第2話 不可解な現場

 一人で帰った日から翌日、僕はいつも通り学校に来て、退屈な授業を受け、いつの間にかお昼時間になった。学食に向かう者や、教室で弁当を食べる者など、それぞれ楽しいランチタイムを過ごす中、僕は別館の屋上で彼女を待っていた。


 だが待っても彼女は現れなかった。のどが渇いた僕は、飲み物を買いに自動販売機へと向かった。この時はまた仕事を頼まれたのだろうと考えていた。

 

 階段を下りていくと、ざわざわとした声が聞こえてくる。なにやら空き教室前に、約10数名ほどの生徒が中の様子をうかがっていた。僕はなんとなく教室の中を覗いた。


 中を見た瞬間、僕の体と頭がカチりと固まった。中には、頭から血を流し、うつ伏せとなって倒れている女子生徒と、その生徒の様子をうかがう男性教師と女子生徒。そして倒れている女子生徒は、まぎれもなく僕の彼女である井口奈央いぐちなおだった。


「奈央!!」僕は奈央のもとに駆け寄る。頭から出血はしてるものの、生存は確認することができた。

「どうしてこんなことに」眼鏡をかけた年齢が若めな教師がそうつぶやいた。

「先生! これ!」

 僕と教師は視線を女子生徒に向ける。女子生徒は窓の敷居の角を指さす。そこには血痕がついていた。おそらく奈央の血だろう。窓の敷居の高さは僕の腰ぐらいだ。


 えっ…だとしたらこれはおかしい……!


「つまり、井口さんがどうしてこの教室に居たかは謎だが、足をつまづいて体勢をくずし、角に後頭部をぶつけてしまい、この状況なったということか」

「つまり、これは事故…」


「事故じゃない」

 対極の言葉に発した僕に、教師は少し興奮気味になげかける

「なにを言ってる! この状況どう考えても事故だろう」

「先生、少し協力していただけますか? これが事故ではないと証明するために」

「…一体何を?」


「まず手を頭の後ろで組んでください」

 教師は指示の通り、手を頭の後ろで組む。

「ではそのまま窓から2歩ほどの距離で、窓に背を向けて立ってください」

 教師が指示した場所に立った瞬間、僕は教師を両手で軽く突き飛ばす。教師は壁にぶつかり、もたれかかって崩れ落ち、座り込んだ。


「いきなりなにをするんだ!!」教師は怒りをぶつけた。

「すみません、先生。でもこれで証明されました」

「どういうこと?」女子生徒が質問する。

「窓の敷居の角は僕の腰ぐらいの高さだ。僕の身長は168センチ。そこに後ろへ体勢を崩してぶつかると、本来、座り込むように崩れ落ちるはずなんだ。先生のように」

「でも奈お……女子生徒は前のめりで倒れている」


「つまり…?」

「つまり、事故に見せかけるよう第三者が偽装した…」

「殺人未遂事件ってことだよ」

 

 教室がしんと静まる。でもそれは数秒だった。奈央が意識を取り戻したのだ。

「……、痛っ…!」

「大丈夫か?」僕は上体を起こした奈央の背中を支える。

「ハルくん……」

「ここで何があったんだ?」

 僕の問いに奈央はぽつりとつぶやく。

「いちじょう…くんが…」

「一条?」

「俺がどうしたって?」


 僕はその声のした方に視線を向ける。


 ここから、僕の全生徒を敵に回す戦いが始まろうとしていた。



 

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