赤ちゃんは知っている
こんにゃく王子
第1話
〜下界〜
「俺さ、昨日夜寝る前に急に『死ぬこと』について考えちゃって、怖くなったんだよね」
「あー、わかる、なぜか寝る前なんだよな考えるの」
就活の説明会の帰りだろうか、スーツ姿がまだ馴染んでいない若者が電車の中で話していた。ふと窓の外に目をやると、オレンジ色の光が綺麗に広がっていた。
〜天界〜
「おい、佐藤さん、お前んとこの曾孫就活も決まってないのに死ぬ時の話してるぞ」
「あー本当だな、まぁわしらも生きていた頃死を怖がらなくなるまで時間かかったろ。ん?山崎さんそれ就活と終活かけようとしてるのか?」
「いやいや、そんなことはせんよ」
少しバツの悪そうにシワシワの口を曲げた山崎は続けてこう話した。
「しかし、死んでからもこんな世界があるとは思わんかったな」
「そうだな、、、でもよ、『あれ』、みんなここに来て百年経つと吸い込まれる、『あれ』、何だろうな、、」
「そうだな、太陽のように輝いとる、『あれ』に吸い込まれるとついに無の世界に連れて行かれると言う人もおるな」
「うん、帰ってきたもんはおらんし、生前偉い学者さんだった人が調べたりしとるんだが、まだ解明できていないらしいな」
「怖いな、、、」
〜下界〜
「あーでもよぉ、俺は死ぬよりも就職のことが不安でならねぇわ」
「それな、マジ勘弁だわ」
若者2人がそう話していると、赤ん坊を抱いた女性が乗車してきた。
「あ、どうぞ」
「あ、すみません、ありがとうございます」
若者2人は女性に席を譲った。
「可愛い赤ちゃんですね、何歳なんですか?」
「ありがとう、まだ一歳にもなってなくて『あー』とか『うー』とかしか言わないんですよ」
「そうですか、21年後、就活頑張るんだぞ」
「ばか、お前が頑張れ、てか俺も頑張れ」
2人のやりとりにどう反応したら良いか困った様子の母親に抱かれた赤ん坊は、物心もついておらず、ことばというものを知らない。そんな赤ん坊は差し込む夕日を見て、ニコリと笑った。
赤ん坊は物心つくまでは記憶を持たない。それまで空っぽというとそうでもない。そこにももちろん記憶はある、それがどこからきた記憶なのかはこの話が示す通りである。
赤ちゃんは知っている こんにゃく王子 @nyakusan
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