第14話 朝食




明朝、肌寒さでメイの目は覚めた。

あたりは既に明るい。

朝方5時くらいか。


上半身を起こして周りを見渡す。

未だ戦闘の跡が残る街道と、魔物の残骸がいくつか転がっている。

野営場所の隅で、メリルとマークスとワンズが朝食の準備をしていた。


ふっと息を吐き、乗合馬車から飛び降りる。

もちろん『ランちゃん』も忘れずに肩に乗せて。

乗合馬車の中には寝息を漏らすレヴィがいるが、もう少し寝させてあげようと配慮し、とりあえず3人の所に向かう。


「おっ、早いじゃん!」


「おはよう、君は幼いのに早起きで偉いな。」


「メイさん、おはようございます!」


マークス、メリル、ワンズが、寝ぼけ眼を擦りながら近づくメイに気づき挨拶する。


「...おはようございます。」


少し掠れた声でそれに返し、咳払いをする。

転生した今でも、朝の空気は少し苦手だ。

眠気を押し殺してレア掘りしていた記憶や、忙しなく学校へ通う準備をしていた頃を思い出す。


メリル達3人はそれぞれ役割分担をして作業していた。

マークスが調理、メリルが火起こし、ワンズが席を設けている。


「まだ少しかかるから座って待ってな!」


マークスが昨日のゴートの肉に小型のナイフを通すところだ。

しかしその肉は細く、全員の朝食分としては心許ない。

だが丸々原型を留めていたゴートはメイが収納してしまったのでこんなものしか残っていないのだ。


「...言ってくれれば全然出しますって!」


申し訳無さそうにメイが笑いながら丸々太った気絶したゴートを取り出す。

マークスは一瞬目を丸くするが、思い出した様に困った笑みを零した。


「はは、そんなに君に迷惑はかけられないかなと思ってさ。」


「全然気にしないでください!」


メイの気遣いに感謝を述べ、ゴートを受け取る。

その代わりと言って、淹れたての珈琲を手渡してきた。


「おいおい、そんなの飲ますのかよ...。」


「いいだろメリル。高級品だぞ。」


そういう事じゃ無いんだがと、肩を竦めるメリル。

ワンズはそれを知ってるのかニヤニヤと見ている。


「珈琲なんてあるんですね!ありがとうございますっ!」


「おっ、知ってるのか!?いい香りと味だよなぁ、岩山丘の『エアード・フォックス』の糞から出来てるとは思えないよね!」


ブッ!!!


どうやらこの珈琲は現代社会で言う所の『コピ・ルアク』の様な物らしい。

そうと解ればメイにとって別に問題はないが、結構衝撃的であったために、吹き出してしまった。

正確には糞からではなく、糞から取り出した豆から出来ている。


やれやれと呆れたメリルがタオルを手渡した。

少し汚れてしまった顔や皮装備を拭き、『浄化魔法』をかけてタオルを返す。

メリルは少し驚くが、既に規格外のメイならおかしくないと思ったのか逆にありがたいと綺麗なタオルを受け取った。


「この珈琲って他のに比べてかなり高いんじゃないですか?」


確か『コピ・ルアク』ならば通常価格の8倍近くの値がつく筈だ。

しかしマークスは訳がわからないといった表情をしている。


「確かに高いには高いが、この珈琲以外の珈琲なんか無いぞ?」


「えっ!?」


単純に驚いた。

この世界では珈琲の入手方法が糞しかないというのか。

糞しか飲んでないのか。


不憫に思ったメイは少しサービスをする。

空間魔法から取り出したのは現代社会で言う所のインスタントコーヒー。

小さな真空パックに1人分の分量。

それを12袋。


「これ、どうぞ。」


「こ、これは、珈琲なのか?」


「お湯を注ぐだけで作れますよー。」


しどろもどろするマークスにそれを手渡した。

これで朝食のメニューはかなり豪華になるだろう。

期待に胸を高鳴らせて、皆が起きるのを待った。



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