第8話 学校
時刻はそろそろお昼になる。
(そうだ、図書館に行こう。)
そう思い立ったのは『旅荘 岩山丘』をチェックアウトし、小一時間周辺を散策していた時だった。
メイは頭が悪い方では無い。
むしろいい方だ。
しかし、この世界については何一つ分からないと言っても過言ではない。
現に、目の前の雑貨屋に置いてある半数の品物が何なのかわからない。
その隣の店に至っては、何の店なのかすらわからない。
(残り3日で詰め込めるだけ詰め込もう。)
その図書館という物が存在するかすらわからないのだが、メイの表情は悪戯を思いついた悪ガキ並に輝いていた。
ランはため息を吐きながら呆れる。
( 全く、先が思いやられるぜ…。)
*
図書館探しを始めてから数時間が経過した。
いま、メイの目の前にあるのはガラス貼りで巨大な平屋の建物である。
『アントランド国立図書館』
紛れもなく図書館である。
遠目からでも見て取れる本と本棚の数は、帝国中の本をかき集めた事を疑う程に無数に並べられていた。
「や、やっと着いたぁ...!」
時刻は夕方5時。
中心部の大規模な繁華街の中に忽然と現れた巨大な公園。
その中にアントランド国立図書館はあった。
無数の巨大な施設や建造物、小型のビルやオフィスの様な建造物、そして住宅街。
仮にも王国であるアントランドの中を走り回った結果、こんな時間になってしまった。
それはメイとランを疲れさせるのには充分な時間だった。
体力的にではなく、精神的に。
「闇雲に探すからこうなるんだぜ...?」
ランが不服を唱えるのは最もであった。
そして不幸とは、度重なる物である。
『営業時間:午前8時~午後5時』
「ぐっ...ちくしょうっ...!」
一生の不覚。
本人に自覚が無いとはいえ、メイは両手両膝を地面につきながら王族とは思えない言葉を吐いていた。
*
午後7時。
図書館に不戦敗を喫したメイは、覚束無い足取りで『旅荘 岩山丘』の食堂へと来ていた。
家の無い彼女は、泣く泣く今夜も此処に泊まる事にしたのだ。
安くて清潔なのは乙女にとっては大きなメリットである。
そして、飯も美味かった。
バクバクバクバクと、食堂の一角でやけくその様に次々と料理を平らげるメイ。
周りのハンターや商人も、1人で既に大人10人分は食べたであろう彼女に注目していた。
忙しなく働く給仕も(主にメイのせいだが)差し出された札束ならぬ『食券束』には、さぞ困惑しただろう。
メイは食べる手を止めない。
不戦敗のヤケ食い、というのも理由だが、普通に料理が美味いのだ。
今食べているのは王道のペペロンチーノ...だと思う。
しっかりと麺に絡んだ油には、ベーコンやニンニクの香りが染み渡っており、辛味も程よく食欲をそそった。
何よりピーマンとパプリカによる彩りが綺麗で、塩加減と茹で加減も完璧だ。
現代でもお目にかかる事の少ないクオリティである。
お次は炒飯...かな。
細かい賽の目状にに刻まれたチャーシュー、タマネギ、人参等の具材。
卵が隙間なく絡んだパラパラの米。
そしてゴマ油と醤油の素晴らしい風味。
全てが絶妙に絡み合い、メイの右手を黙々と動かす。
その後も何皿か食べ切り、魚介の味噌汁を飲み干した所でメイの動きは止まった。
カチャリと箸を置き、パンっと手を合わせる。
「ごちそうさまでしたっ!!」
うぉおおおおおおお!!!
食べきったぞアイツ!!
すげぇえええ!!
野次馬と化した他の施設利用者やハンター、商人達の歓声が沸き上がった。
そして、ヘナヘナと座り込む給仕や店主達。
「「「「「終わったぁ~!!!!」」」」」
『旅荘 岩山丘』の面々にとっては、幸か不幸か『戦争』が終わったのである。
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