「それで、レイラさんどうなんだ?」


「そうですね。そういう島があるのは知られていますし、実際に見たこともあります」


 そこまで特別でもないのかね?


「ただ、かなり大きい島ですね」


「我もあの大きさは見たことがないな」


「二人が見たことがあるのは、どのくらいの大きさだったんだ?」


「私が見たのは小さめの屋敷一つが建てられる大きさでしたね」


「我が見たのもそのくらいの大きさだったな」


 大きさに関してはかなり特別みたいだな。

 なんせ屋敷とか城じゃなくて、大きな街が2つくらい作れそうな大きさだ。


「あれだけの大きさの浮遊島がまだ残っていたか」


「レーブどういうことだ?」


「簡単じゃよ。ワシがかなりの数を砕いたからじゃ」


 簡単じゃよ、じゃねぇよ。

 意味わかんねーよ。


「浮遊島は主に浮遊石でできていてな、これが色々な鉱石と組み合わせに使えて便利なのじゃ」


「それで世界中の浮遊島を砕いてまわったのか?」


「ある程度の大きさのはな。小さいのはあまり多くの鉱石も取れんからな」


「その島に住民とかはいなかったのか?」


「いたぞ」


「その人達は?」


「さあ? 一応警告はしていたから逃げたはずじゃ」


 申し訳ない! この世界の人達。

 当時は俺の眷属じゃないけど。

 うちのポンコツがえらい迷惑をおかけしました。


 ポンコツの癖につける爪痕がでかすぎるんだよ!

 いまだに影響が残ってるじゃねーかよ。


「あなた。あれだけの広さがあれば領地としては申し分ないと思います」


「我もそう思う。細かいところはここからではわからんがな」


「あ、うん、そうだな。後は島に着いてからって感じだな」


 目的地はもうすぐそこだ。

 もう一頑張りしますかね。




 これが浮遊島か。

 うん、ふつーの陸地だな。

 空中に浮いてる感が全く無い。


 島の地形は中央が少し高台になっている。

 その高台の中央に大きな湖があり、複数方向に川が流れている。


「素晴らしい場所です」


「うむ、水も申し分ないしこれなら大きな街が作れそうだ」


 いや、村だよね?

 今、街って言わなかった?


「とりあえず城はあの湖のほとりかしらね?」


 城?

 村に城はないですよレイラさん。


「レイラさん、俺は村長になるんだよな?」


「そうですよ。あなたがご自分でガンドラル村の村長を名乗ったのではありませんか」


「いや、申し訳ない。ちょっと確認したかっただけなんだ」


「困った時はいつでも頼って下さいね、あなた」


「あ、ああ。ありがとう」


 村だよな?


「この地形なら湖と城を中心に川を境目にして行政区、住宅区、商業区、工業区、農業区の区割りをするか?」


 行政?

 区割り?


「ナディ、ここに作るのは村なんだよな?」


「そうだな、ヒダリ殿が村長のガンドラル村を作るんだろ?」


「そうだよな、ちょっと確認しただけだ」


「こういった分野では、我の方がなれている部分もあるだろう。何かあればいつでも相談してくれ」


「あ、ああ。わかった、頼りにさせてもらうよ」


 村だよな?

 俺が作るのは村なんだよな?

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