第6話 白い空

 また真っ白な空間か。


 体は繋がっている。

 他の部分にも影響はない。

 だが夢だったということではないようだ。


 100mほど先の方に、先程のランガーと呼ばれた男がいる。


 なんにしてもまったく情報が足りない。

 さっきの爺さんの口振りだと、本当か嘘かは分からないが、あそこに立っているランガーという男を倒さないと、私はこの白い空間から出られないらしい。


 とりあえずは聞いてみるか。


「ランガーさん?」


 反応がない。

 声が届いていないのか?

 もう少し大きな声をだすべきか。

 呼び方も変えてみるか。


「ミスターランガー?」


 またも反応がない。

 近づいてみるか?

 いや、また真っ二つになりそうだ。


 そういえば地球がガンドラルに飲み込まれたとも言っていた。

 この状況を考えるとガンドラルオンラインはただのゲームではなかったということなのだろう。


 ガンドラルか……。

 ゲームの中のステータスボードをイメージしてみる。

 予想通り目の前に見慣れたボードが出現した。


 ボードには見慣れた単語。


ネーム  :サシチ

種族   :普人族

属性   :無属性

ジョブ  :家政夫

ジョブ説明:家の政を取り仕切るもの

ジョブ特性:自分の家の中の状況を把握できる。自分の家の中であればすべての能力とスキル効果が上昇する。


所持スキル

格闘  :素手での戦闘を行うためのスキル

投てき :ものを投げたり投げつけるためのスキル

調整  :料理の時の味付けの調整に役立つ

解体  :獲物を解体するのに効果を発揮する(料理の際には材料を切る時の補助にもなる)

判別  :食材やアイテムに危険があるかを見分ける

味覚  :良い味をつくりだしやすくなる。料理の効果が上がる。また料理の素材の吟味にも効果を発揮する。

害虫探索:周囲の敵を探索、察知する(ただし自分よりかなり弱 い相手に限る)

害虫駆除:周囲の敵をロックし排除する(ただし自分よりかなり 弱い相手に限る)

家の政 :自分のホームの中にいる住人すべてに全ステータス異常と体力、魔力を徐々に回復する。回復させるキャラは任意で選ぶこともできる。

また、人数制限はあるが一定数の住人のステータス強化とステータス異常耐性を付与できる。付与できる住人の数はスキル所持者の能力に比例する。このスキルは対象者がスキル保持者をホームの主と認めている場合のみ効果を発揮する。このスキル効果はスキル所有者にも適用され、その効果は所有者を主と認める者の数及び主と認めている者の能力に比例して上昇する。


 なんだこの見慣れないスキルは。

 家の政?

 範囲回復だったはず……。


 私の家にいる間はみんな強くなるが、家から出たら元に戻る。

 私自身も家の中限定で強くなる。

 内弁慶のような能力だ。

 役に立つのか?


 細かい検証は後回しだな。

 この場を乗り切らないことには、検証することも難しい。

 そしてこの場を乗り切るためには、あの爺さんが言っていたようにランガーという人を倒すしかないのか?


 倒すといってもどうするか。

 戦闘なんてものは完全に素人だ。

 経験なんてあるとすればゲームの中だけ。


 ただゲームで経験していたスキルを使えるようだ。

 となるとあのゲームの感覚でやってみる、か。

 できるか?


 いや、できるかできないかではなく、やるしかないか。


 このあたりより前に進めば真っ二つにされた斬撃?が飛んでくるはず。

 まずはなにをされたのか、なにがができるのか検証だ。

 自分の体を使うのが少々きついがやるしかないだろう。


 まずは相手の動きを注視して。

 抜刀!?

 首かっ!?



 また真っ白な空か。

 どうやらまた殺された?ようだ。

 この空間では死ぬってことがないのか?

 痛みがないのは即死だったからか?


 死という状態になるとここに戻されるようだ。

 まさにゲームか。


 今回は首が飛ばされたようだ。

 柄に手を添えたときにはもう切られている感じだ。

 防げるか?

 小手も防具もない素手では難しいか?


 であればゲームの時のように斬撃にひと当てして軌道をそらすしかないか。

 とにかくやってみるか。


 このあたりを越えると……。

 構えて、柄に手が。

 きた!

 そらせるか!


「がっ」



 真っ白な空か。

 今度は首ではなく胴体だったな。

 見えないものはしょうがない。

 今はあの斬撃が来る間は勘で対応するしかない。


 検証だ。


 来る!

 拳で下から突き上げる。

 手応えあり、それた。

 距離をつめる!


「ぐっ」


 右腕に激痛?

 右腕が切り飛ばされている。


「があああああああ」


 ものすごく痛い。


「あ」



 また白い空か。

 痛みで怯んだ隙に首を飛ばされた。

 とてつもない激痛だった。


 これはかなり厄介だな。

 今すぐ活路を見いだすのは難しそうだ。

 とにかく思考速度をあげ、対応できるよう努力していくしかないか。


 そのためにはまずは「私」を辞めないとな。


 仕事という場面では有効だったんだがな。

 やはり思考の瞬発力が落ちる。

 ここからは「俺」に戻ろう。


 どうせあの爺さんの言葉が本当なら仕事もなくなってるだろ。

 結構苦労したんだけどな、あの口調を身につけるのは。

 まあ、ここを切り抜けないとどうにもならないんだ。


 切り抜けてやるさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る