第83話 ダルダロシュの思い
婿殿が娘達に拉致されて行った。
婿殿、うん、なかなかいい響きだね。
しかし、我が娘ながらとんでもない男をえらんだみたいだね。
「あなた、サシチさんのお連れの方とお知り合いだったのですか?」
「ああ、そうか。君はあの時代にまだ生まれていなかったものな」
「?」
あの時代を知る者も、もうほとんどいなくなっているのか。
「君が生まれる200年程前辺りまで、この世界はたった一柱の神と激戦を繰り広げていたんだよ」
「初めて聞きましたわ」
「そうだろうね。あの時代を知っている者達はみな口を噤んでいたからね」
まあ、竜族としてもあまり触れられたくない過去でもあるしね。
「あなたもその神と?」
「ああ、戦ったよ。先代の神代竜の元に集まる竜の一体としてね」
「結果は?」
「先代も含めて足元にも及ばなかったよ」
「神代竜に率いられた竜族がですか?」
「そう、本当に手も足も出なかった。そして多くの仲間を失ったよ」
本当にひどい戦いだった。
あの時までは竜族も神にも反抗できると本気で思っていたからなぁ。
「なぜ、あなたは無事だったのですか?」
「先代と私、それに何体かの竜を彼らが気に入ったらしくてね」
あれは多分、本当に気まぐれだったのだろうな。
「自分達とまともに戦えるようにと、鍛練させられたんだよ」
あれを鍛練と言っていいのかはわからないけどね。
なんせ、下っ端だったはずの私がいつの間にか、時期神代竜候補になるくらいまで強くさせられたからね。
「よく分からないって顔だね。当時の彼らが暴れていた理由って言うのが実に単純でね。強い相手と戦いたい、ただそれだけだったんだよ」
「それが何故あなたの鍛練に?」
「簡単だよ、私達を強くすることで自分達が楽しめるからさ」
「……まるで子どものようですね」
「そう、そんな子どもみたいな行動に世界中が振り回されたのさ」
「他の神々は黙っていたのですか?」
「黙ってなどいないよ。自分達の眷属を連れて戦いを挑んださ。そこに世界各国の軍隊も結集してね」
「それでどうなったのですか?」
「全て返り討ちにされたよ。世界中の軍隊もそこでボロボロにされた」
「たった一柱の神とその眷属にですか?」
「そう、そして世界各国は力を失った。その後は国同士の戦争や内戦なんかが頻繁に起こって、世界中が荒れに荒れたよ」
世界が荒れた原因は自分達の無謀にあったんだよね。
それをすべて彼らの責任にして、さらにはあの時代そのものを無かったことにしてしまっているのはどうなんだろうね?
「その後はどうなったのですか?」
「彼らの方が飽きてしまったらしくてね。自分達から封印されていったよ」
「嵐のような方々だったのですね」
「そうだね、世界を飲み込んだ大嵐だね」
「クリスの選んだ男性は、誰も退治できなかったその大嵐を退治し、その配下を従えているんだよ」
その大嵐をさらに越える存在が出てくるとはね。
自分達に不都合な歴史を抹殺してしまったこの世界が、彼の逆鱗に触れないことを願うしかないかな?
「我が娘は、凄まじい男性をつがいに選んだのですね」
「でもそのお陰で、その凄まじい男性は私達の身内。竜族の安寧を考えるとクリスは素晴らしい選択をしてくれたね」
「そうですね。政略結婚としてもこれ以上はないという結果ですね」
本人たちも幸せそうだし、よくやったよクリス。
やっぱり、我が娘は最高だ!
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