レンアイ

「うーん、おままごとというには、少しに違う気もするわ 」

 高校生になってまさかそのワードを聞くとは思って無かったので、少し引いている私を尻目に、何やら真剣な顔で考えている。

 だがしかし、何故いきなりおままごとなんて言い出したのか。まさか、精神年齢が小学生で止まっているとか?だとしたら、精神病院でも連れていった方がいいのではないだろうか。

 私も私で馬鹿なことを考えているうちに、彼女の中で何かがまとまったようだ。

「そうよね、これはおままごとだなんて子供みたいなものでは無いわ! 」

 あ、自覚はあったんだ。

「という訳で美来ちゃん。 私と付き合って貰えないかしら 」

 さっきから耳を疑うような発言を放たれていたたため、もうちょっとやそっとでは驚かないしいちいちリアクションを取らないと思っていたが、その考えは浅はかだったらしい。

「そ、それはどう言う意味で? 」

「もちろん、恋愛的な意味でよ 」

 なぜか胸を張りながら言う彼女に、呆れを通り越して少し尊敬する。どうしてそんなに堂々と好きと言えるのだろうか。しかも女の子相手に。

「恋愛的にって、私も幸も女の子じゃん 」

「あら、女の子を好きになったら行けないかしら? 」

 どうやら、私の幼馴染はガチ百合になって帰ってきたらしい。人から好意を寄せられるのは嫌ではないが、それが恋愛的なもので、しかも同性からでは話変わってくる。

 そもそも、私は色恋沙汰の話は不慣れなのだ。恋愛経験は一切なく、なんなら恋というものがよくわからない。そんな私が、突然の告白に対してできる行動なんて、1つしかない。

「ごめん、少しだけ考えさせて 」

 それは答えを先延ばしにする。ただそれだけ。何故断らなかったのかすらも考えずに、私はその場から逃げるように帰宅した。カバンを放り投げ、ベットに飛び込む。ボフッという音とともにフカフカの布団は沈み、体を包んだ。

「さいっていだ、私 」

 いくら困惑していたからといって、告白してくれた子から逃げてしまったのだ。

 唸りながらベットの上で足をバタバタさせる。もしかしたらスカートがめくれてるかもしれないが、部屋には私しかいないので別に構わない。そんな事よりも、今は告白の話だ。逃げてしまった事で呆れられてるかもしれない。でも、もしそうでなかったら、私は幸と付き合うの?

 初めての事ばかりで、頭が混乱する。どうすればいいのかわからない。

「……このまま1人で悩んでても、仕方ないかなぁ 」

 カバンからスマホを取り出し、ある人物へとメッセージを送る。

『女の子に告白されたんだけど、どうすればいいと思う? 』

 返信は、すぐにきた。

『詳しく 』

 どうやら、相談に乗って貰えるようだ。






「まさかおっぱいちゃんが美来に告白するなんてなぁ 」

「ちょっと、あんまり学校で言わないでよ 」

 いつもより早く登校していたため、幸い教室には私たちしかいない。だから誰かに聞かれるわけでもないが、なんだか恥ずかしい。

「お、来たみたい。ほら、行けよ美来 」

 幸が教室に入ってきたのを確認すると、エリカに背中を叩かれる。

 深呼吸をしながら、ゆっくりと幸の机へと近づく。幸も、私に気がついたようだ。

「幸、昨日は逃げちゃってごめんなさい 」

 深く頭を下げた。昨日の私の行動は、告白してくれた人に対して失礼極まりない行為だった。だから、昨日の返事以前にこの事を謝らなければならない。

「あら、そんな事は別に気にしてないわよ? 」

 幸の手が顔に触れ、半ば強制的に顔を上げさせられる。

「私が気になるのは、返事だけ。別に催促するつもりは無いわ。ゆっくり考えて 」

「あ、その事なんだけど…… 」

 もう一度、大きく深呼吸をする。緊張で、内臓が口から出てしまいそうだ。

「恋愛経験なんて全然ないし、初めての事ばかりでダメダメかもしれないけど、そんな私でよければ、よろしくお願いします 」

 右手を突き出し、もう一度頭を下げる。あぁ、これじゃあまるで私から告白したみたいじゃないか。余計恥ずかしくなる。

 まさかこんなに早く決断するなんて思っていなかったのか、幸は少し困惑した表情を見せた後、微笑んだ。

「じゃあ、決定ね。 これからよろしく、美来ちゃん 」

 こうして、私たちの青春は幕を開けた。









 放課後。付き合って初めての下校時間だが、あいにく予定が合わなくて美来ちゃんとは帰れていない。

 部屋に入り、カバンを置いてお風呂場へとむかう。脱衣場で制服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びる。

 部屋に戻り、ベットに腰掛けて今朝の事を思い出した。

「あぁ、私、本当に美来ちゃんと付き合うのね 」

 まさか、上手くいくなんて思っていなかったのだ。

 ふと、机の上の写真立てに目がいった。写っているのは、私と1人の男の子。手に取り、ゴミ箱に放り投げようとする右手を制し、机の引き出しへと押し込んだ。

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