第4話 ギルド
「しかし、なぜまたハンターになりたいんだ?」
アントランドのギルドマスターは疑問に思っていた。
顔を上げ少女を観察する。
申請書に書かれている能力の低さは、とてもハンターには向いていなかった。
『召喚士サモナー』は高ランクでないと需要は無いが、普通のランクでも戦えれば問題ない。
しかし少女の持つ『召喚獣らしきもの』は『その辺で捕まえられそうなトカゲ』である。
動物に詳しい訳ではないが、『その辺で捕まえられそうなトカゲ』が戦えるとは思えない。
また、『
しかしながら目の前の少女からは微塵の魔力も感じないのだ。
『召喚獣らしきもの』とは、『その辺で捕まえて来た生物』と言うことだ。
「両親や家族は?家はどうしてるんだ?」
ギルドマスターが疑問に思うのは『
少女は、ハンターになるには若すぎた。
それこそ貧乏人や底辺ハンターとは違い、髪はサラサラで異臭もしない。
風呂や洗剤等には苦労していないとも言える。
それが意味する事は、ちゃんと中流階級以上の家が在り、家出をして遥々ハンターズギルドの門を叩いた訳でも無いということ。
じっと少女を見据える。
「えーっと...両親や家は襲撃に逢い...もう…...。」
諦めたかのように、そして話したくは無さそうに頬を掻きながら口を開く。
(...しまった!)
ギルドマスターは己の失態を悔い、焦る。
いくら少女とはいえ、ハンター志望の子。
ハンターになるということは皆々様が並々ならぬ理由を抱えている。
なので、ハンターには依頼時の『職業適性』に関する質問以外はご法度なのだ。
この少女も、話したくは無かっただろうに...。
襲撃となれば、盗賊か魔物に襲われて両親と共に家ごと全て失ってしまったのだろう。
その辺の村では良くあること、というより最近でも頻発している為に、そう珍しく無いのだ。
「なので、私は生きていくためにハンターになりたかったんですが…」
涙目になりながら震えた声で少女は答えた。
少しわざとらしいが、己の失態を悔いている最中のギルドマスターにはこうかはばつぐんだ。
「そうか、話したくないものを、すまない!!!」
立ち上がり、少女に深々と頭を下げる。
「いえいえっ!そんな!とんでもないですっ!」
両手をブンブンと振り、今にも地面に頭が着いてしまいそうなギルドマスターを制す。
そんなギルドマスターには更なる疑問が浮かぶ。
「...宿はどうしているのだ!?!?」
少女の装備品や武器である『拳銃』から予想するに、ある程度の小金はあったのだろう。
「あ、いえ、なので、ハンター登録して素材を売ろうかと...」
少し勢いのついた質問に、しどろもどろになりながらも少女は答えた。
素材を売る。
ハンターズギルドでは素材の引き取りを確かにやっている。
だが、魔力が無くても狩れる様な魔物は居ないために、恐らく薬草や木の実や金属類、木っ端等の生活必需品なのであろう。
そういうものは、雑貨屋に売るのが正解だ。
しかし、少女の生い立ちに同情している今、門前払いという訳にはいかない。
素材を売りにきたという事は、売れなければ野宿なのだ。
10歳の少女に野宿を強いたギルドマスター等、ギルドのトップとして、否、人としてどうかしている。
(...多少色をつけて買い取ってやろう。)
ギルドマスターはほんの優しさでそう思っていた。
「そうか...!ハンター登録は厳しくとも、素材は買い取ってやろう。持ってきなさい。」
受付嬢に指示しなければな。
門前払いされてしまう。
ドサッ
バタバタバタバタ
ギルドマスターは突如目の前に現れた魔物に目を丸くする。
真っ赤に染まった真紅の鱗、少し尖った口に生え揃う3センチ程のノコギリ状の牙、テーブル一杯に広がる巨大な四肢。
そして、背中から燃え上がる炎。
「っ!?フレイムアリゲーター!?」
フレイムアリゲーターと呼ばれた魔物を、少女が首元を抑えて制止させている。
「こらーっ!暴れるなっての!」
そういって腕に力を込める少女。
バキッという音と共に、フレイムアリゲーターは動かなくなり、背中の炎も消えてしまった。
「あっ...すみません、死んじゃったらやすくなっちゃいますよね?今晩のおかずにでもしようと思います...!」
申し訳無さそうにギルドマスターの方を見ながら、フレイムアリゲーターを片手で持ち上げ、魔法陣を展開した空間に突っ込んだ。
(オイオイオイ...!!!どういうことだッッ!!!)
目の前の状況に、頭が全く追いついていない。
アントランドとは反対側、ミストリア帝国の東に位置する『炎の山脈』にしか居ない筈のフレイムアリゲーターが生きたまま現れ、Cランクハンターですら難しい討伐を片手でキュッと行い、魔法が使えない筈なのに『空間魔法』を展開して収納した、10歳の少女。
「ちょっと...待ってくれっ!!」
五十路手前の初体験に、ギルドマスターは混乱していた。
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