第85話

 移動式天幕様々だった。

 いや移動式天幕のせいで遠慮が無くなったのか?


「お疲れ様です、我が主」


 ホントにな。


「ダルダロシュさんとディラグラシアさんは?」


「お帰りになられました。私達の目的地を知っているそうで、後日改めていらっしゃるとのことでした」


 帰ったのか。

 ろくに話もできなかった。

 というか正座して叱られてただけじゃねーか、あの二人。


「ノーナ女王とダラガナン将軍は?」


「大防壁内に泊まっているので、時間の都合がつくならば主に会いたいそうです」


 お隣さんになるかもしれないしな。

 今後のご近所付き合いも考えて、出発の前に一度会っておいたほうが良さそうだ。

 特に被害はでてないが、迷惑をかけたことに変わりはないしな。


『サシチー』


「ポピー、起きたのか」


『私だけね。みんなはまだ寝てる』


「いまから女王と将軍のところに行くんだか、着いてくるか?」


『いいの?』


「いいぞ、ただしあんまり騒ぐなよ」


『わかったわ! ここでおとなしくしてる』


 パーカーのフードに入るのかよ。

 動いたら揺れないのかね?

 たのむから酔うなよ。




「ヒダリ殿、よく来てくれた。女王も中で待っている」


 あっさり通してくれたけど、いいのかね?


「む、どうした?」


「いえ、あっさり通してくれるなと」


「我が軍に、竜族を拳一つで倒せる相手を止められる者などおらんからな」


 止めるだけ無駄ってわけか。

 しかし、わかっててもそれやるかね。

 豪快というかなんというか。

 ダラガナンさんいらん苦労してそうだね。


「中へ」


 お、ダラガナンさんも部屋には残るのか。


「ヒダリ殿。昨日は助かった」


「ノーナ女王、私達の身内の騒ぎに巻き込んでしまい。申し訳ありません」


 ほんとに申し訳ない。

 ポンコツはクリスだけじゃなくて竜族全体なのかね。

 ただの親子喧嘩が偉い迷惑なことになってるよ。


「あれが身内の騒ぎか、やはりヒダリ殿はとんでもないな」


 いや、俺は普通ですよ。

 とんでもないことしてるのは主に妻やら眷属ですので。

 あいつらと一緒にしないでください。


「なにか用があると聞いたのですが」


「ふむ、用というかだな。ヒダリ殿に聞きたいことが」


 なんだろね?

 移動式天幕のこととか聞かれても、あんま答えられんぞ俺は。


「もしよければなのだが。ヒダリ殿がここに来た目的を教えてもらえはしないだろうか」


 そっちか。

 国の長としちゃ、竜やらなんやらこれだけの戦力を抱えている集団が何をするのか気になるよな。


「自分の村を作るための土地に、移動している途中なだけですよ」


「村?」


「なんでもあの森を越えたところに、候補地があるらしくて」


「狂竜アスクリスの住み処か」


 それなりに有名なのかね。


「案内しているのが彼女なので、多分そこだと思います」


「となると『帰らずの森』を越えた、さらに先か」


 なにその物騒な名前の森。


「この森の魔獣が異常なほど強くなっていてな、入ったやつはほぼ帰ってこないことからついた名前だ」


 クリスさん、とんでもないとこに連れてってくれてるのね。


「といっても狂竜や神代竜に比べたら、特に問題のある相手でもありませんので、ヒダリ殿が気にする必要はないかと」


 まあ、外との交流経路なんかは色々と手はあるからな。

 なんとかなるだろ。


「それでですね、ヒダリ殿。もしヒダリ殿が村を作られた際には、是非ガウンティ王国と交流や取引なんかをしてもらえないかと」


 お、お隣さんの方から近づいて来てくれた。

 だが、当面小さい村だぞ。

 この国にメリットがあるのか?


「そこまで警戒しなくても大丈夫だよ。はっきり言って、この取引やらで儲けなんか無くたっていいんだよ。それよりもヒダリ殿の治める村と友好関係にあるという事実がほしのさ」


 なんかデルバレバでも同じようなこと言われてたな。

 まあ、たしかに俺の村と友好関係にあるとわかっていれば、ダルダロシュさん達にも襲われ難くなるのかね?


「わかりました。村ができて、ある程度落ち着いたらまた伺います。その時に話を詰めましょう」


「わかった、それでかまわない。良い村ができることを願っているよ」


 そうだよな。

 まずは村を作らなきゃだよな。


「ありがとうございます」


「最後に、そのローブのフードにはいっているのはなんだ?」


「これは妻の一人ですよ。ポピー、出てきていいぞ」


『初めまして、ノーナ女王。サシチ・ヒダリの妻、ポピレナシアと申します』


「こちらこそ、よろしくたのむ。ポピレナシア殿」


 お、機械言語が使える人がここにもいたよ。


「ん、ああ。私の趣味を極めるためには、魔動機兵の仕組みに精通している機人種の方々と、話す必要があったからな」


「機人種に対して、差別的な扱いをする国も多いと聞きますが」


「うーむ、どうだろうな。少なくと我が国ではそういった動きは聞かないな」


 どういうことだ?


「ここら一帯は光神教の影響が、ほぼ存在しないからな。なので機人種がどうだとか言う連中は、ほぼ存在しないな」


 なるほどね。

 住みやすそうなお隣さんだ。


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