第2話 覚醒





ハルバート王国は変わり果てていた。

大地は巨大なクレーターと化し、家や施設の残骸は木っ端微塵。

忙しく動き回る兵士と無数の白いテントだけが目立っていた。


誇り高きハルバート王国は、暗黒竜に敗れ、壊滅状態となってしまっていたのだ。


今外に居る兵士はハルバートの兵では無く、隣国の『キプスマ』と更に隣の『ハバナ』の医術師団である。


彼らは元々、国王アズベルトが救援依頼を出していたのだが、ハルバートに暗黒竜の猛攻に耐える力は無く、キプスマ・ハバナの連合軍が到着する頃には時すでに遅しであったのだ。


暗黒竜の行方は誰も知らない。


直ちに彼等は、ハルバート王国民で想像を絶する戦闘の中存在を維持し、尚且つ未だ息のある人々のみを夜通しでテントへ匿っていった。








白いテントの一つ。

その一角で、眠れる少女が目を覚ました。


美しい金髪に、白いワンピース姿。

肌は透き通る様に透明で、大きめなエメラルドグリーンの瞳。

ワンピースに帯状に広がる血痕を抜きにすれば、容姿端麗な少女。

いや、少女とするには未だ幼い。

小さき女の子。



(.....?)



騒がしい兵士達の防具が擦れ合う音。

医術師達の怒号とも取れる指示。

どれもが彼女を困惑させた。



(...マジカル☆マジカのポスターが無い、知らない天井...)




普段と違う場所で、フカフカで無いベッドで、父とも母とも違う怒声。

違和感を感じたと共に記憶が流れ込み、混ざる。


(私は有原 芽衣...そして...)


ガバッと起き上がり、辺りを見渡す。

床に寝かせられた、人、人、人、人、人、、、、


そうだ、襲われたんだ。

母君と街を散策している時に。


(私は...メイリーン。メイリーン・フォルワーズ・ド・ハルバート!!!)



覚えている。

日本という国で育ち、高校生活を満喫していた自分。

マジカル☆マジカを大好きな自分。

ハルバート王国で第一位王女として生まれ、5年間育てられてきた自分。

暗黒竜に襲われ、母君と共に一瞬で切り裂かれた自分。


見下ろした己の身体は、メイリーン・フォルワーズ・ド・ハルバート。


少女は理解し、走り出す。

人と人とが並ぶ隙間を、出口へ向かって一直線に。


医術師が大声で引き止めても無視し、兵士が制止しようと手を出しても掻い潜る。

ただ白い光を目掛けて。



目の前に広がるのは、只々広大な大地。



「これって...異世界転生ってやつじゃん!!!」



すっかり明るくなっていた空に向かって、虚しき魂の言葉が木霊する。


かくなる上は、やる事は一つ!!

ここは対応力を褒めるべき!!


目を瞑り、神経を研ぎ澄ます。


次の瞬間、メイリーンの姿はテントの前から消えていた。



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