第9話 ドレイムへの旅
*
翌朝。
今日こそは図書館に行こう。
場所は覚えたし、入学試験まで残り2日。
例え一夜漬けだとしても、やらないよりマシ。
そう考えていた。
メイが居るのは食堂の片隅。
テーブルを挟んで向かい側にギルドマスターが座っていた。
「朝から呼び出してすまない。君には今からアンソロポジー魔術学園へ向かってもらう。」
「え?早くないですか??」
今からとなると、勉強する時間等無い。
昨日のあれほどの苦労が水の泡になってしまう。
メイの感覚だと、アントランドを明日(4月6日)出発すれば余裕で間に合う筈だ。
その感覚は間違っていない。
恐らくメイの身体能力ならば本気を出して走れば10分、普通に歩いて1日かからない。
しかしながら現実は違った。
「ドレイムへは乗合の馬車で行ってもらう。」
「そ、そんな...!」
当たり前ではあるが、少女を1人で街の外へ追いやる訳にはいかないらしい。
乗合馬車。
現代社会で言えば『バス』の様なもの。
但し、速度はめちゃくちゃ遅い。
ドレイムへのルートは普通の街道ではあるが、舗装がされていない。
馬車の車輪は只の金属製でありゴムタイヤ等無く、椅子は木製の長椅子。
乗り心地は最悪だ。
他の客と、スピードによる横転等のリスクを考えると、休み休みで2日は必要なのだろう。
( 気が遠くなりそう...。)
「話、聞いてるか?」
心配そうな相手の視線を他所に、死んだ魚の目で残りの説明を聞き、ギルドマスターに連れられるがまま乗合馬車の集合場所へと向かった。
*
集合場所には2台の馬車と数人のハンター、そして商人であろう小太りの男性が居た。
「え...?」
「はぁ...その様子だと後半の話は聞いてなかったな?」
メイの横を歩いていたギルドマスターがため息混じりにもう一度説明する。
今回の乗合馬車はハンターズギルドの依頼も兼ねている。
ドレイムへ向かう商人とその荷馬車、続いて領国ワン・領国ドレイムへの定期便の乗合馬車。
その2つを護衛するのがハンターズギルドへの依頼だ。
大概、乗合馬車というのは商人とその荷馬車が盗賊や魔物に襲われにくくする為に共に行動するのが基本。
このミストリア帝国の盗賊は基本的に少数精鋭。
その日を暮らす分の金目の物を頂くのが普通だ。
それに、国民や商人を傷つけてしまうと帝国軍や王国軍が派遣されてしまうので、大人数を襲う行為は盗賊にとっても旨く無いのだ。
数に任せて反撃でもされたら、ハイリスクローリターンになってしまう。
そして魔物も、人数が多い程近づいて来ない。
現代社会における熊と同様で、普通の魔物は人間が近づくと逃げていくのだ。
まぁ、物によってはその逆もあるのだが稀である。
そして今回はその商人による依頼。
余程の物を運んでいるか、念には念をれているのであろう。
あくまでもメイはその乗合馬車の利用者として同行する事になっている。
テクテクと近づいてくる男性。
メイが視線を向けると笑みを零し、挨拶をする。
「『大食いの道場破り』で有名な君の護衛が出来て光栄だ。私はハンターズギルドの『宵の三日月』でリーダーをやらせて貰っている『
そう言って握手を求めて来た。
爽やかな笑顔にスラッと伸びた背丈。
割りとイケメンに『大食い』と罵られ少し動揺してしまう。
「ど、どうも。」
握り返すと、小太りの商人も近づいて来た。
「私が依頼をさせて貰った『アンスウェイ社』で行商人をやらせて貰っている、ワンズだ。私も君の食べっぷりには感動したよ。よろしく。」
少なくとも自分の食事姿を2人に見られていたと知って、そして何故かそれを褒められた様で、メイは恥ずかしさの余りに顔を赤らめた。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
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