第87話

 全くなにも出てこないんだが。


「なあ、クリス。この森って、こんなになにもいないもんなのか?」


 リシャルの視界にも入ってこないとか。

 ホントに魔獣なんかいるのか?


「そうですね。昔狩りをしていたときはもっと色々いた気がするのですが」


 一体どういうことだ?


「クリス殿」


「どうかしましたかランガー様」


「拙者に思い当たることがあるのですが」


「思い当たること?」


「失礼ですがクリス殿、しばらく移動式天幕の中に入っていてもらえますか?」


 なんだ?


「はあ、わかりました」


 クリスが言われるままに天幕の中に入っていった。


「ランガー、どういうことだ?」


「簡単ですよ。クリス殿はこの森の生き物達に恐れられています」


 まあ、狂竜って言われてるくらいだしな。


「そして恐ろしい相手に対処する方法として一番簡単なのは、その相手からできる限り遠ざかること」


「なるほどな。一番恐い存在であるクリスがいる限り誰も近づいてこないってことか」


 しかしクリスのやつ、どんだけ恐れられてんだよ。

 鳥の一羽どころか虫の一匹も見当たらないんだが。


「天幕に入ってはもらいましたが、しばらくはなにも見つからないと思われます」


「まあ、その辺はしょうがないだろ。気長に歩くさ」




 丸二日なんにもでねぇよ。

 あり得ないだろ。

 どんだけ遠くに逃げたんだよ。


「あ、なにかいるよ」


「リシャル、まだ撃つなよ」


「わかってる。この距離だと加減ができないからね」


 お、説明した甲斐があったかね。


「そろそろみんなにも見えてくるよ」


 どうやら熊みたいなやつだな。

 それが3頭。


「左の字、あんな可愛い子を狩るの?」


 へ?

 巴さんなに言ってるの?

 というかあれ可愛いのか?


「村長、後生だ。あいつは勘弁してやってくれ」


 出てくるなよ猫耳おっさん。

 間違ってその耳と尻尾を刈り取るぞ。


「落ち着け巴。よく見ろ、あれが可愛いのか?」


「どこからどう見ても可愛いよ!」


「可愛いぞ!」


 こいつらの基準がわからん。


「巴、あそこに見えてるのは距離があるから小さく見えるが、多分4メートルくらいある熊だぞ」


「大きさなんて関係ないよ! 見てよあの愛らしい顔を」


 歴戦の猛者達にしか見えねーよ。

 なんか喧嘩してるっぽいし。


 あ、こっちに気づいた。

 一番でかいのがこっちに向かってきたぞ。


「ほら左の字。あんなに可愛いじゃないか」


 めっちゃ雄叫びあげてるし。

 めっちゃ牙剥き出してるし。

 めっちゃ涎垂らしてるし。


「どこをどう見てもやべえやつだろ」


「やめてくれ、村長!」


「左の字!」


 あ、熊の顔が吹っ飛んだ。


「「ヨシヲーーー」」


 誰だよ。

 勝手に名前つけるなよ。


「んー、中々力加減が難しいかな」


 なんかこうすげえな、リシャル。


「もう少し力を絞ってと」


「リシャルさん、もうやめてえ」


 お?

 残りの二頭が腹だして寝転んだそ。

 降伏のポーズか?


「ほらボクたちにお腹見せて降伏のポーズだよ」


「ふーん。次は頭を吹き飛ばさないのうにっと」


「もう、やめてええ」


「やめてくれえええ」


 はあぁ。


「リシャル止めろ」


「わかったよ」


「今のうちだよチョコ太さん、魔獣達を説得してきて!」


「任せろ!俺の魔獣言語で説得してみせる」


 へー、語学スキル持ちか。

 ホントに熊と話してるみたいだぞ。

 お、終わったみたいだな。


「おーい、村長終わったぞ。今日からこの二頭は村長のとこの村民だ」


 え?

 本気ですか?

 ってホントにこっちに頭下げに来たんだけど。


 熊二頭が仲間になった!

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