第88話

 熊、くまかー。

 せめて犬とか猫みたいな小さいのが良かったなぁ。


「あははは、くすぐったいよポヨスケ、ポヨミ」


 巴のセンスがわからん。

 3メートル越えの熊にポヨスケ……。


「しかし、えらい懐ついてるな」

 

 さっき初めて会ったばかりだろ。


「命の恩人である村長たちに、一生をかけて恩を返していきたいそうだ」


 一生をかけて恩を返すって。

 義理堅いやつらだな。


「命の恩人? リシャルを止めたからか?」


「いや、その前だな。リシャルさんが倒したヨシヲに襲われてたそうだ」


 だからヨシヲってなんだよ。

 あとチョコ太さん、リシャルにさん付けなのか。


「どういうことだ? あの熊はあいつらの仲間じゃないのか?」


「同種ではあるが縄張り争いの相手だそうだ」


「二頭いても勝てない相手だったのか」


「負けはしないが、ポヨスケかポヨミどちらかが命を落とす可能性は高かったそうだ」


 なんだろうな、えらくしっかりとした背景が語られるんだが。


「あいつら熊だよな?」


「当人達は、自分がどんな種族なのかとかはわからんらしい」


 そんなもんなのかね。

 まあ、生きていく上で必要ないっちゃ必要ないか。


「名前は? 巴がポヨスケ、ポヨミって勝手に呼んでるが」


「ポヨスケ、ポヨミでいいそうだ。もともと名前も無かったらしいしな」


 なるほどねぇ。

 しかし、その名前でいいのか……。

 もともと無かったから気にならないのか?


「おー、たかーい」


 肩車されて楽しそうだな。

 下にいるの熊だけどな。

 巴があそこまで気に入っちまったら、どうにもならんな。

 連れていくしかないか。


「おーい、巴。連れてくのはしょうがないから、ちゃんと面倒見ろよ」


「わかったよー。佐の字ありがとね」


 いい笑顔だねぇ。


「村長ありがとうな」


 このタイミングて視界に入ってくんなよ。

 しかもちょっと嬉しそうな笑顔。

 ごつい猫耳おっさんのはにかんだ笑顔とか誰得なんだよ。




「なあ、またなんにも出てこないんだが」


「ポヨスケ殿とポヨミ殿が原因かと」


 かねぇ。

 あいつらも見るからに強そうだしな。


「ポヨミ、我を肩に乗せるのだ」


 短時間でどんどん馴染んでいくなぁ。


「おお、高い高い」


「ナディは普段が小さいから」


「なんだとカシュタンテ」


「そして背よりも胸が残念」


 カシュタンテは結構、毒をはくよな。


「なんで胸の話になる! 我は残念などではないわ!」


「巴を見て」


「ざ、残念などでは……ポヨミ慰めるな!我は気になどしていない!」


 な、馴染んでるなぁ。


「ヒダリ殿、我は残念などではないよな?」


 なんでこっちに飛び火すんだよ。

 ポヨミなにそのジェスチャー。

 ナディをなぐさめろってか?


「もちろんだ、俺はそんなこと考えたこともないぞ」


「でも私のほうが上」


 なんで煽るんだよカシュタンテ。


「そんなことはない! なあヒダリ殿」


「ふふん」


「な、鼻で笑っただと」


 さて、面倒くさいことになる前に退散退散。


「ならばヒダリ殿にみてもらおうではないか!」


「望むところ」


 は?

 望まねぇよ。

 なに言ってんだよ。


「ということで行くぞヒダリ殿」


「行こう、ご主人さま」


 え?

 あれ?

 巴さんいつ横に来たのかな?

 巴さんはポヨスケの上にいなかったっけ?


「行こうか左の字」


 おい、ポヨスケどういうことだよ。

 なんで悟った顔で首ふってんだよ。

 敬礼とか、どこで覚えたんだよ。


 そしてポヨミ。

 なんでしてやったりみたいな顔してんだよ。


「作戦成功」


 な!?

 嵌めやがったな。

 うんうんじゃねーよポヨミ。

 ポヨスケ視線そらすななよ、こっち見ろよ。


「我が主、頑張って下さいね」


 わかったよ、とことんやってやるよ!



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