第3話 ギルド





帝歴223年。

アントランド王国。

世界4大王都に数えられる此処は、ミストリアの中王都に比べても遜色無い程に栄えている。


5年前、ハルバート王国が『古龍』に襲われた時は、国中が揺らいだが、今では落ち着いてきていた。

しかし、ハルバート王国復興の為の応援要請は途絶えず、アントランドの経済自体は忙しくともまだまだ調子が良いようだ。


そのハルバートはというと、緊急で開かれたミストリア評議会(貴族を統べる元老院長、ミストリア帝国の皇帝、ハンターズギルドの元帥、ミストリア商会の会長で行う国の方針を決める会議)にて、帝国の総力を挙げての復興と、王国の早急な再建が決定されていた。

ハルバート王国の第一位王女の消息は不明(死亡扱いにするには死体らしき物が見つからない)な為に、今は代役を隣国の中でも交易が盛んだった『モルジー』の候爵の長男が務めている。


そして此処、ハルバートとは東西が真逆に位置する『アントランド王国』にも、ミストリア中王都からの応援要請があったのだ。

理由はそれだけでは無いのだが。



そのアントランドのハンターズギルド。

ミストリアの中では老舗中の老舗。

老若男女問わず、腕の立つ猛者達が集まっている。

そこに居たハンター達は皆、乱暴に扉を開け放った少女に注目していた。


「たのもー!!!」


仁王立ち。

白昼真っ只中、道場破りをしてきた少女。

彼女は、目を逸らしたり、じろじろと見てきたり、物珍しさに騒いでいる歴戦のハンター達を横目に、ツカツカと受付カウンターへと向かう。


皮の鎧に、腰から提げた『拳銃ハンドガン』。

金髪に青緑色の淡い瞳。

そして肩に乗る黒いトカゲ。



『拳銃士ガンナー』か!?『召喚士サモナー』か!?

いやいや!!どう見ても10歳くらいにしかみえねぇ!!

というかギルドに道場破りって!



騒ぎ立てるハンター達。

無理もない。ハンターとは通常、仕事の無い流浪人やならず者達の仕事である。

ましてや女子供となると、数える程しか居ないだろう。

そして拳銃、彼女の様な者が持ち歩く物では無いのは容易に思いつく。


彼女は、受付嬢を睨みつけながら、バンッと申し込み用紙を受付カウンターに叩きつけた。


「ハンターになりたいんですけども!!!」


「は...はぁ...」


意地でも動かんぞ!と言わんばかりの彼女に戸惑い、受付嬢は少々お待ちくださいと奥の部屋へと消えて行く。


数秒すると、強面のオッサンが出てきて少女に問いかける。

恐らく此処のギルドマスターであろう。


「お嬢ちゃん、ハンターになりたいんだって?」


「えぇ。」


強気で答える彼女を不思議な目で見つめながらも、わかった。と、別室へと案内する。

周りのハンター達は、野次馬根性的には見逃せない案件。

案内される彼女を嬉々とした目で見送った。


オッサンに言われるがままついて行く彼女。

一室の前でオッサンに「ここで待て」と言われた。


コンコン


木製の丸扉をノックするオッサン。


「マスター、先程ご連絡した者をお連れしました。」


中から渋い声で「入れ」と聞こえた。

こちらへどうぞ、と誘導され部屋に入る少女。

どうやらあのオッサンはマスターでは無かったらしい。


通された部屋は至極普通の執務室の様。

丸テーブルの向こう側に座った、いつの間にか手に持つ彼女の申し込み用紙に目を落とす男性。

顔が伏せられているので詳細は解らないが、黒いスーツに派手な赤色のネクタイ、黒髪オールバックの齢4~50代程。

恐らく彼がアントランドのギルドマスター。


少女は久しぶりの面接の様な形式に、幾許かの緊張を覚えて生唾を飲み込む。


「ふむ...。」


一度一呼吸置いてギルドマスターが喋り出す。


「名前はメイ、年齢は10、性別は女、武器はありふれた拳銃、得意な魔法は特に無し、職業は『召喚士サモナー』で召喚獣は『トカゲ』ね...」


「正直に言って悪いんだが…この内容だとウチでの試験は厳しいと思うよ。」


少女はその宣告に肩を落とす。

どうせそんな事だろうとは思っては居た。

召喚士はまず、高ランク(少なくともBランク)の召喚獣を使えないと需要が無い。

やっぱり『拳銃士ガンナー』にしとけばよかったかなぁ…。




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