第15話 学園都市
*
一行は既にドレイム国境を超えた。
街道に設けられた関所を通過し、進む事数時間。
時刻は昼前。
目の前に見えてきたのは巨大な西洋風の城の上部と、それを囲んでいるであろう巨大な薄灰色城壁。
現代風に言えばコンクリートの壁だ。
「見えたぞ!あれがドレイム領国の学園都市だ!」
リヒャルドの言葉に釣られ、車窓から学園都市を覗く。
「すっご!」
でかい。
城壁だけでもかなりの大きさ。
下位の魔物の侵入はほぼ不可能であろう屈強さが見て取れる。
メイも思わず感嘆の声を上げた。
ワンズが衛兵に通行証を見せると、荘厳な両開きの扉がズズンと口を開け、荷馬車と乗合馬車を迎え入れる。
城壁内部は巨大な城下外。
かなりの人で賑わっており、馬車が通るのもままならない。
ワンズが道を開けてくれと叫びながら進み、ようやく広場に到着した。
本来ならば到着時刻は夕方であった。
しかし、今は昼前。
恐らく朝食のパンチが効いたのだろう。
ゴートを丸々使った焼肉フルコースに、携行食であるゼリーやパン等の主食に珈琲のセットだ。
中々の豪華さに魔力も体力も回復しまくりだったのだろう。
まぁ流石にメリルの骨折までは治せなかった様で、今頃痛くなって来たのか荷馬車の中のベッドで大人しくしている。
「それじゃあ皆さん、ありがとうございましたっ!」
馬車を前に、メイは深々とお辞儀をする。
「こちらこそありがとう。荷物が無事なのは『宵の三日月』は勿論、メイさんの貢献のおかげだよ。君が大人になったら必ず良い話を持っていくよ!必ずだ!」
ワンズが力強く握手をし、メイの肩をポンポンと叩いた。
レヴィも今頃動けないであろうメリルの代わりにメイに言葉を託す。
「何か困った事があったら連絡を頂戴。必ず駆けつけるわ!」
他のメンバーもうんうんと頷いた。
2日未満の仲ではあるが、メイ的にはなんとなく気心知れた仲になれていたようで、少し目頭が熱くなった。
「それじゃ、またね。」
ワンズの言葉で、一行はメイを置いて『アンスウェイ社』の本社がある隣町へと向かった。
時刻は11時30分。
晴天だ。
「さて、と。」
とりあえず明日の試験の前に、今日の宿だ。
腹ごしらえも兼ねて学園都市のメインストリートでも散策しよう。
そう思ったメイは広場を出て、街中へと入る。
やはり賑やかだ。
アントランドとは違い、学生が目立つ。
赤いチェックのズボンやスカート、胸元に金の刺繍が目立つ紺色のブレザーを羽織っている。
それに加え、アントランドには大量にあった商業施設のビルや工業地帯は無い。
「でもまぁ色々お店があるなぁ。」
コンビニの様な商店や、飲食店、雑貨屋に文具屋、ショッピングモールや映画館等もある。
それに他の施設も沢山あり、役所や博物館を始めとして絵画展や物産展の開かれている施設もある。
そして中央に聳えるはアンソロポジー魔術学園。
中世のヨーロッパ建築(主にロマネスク辺り)を彷彿とさせる様式で、現代社会で人気を博した魔法学校を思い出させる。
ぐぎゅるるるるる.....
『ハッ、大食漢のおなーりーってな!』
ケラケラと笑うトカゲの首元をキュッと締めながらメイは手頃な飲食店の扉を開ける。
変な声を出すトカゲは腰に掛けているホルスターにしまった。
チリンチリンと、木製の扉が来客のベルを鳴らす。
「いらっしゃいませ!お客様何名様でしょうか?」
手馴れた様子で訪ねてくる店員のお姉さん。
といっても現実世界ではメイも同年代であろうが、今は1回りくらい離れていそうだ。
静かに人差し指を立てて、孤独を告げた。
「1名様ですね!ご案内致します!どうぞ!」
「「「「いらっしゃいませー!!」」」」
厨房や他の店員達から発せられた大合唱に少し驚くが、案内されるがままに店の奥の1人用の席へ着く。
窓際で、陽の当たらない涼しい席だ。
店内も木目や煉瓦を基調としていて、落ち着いた雰囲気である。
逆に店員は活気があり、サービス精神も旺盛。
丁度お冷が運ばれてきた。
「こちらサービスのお水です。ローレフト地域西端のアントランド王国の北側、ブレイク領国に広がるビオン湖のお水でございます。」
「あ、ありがとうございます。」
渡されたコップに口をつける。
美味い、水である。
氷も角が取れて、良い塩梅の冷たさであった。
「こちらメニューでございます。」
手渡されるのは黒い冊子。
厚さ1cm程のその冊子には写真付きで様々な料理のメニューが記されていた。
「お決まりになりましたら、そちらのボタンで及び下さいませ。」
示された方、壁際に置いてあるボタン。
( これって通信技術なんじゃ...。)
メイは店内に張り巡らされるコードを見て、その考えを否定した。
よし、とりあえず何か食べようとメニューに見入る。
オーク肉のローズドンマリーの香味ソテー
ドレイム・オ・サーモンのブラッドマリネ
モチモチ麺のレイオン湖風
等々...。
わかるようでわからないメニューの数々を写真と見比べて吟味していった。
そしてボタンに手を伸ばす。
ピンポーン
店内に鳴り響くボタンの音と店員の大合唱に、おひとり様のメイは少々目眩を覚えた。
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