第14話 進也の友だちとリナの友だち・・・

夜が明けて午前七時。

耳元で目覚ましのベルがけたたましく起床時間を告げていた。

進也は相当に眠い目をこすりながら無理やり体を起こしにかかる。進也はいつもは朝食を食べるタイプだが、今朝はコーヒーだけで済ませた。少し体が気だるい。流石に四十を迎えた体を少し忌わしく思う。

そんな朝、会社では秀雄が手薬煉を引いて待っていた。

「シンちゃんお早う。昨日はどこへ行ってたん。一緒に『エロナイ』に行ってたら面白いものが見られたかも知れんかったのに。」

「ん?」

「何やえらい眠そうやな。昨日な、店を卒業する女の子がおってん。ってオイラんとこには来んかったけど、確かミホちゃんいうたかな、それがな彼氏ができたらしいねん。おっぱいの大きい子やったと思うし、シンちゃんが指名してた女の子やったんちゃうかなと思ってな。」

「それの何が面白いん?」

「オイラは見られへんかったけど、どうやらその彼氏が店に来るっていう噂やってん。これは別のヘルプの女の子に聞いたんやけど。」

「何や、結局見られへんかったんやんか。それに、その子がボクの指名してた子やったとしたら、もうその店には行かへんっていうだけのことやんか。」

あまりそのことに反応を示さない進也に、秀雄は多少の落胆を覚えていた。

「まあええか。シンちゃん、あんまりあの店にはご執心やなかったしな。それよりも、新しい彼女はいつになったら紹介してくれるん?」

ついに話を次の話題に差し替えた。

「明日、夕食を一緒にすることになってんねん。ホルモン屋で待っといて。親方にも紹介しとくし。」

「おお、ようやくその気になったか。何時?」

「七時前ぐらいかな。駅まで迎えに行くから先に行っといて。席が空いてなかったら、そのまま次の店行くし。」

「よっしゃ、明日な。七時な。ホルモン屋な。」

秀雄は自分が話した話題よりも、進也の彼女の方が興味深いようで、それこそウキウキしたようすでスキップするように走り去っていった。

進也はこの日は眠い目をこすりながら仕事をこなし、翌日の分もこなすかの如く、多少食い込み気味の残業を消化してから帰宅した。

後は以前と同様、部屋の片付けと掃除である。リナの初めてのお泊り。風呂もトイレも寝室もパシッと綺麗に整えた。

気がつけば時計の針は午後十時を超えていた。ヘトヘトになりながらも、お休みコールを忘れない。

「いつ来ても大丈夫なように部屋を片付けてた。疲れたし、眠いから今日はもう寝るわ。その前におやすみだけ言おうと思って。」

「ありがとう。おやすみ。また明日な。」

元来面倒臭がりのリナはグッドナイトラブコールも短め。進也も長電話になるよりはその方が良かった。



そして来る火曜日。

暦は今日から十二月になっていた。

師が走るほど忙しくなる年末の月。進也たちの会社もそれなりに忙しい。しかし、進也は今日の分の残業分も昨夜のうちに先行してあったので、今日は定刻で仕事を切り上げる。その時間少し前に秀雄がやってきて、

「シンちゃん、仕事すぐ終われるん?手伝ったろか?」

と息巻いてやってくる。自分の仕事はどうなってるんだろうと感心する。

「大丈夫。昨日できる限りのことやっといたから、今日はすぐ終われるで。」

「ほんなら、例のところで例の時間でOKやな。」

はしゃいでいる姿は子供みたいだ。

「自分のことみたいに楽しそうやな。」

「アホ、大親友の彼女やで。めっちゃ緊張してるに決まってるやん。」

そういう秀雄の顔はかなりニヤけている。

「余計な心配せんと、先に行っといて。」

少し先が思いやられる進也であった。

そして午後六時三十五分。A駅で待つ進也のもとにリナは笑顔で現れた。

進也は両手を広げて待つ。そこに飛び込んでくるリナ。

「ごめん、ちょっと遅れた。電車の時間がわからへんかってん。」

「ええよ。待ったんちょっとだけやし。」

リナは進也の腕に自らの腕を絡ませて、ニッコリと微笑む。

「さあ、ちょっと緊張するけど、シンちゃんのお友達のところへ行こか。」

「お嬢さん、覚悟はいいですか。」

「もちろんですわよ。」

今の二人には怖いものなし、といったところか。

店の近くまで来ると、暖簾から顔を出して、まだかまだかとキョロキョロしている秀雄の様子が目立つほどよくわかる。

「おじさん向けのホルモン屋やけど、ボクと一緒やから大丈夫やろ?」

「うん、確かに女の子一人で来るには勇気のいりそうな店やな。」

「それでも、たまにおるで。一人で来る女の子。」

そんな会話をしているうちに、秀雄が二人の姿を先に見つけた。大げさなリアクションで手招きする秀雄が滑稽でたまらない。

リナは可笑しくなって「あはは」と笑う。

「あの人?シンちゃんのお友達って。」

「恥ずかしながらそうです。見覚えある?」

「そうやな、あるな。何回かヘルプで行ったと思う。」

「黙っとき。最終日には会うてないはずや。彼もそう言うてたし。」

やがて二人は暖簾の前まで到達する。

「親方、シンちゃん来たで。えらい若いべっぴんさんや。」

「どれどれ、おう、シンちゃん。まあ彼女もそこへ座り。あんまり綺麗な店ちゃうけど、かんにんやで。そのかわり旨いもん出したるさかいな。」

今日は親方も口が軽い。やや緊張しているせいだろうか。

「親方、ヒデちゃん。紹介するな、サトウリナちゃんです。」

「リナです。よろしくお願いします。」

「そして彼が、親友の長沢秀雄君こと通称ヒデちゃん。」

「秀雄でーす。ヒデちゃんって呼んでね。」

それぞれの紹介が終わり、あらかじめ秀雄が占領しておいてくれた席に座る二人。カウンター席なので、リナは真ん中に進也を置いてその隣に座った。

「まずは乾杯や。」

それぞれのグラスに注がれたビールを手に持ち、秀雄の発声でグラスが音を鳴らす。

最初に切り出してきたのは以外にも親方だった。

「シンちゃん、可愛い子やな。うらやましいで。」

秀雄も負けずに話しに入り込んでくる。

「なあリナちゃん、ホンマにこんなオッサンでよかったんか?騙されてないか?何か弱みでも握られてんのとちゃうか?」

「うふふ。シンちゃんとっても優しいの。女の子って結局優しい人に弱いねん。」

「どんだけ優しいん?」

「すっごい優しい。それに頼れるし。」

親方がホルモンを持ってきたついでに、思い出したように切り出した。

「なんでも駅で困ってるとこを助けて貰ったんやって?」

それを聞いてリナは首をかしげる。

「ん?駅で?・・・・・。ああそうやったなあ。」

何かに気づいて慌てて答えるリナ。

うろたえる気配を見せる進也。

その進也を見て秀雄は何かに気づいたように、皿の上のホルモンをコンロでジュージュー焼きながらリナに尋ねる。

「どっかで会うたことないかな。なんか誰かに似てるような気がするんやけど。」

「他人のそら似やろ。」

「ん?よう顔を見せて。ん?んんんんん?」

秀雄はジロジロとリナの顔を覗きこむ。

「いやっ。」

恥ずかしがって進也の腕の中に顔を隠すリナ。

「もしかして、ミホちゃんちゃう?一昨日卒業したって言う。」

リナは首をかしげてそ知らぬふり。

「だれ?」

「ヒデちゃん、あんまり彼女をいじめんといてくれるかな。」

「せやけどミホと似てる気がするんやなあ。まあええか。」

進也とリナは目を合わせてニッコリ微笑む。

「これからはあんまりヒデちゃんの飲み会に付き合えんようになるかもしれんけど、そんときはデートやと思といてな。それと、あそこにはもう行かへんで。」

するとちょっと意地悪な目でリナが進也に詰め寄る。

「シンちゃん、あそこってどこ?」

「内緒。」

ウインクしながら答える進也。

「ふふ。」

リナもウインクで答えた。

親方はその様子を見て何かを察したようだったが、何も言わずにリナに話しかける。

「なあ、リナちゃん。おっちゃんとこ、こんな店やけど、たまにはシンちゃんと一緒に来たってな。美味しいもん用意しとくし。」

「はい。このホルモンも美味しいです。」

いつの間にかいい頃合に焼けていたホルモンを美味しそうに頬張っていた。

「色々入ってるから、味も食感も色々楽しめて美味しいねん。ビールも進むし話も進む、エエ店やろ?シンちゃんがおらんでもオイラが連れてきたるで。いつでも奢ったるさかい、いつでも電話してな。」

「うふふ。シンちゃんの友だちって面白いな。」

そんな会話をしているところへ親方がどんぶり鉢を二つ持ってきた。

「シンちゃん、これ、ワシからのお祝いや。食べたって。」

それは立派な肉の網焼きステーキ丼だった。

「この店って、こんなええ肉も置いてたん?」

秀雄が目をクリクリさせながら親方に詰め寄った。

「今日は特別に仕入れといたんや。昨日、ヒデちゃんから聞いてたからな、シンちゃんが彼女連れてくるって。」

「ほんで、オイラの分は無いんかいな。」

「ヒデちゃんもお祝い事があったら用意したるがな。順番で言うたら、離婚するか孫ができるかどっちかやろな。」

「アホ言いな。どっちもオイラにとっては不幸やないかい。」

それを聞いて進也が突っ込む。

「えっ?そんなに嫁さんのこと愛してたっけ?」

「嫁のことやない。慰謝料のことや。シンちゃんも払ろてるやろ。オイラとこの場合は、たぶんシンちゃんとこよりもぎょうさん払わなあかんやろ。なんせ品行方正やからな。」

それを聞いたリナは心配そうな顔で進也を見た。

「シンちゃん慰謝料払ってんの?」

「一応な。せやけど大したことないで、ボクはホンマに品行方正やったから。元奥さんも働いてるし、子供の養育費の一部だけや。」

そこで親方が助勢してくれる。

「シンちゃんとこはな、誰が悪いわけで離婚したんちゃうねん。前の奥さんもココへは連れて来たことあるけど、ワシはあの女はシンちゃんには合わんと思たな。それにシンちゃんは優しすぎるから、それが当たり前になってしもたことも原因やと思うけど。」

「親方、シンちゃんの優しいのは女にだけやで。オイラには全然優しくないで。」

すかさず進也が反論する。

「別に優しいつもりはないで。相手のことを気遣ってるだけやん。ヒデちゃんのこともいっつも気遣ってるで。」

すると親方が少し怖い顔をして進也に進言する。

「シンちゃんの気遣いはようわかる。せやけど、その気遣いが伝わる人と嫌がる人と両方おるってことを考えや。前の奥さんはそういう人やったやろ?」

「そうかな。」

するとリナが口を挟んできた。

「シンちゃんって、ちょっとメンドクサイ性格なとこあると思う。ウチはそれが楽しいし優しさは嬉しい。」

「リナちゃん、こいつはどんな女の人にも優しいねんで。」

すると親方がすぐさま訂正してきた。

「ちゃうで、どんな男の人や女の人にもや。ワシは見てたらわかる。ヒデちゃんにも優しいやんか。だいたいお前ら喧嘩してるん見たことないし。だいたいシンちゃんがヒデちゃんに合わせてることの方が多い気がするで。」

「まあ今日はシンちゃんのお祝いの日やから、シンちゃんに肩を持たしておくわ。」

「どうでもええから二人とも、肉が冷めんうちに食べや。」

「いただきまーす。」

リナは肉が大好物と見えて、ホルモンをつまみながらステーキ丼を食べる。

「しっかし、ええ食べっぷりやな。そがいに美味しそうに食べてくれたら、出した方も嬉しなるわ。」

親方の顔が満面の笑みになっていた。


「そろそろ腹も膨れてきたな。二次会はどうする?」

秀雄はさらに次の店に行こうとしていた。

「ヒデちゃん、明日も仕事あるんやで。今日は金曜日ちゃうで。」

進也は秀雄に忠告した。

「お前らはこれからどうすんねん。」

「軽くコーヒーでも飲んで、彼女を駅まで送るがな。」

まさか今日はウチに泊まる予定だなんて言えなかった。

秀雄は疑わしそうな目をして、

「いやいや、二人してどっかへしけこもうと思てるやろ。」

すると親方は秀雄に忠告する。

「そうかもしれんから、今日のところは邪魔しんとき。」

諦めたように呟く秀雄。

「そっか。今日のところは帰るかな。いやいや、ちょっと行って来る。」

「明日遅刻せんようにな。最終電車があるうちに帰りや。」

ホルモン屋を後にした三人は、駅の方に向かって歩いて行き、秀雄が梅田方面の電車に乗るのを見送り、進也とリナは駅前のコーヒーショップへと入っていった。

「あの人今から『ナイト』へ行くん?」

コーヒーをすすりながらリナが進也に尋ねている。

「たぶん行ったやろうな。」

「リナのことマヤさんに聞きに?」

「たぶんね。でもマヤさんやったらエエように答えてくれはるんちゃうかな。」

「そうやったらエエけど。」

「余計な心配してたらシワになるで。」

「いやっ。」

温かいコーヒーは二人の酔いを程よく醒ました。十二月の風も酔い醒ましにはかなり貢献したようだ。

やがてコーヒースタンドを出た二人は、手をつないで駅に向かう。

「今日はホントに帰らなくてもええの?」

「うん、明日休みやから帰らんかもしれんて言うて来た。それにお母さんにはシンちゃんのこと話した。最初は気まずそうな顔してたけど、リナが真剣やって言うたら納得してくれた。いっぺんどんな人か会いたいって言うてた。」

「大人の対応しなアカンな。」

「シンちゃんはいっつも大人やで。」

帰りの電車の中も二人の手はずっとつないだまま。

今から進也の部屋に二人で行くという事はどういう事か。二人は胸の中で深く意識していた。つないだ手のひらがどんどん汗ばんでくるのがわかる。

少しの沈黙の後、口火を切って話し始めたのはリナだった。

「あそこの親方さんって、シンちゃんに親切やな。シンちゃんを見る目が優しかった。」

「もう十年ぐらいの付き合いかな。色々と愚痴を聞いてもろたり、相談にのってもろたりしたからな。ボクの弱みもよう解ったはる。もし、ボクがおらんときに、ボクのことでなんかあったら、あの親方を頼って行ったらええで。頼りになる人や。」

「シンちゃんが言うねんから、間違いないやろな。」

こうしてリナもあの店に対する意識が印象付けられた。


やがて電車は進也の自宅近くの駅に到着する。駅から進也の自宅までは徒歩で五分ちょっと。ものすごく近いわけではないが、バスに乗るほどでもない。少し酔った体を醒ますにはいい距離だ。

ほどなく進也の部屋に到着する。玄関を開けてリナを中に引き入れると同時に、進也はリナの唇を奪った。リナも抵抗せずに、体を預ける。

「いきなりでゴメン。でもガマンできひんかった。」

「うふふ。そうやろうと思てた。予想してたで、いきなりのキスは。」

進也はリナに見透かされていた自分の行動を心地よく感じていた。二人の感情が合致していることに等しいからである。

「まずはコーヒーでもいかがですかお嬢さん。」

「外は寒かったからな。あったかいの飲みたい。」

流石に十二月にもなると北風は容赦なく人々の体を冷たく叩きつけながら通り過ぎる。五分も歩くと、電車の中の温もりなど保持できるはずもない。

すでに進也の部屋にはコタツがセッティングされており、二人は足早にコタツに足を突っ込んで、即座にスイッチを入れた。

「こないだ買ったマグカップをさっそく使えるな。風呂沸かしてくるわ。寒いから温まらんとな。」

「シンちゃん、あっちの部屋で着替えてきていい?」

いつの間にかリナは大きなバッグを持ち込んでいた。ホルモン屋へ行く前に大きめの荷物は、駅のロッカーに置いてあったようだ。

リナはラフな普段着に着替えると進也の目の前でくるっと回って見せた。

「可愛いやろ?今日のために用意したんやで。」

赤と白のチェック柄のスウェットのようで、ところどころにフリルがついていて、どことなくサンタクロースを連想させる。

「ほんならボクも着替えて来ようかな。」

お揃いのカップにコーヒーを用意して、進也も部屋着に着替えてくる。

流石に部屋着までのお揃いはなく、進也のスウェットは地味なカーキー色の上下である。進也はこの深い緑色が好きなのだ。

元来コタツというのは足を入れて座る箇所が四面あるのが普通だ。この部屋のコタツも特段他のコタツと形が違っているわけではない。普通の正方形だ。にもかかわらず、二人は並んで座る。やや狭いのは仕方がない。ソファーを背もたれ代わりに、足を温めながら、上半身は互いの体温で温めあっていた。

自然と二人の距離は近くなる。やがて見つめあい、そして唇を求め合う。

互いのネットリとした感覚を確かめ合っていたとき、風呂の用意が出来上がるチャイムが鳴り響いた。

「お風呂ができたみたいや。先に入っといで。」

「お風呂で迷子になったらアカンから、一緒に入ろっ。」

進也もホントは一緒に入りたかった。だけどなかなか言い出せないものだなと思っていた矢先のリナからの申し出だった。もはや断る理由はない。

「ほんなら脱がしっこしよか。」

進也が提案すると、リナは目を薄めに開いて唇に指を当て、耳元でささやく。

「優しくね。」

女は大胆になるときには、男なんかよりもよほど度胸がいいとみえる。これには進也もタジタジだ。しかし、進也も嫌いじゃない。

「おいで。」

と言ってリナの手を引き寄せる。そして腰に手を回し、口づけをしながら、ゆっくりと衣服を剥いでいく。進也が一枚はぐとリナもそれに倣って進也の衣服を脱がせていく。すでに部屋着に着替えているので、脱がせるのに難しい衣装はもうない。あっという間に残り一枚の姿になる。

そのタイミングで進也は、リナの手を取りバスルームへエスコートする。たかだか一人部屋のバスルームなのだから、二人も入れば満員になる。それでも湯船は足を伸ばせるほどの広さはあった。二人で重なり合って入っても、やや窮屈な程度。抱き合いたい二人には丁度いい大きさだったかも。

熱い湯に浸した体は、やがて熱く燃え上がる。お互いの皮膚が密着していると、その速度は限りなく速い。二人の唇はずっと繋がったままだ。

「温まったら洗いっこしよか。」

「うん。」

シャワーの飛沫を撒き散らしながら、互いにシャンプーを掛け合って洗いっこ。遊んでいるうちは二人とも子供のようにはしゃいでいる。体を洗うときは目線に困る二人。だから洗うのは背中からになる。そして正面を向いて、少し恥ずかしくなったリナが目線を下げた瞬間、進也はリナの顔を両手で抱えて唇を重ねに行った。

泡だらけの体同士がその瞬間にぶつかり合い、進也の堅い部分がリナの豊潤な部分に当たる。互いの最も熱くたぎっている部分がぶつかったとき、二人の腕はそれぞれの腰にまきついていた。

「シンちゃん若いな。真上を向いてるで。」

そういってリナは先ずは両手で包み、次に膝をついて唇で奉仕し始める。真上を向いた角度は益々頂点を広角に押し上げていく。その間、進也の手は歓喜に包まれながらリナの頭を抱えていたが、やがて、

「おいで。」

そういって体を入れ替える進也。今度は進也がひざまずく。

湯船の縁に座らせて、リナの豊潤な部分に口づけで奉仕する進也。リナは声が漏れないように口を押さえている。やがて、進也はリナにキスを求めると同時に、そのままの体勢でリナへの侵入を試みた。

虚ろな目をしたまま、進也を受け入れようとしているリナ。その銃口が洞窟の入り口にピタッと当てられた瞬間、リナは「愛してる?」って尋ねた。「すっごい愛してる。」と答える進也。あとはしばらく蜜月の時間だけが流れる。

しかし、温かいとはいえ狭い場所での確認は長くの時間を必要としなかった。ここでのふれあいはあくまでも遊びの時間。

もう一度二人で湯船に浸かり、再び体を温め直す。

「絶対大事にする。もうリナなしでは考えられへん。」

「うふふ。リナもシンちゃんのこと大好きやで。」

体が触れ合っているので、互いの高揚は治まることを知らない。温まった二人の体は、次のステージへのステップを望んでいた。


やや小柄なリナの体は、進也でも楽に抱きかかえられた。そしてそのまま寝室のベッドへ。すでに二人に纏われている衣装はない。

進也の唇は、リナの唇を離れると、先ずは首筋へ到達する。どうやら進也の鼻と唇はここの匂いを堪能してからでないと本領が発揮できないものとみえる。

次に進也の唇は豊かな丘陵の膨らみへと冒険を始める。いつもながら美しい曲線が進也の唇を待ち構えていた。

もちろん、頂点の碑にもあいさつを施す。優しく、そして時には歯を当てながら。異なる刺激が伝わる度にリナの体が反応していた。

そして進也の指は、とうとうクレバスを越えて洞窟の入り口に辿り着く。洞窟の奥では熱い泉が湧き溢れ、沸々と躍動していた。洞窟の入り口の上部にある呼び鈴を何度も刺激してみると、案の定、遠くから嘆くような声が聞こえてくる。その声に満足した進也は、リナをうつ伏せにして、今度は背後を攻めていく。ここをゆっくりと探検するのは進也も初めてだった。それにしても若い女の体というものは、全ての男がその美しさに翻弄させられるようにできているのかもしれない。

進也の唇と鼻は、やや平坦な柔らかい草原の香りを楽しみながら北上し、やがては出発地点の唇へと生還してきた。

すると今度はリナが動き出す。進也を仰向けにしたまま、リナの唇が進也の首筋から胸板へと旅を始める。筋肉隆々とは言い難いが、さほど太ってもいない進也の体をリナの唇が弄んでいく。

やがて真上を向いていた不動様へ辿り着くと、リナは祠の中へと招き入れた。そこには女神様が待っており、優しく不動様に絡みつく。

あまりにも甘い感触に不動様もじっとしていられない。それを静かに嗜めて、女神様はあらん限りのぬくもりを浴びせる。

「リナ、それ以上は堪忍や。」

進也はリナを自分の目線に引き上げた。もう一度唇で体温を確かめると。

「いくよ。」

といって進也の不動様が洞窟の中へと侵入していった。洞窟の中の泉はさらに湧き上がり、同時に軋むような声が二人の喉奥から漏れ毀れる。二人の腕は絡みつくように互いの背中と腰を行ったり来たりしていた。

二人は快楽を求めているのではない。互いの愛を確認しあっているのだ。それは目線であり、匂いであり、肌の感触だった。何かを確かめ合うように互いの体を求め合っていた。

時にはリナが上になり、時には進也が後ろについたり。色んなことを色んなところを感じ合っていた。

それでも進也の不動様は不死身ではない。男の誰でもがそうであるように、進也にも限界が訪れる。

「お願い、今日はまだ中はアカンねん。その代わりキスしてあげる。」

「もうイクよ。」

そういうと、進也の不動様は慌てるようにして祠に逃げ込み、女神様に助けを請うた。その瞬間に、不動様は大きなため息をついたのである。不動様が吐き出した乳白濁の粘液は、あっという間にリナの祠の奥へと吸い込まれていった。

「ゴメンネ。ホンマはリナの中でイキたかったやろ?次までには用意しとくから。」

いじらしい目線で進也を見上げる。この表情を愛おしく思わない男はいないだろう。そう思いながら進也はリナを抱きしめた。

「ありがとう。愛してる。やっぱりそれしか言葉は見つからん。」

憤りを解き放った進也は、心地よい疲れと体の痺れの余韻を味わうかの様にリナの体に顔を埋めていた。少し汗ばんだ皮膚が放つ独特の匂いにも酔いしれていた。リナの美しい放物線を放っている二つの丘陵の谷間にすっぽりと入り込んでいる進也。まだリナの体で戯れているようだ。

その様子を見て両手で進也の顔を抱きしめるリナ。

「終わった後のシンちゃんはやっぱり可愛いなあ。ぎゅーってしたくなる。」

「それはボクがするやつやで。」

そういい終わると、今までリナの腕に包まれていた体を入れ替えて、今度は大きくリナを抱きしめた。リナは進也の胸にすがるようにして頬ずりを繰り返す。

「先に言うとくけど、ボクはリナの体が目的やないで。リナがボクに心を許してくれた、その気持ちに動かされたんやで。ボクの中ではホンマの姿を見せてくれてた。それがいじらしかったし、ボクが守ってあげなアカンと思ったんやで。」

「うれしい。そんなん言われたん初めてや。」

「この先はどうなるかまだわからんけど、応援してな。」

「うん。」

夜は静かに更けていく。

ベッドの中では、互いに穢しあった体をいたわるように抱き合い、二人の明るい未来を夢見ていた。

この夜の時間が二人にとって最も幸せな瞬間だったかもしれない。


翌朝、進也が先に目覚めた。若いリナはお寝坊さんだ。

そっとベッドを離れて、キッチンへ湯を沸かしに行く。モーニングはトーストとスクランブルエッグとコーヒーでいいだろう。

前にも述べていたように、今朝の進也は得意先に直行の予定。いつもよりは少しゆっくりできる。リビングも暖房を入れて、コタツもすでに中は暖かい。

キッチンの音を聞いてか、コーヒーの匂いに釣られてか、寝室からリナが出てきた。

「オハヨー。」

リナは進也の元へ駆け寄って抱きつく。

「おはようシンちゃん。男の人がキッチンに立つってカッコええな。ホンマはリナがしたげなアカンかったんかな。」

「ええねん。そんなん何にもこだわってないし。いっつも自分でやってるし。ここはええから、顔を洗っといで。」

「リナすっぴんでも可愛い?」

「可愛いで。お店に出てたときの顔より一万倍可愛い。」

「シンちゃんおだてんの上手やな。女タラシやな。」

「素直に思ったこと言うてるだけやけどな。リナ可愛いし。」

そんな会話をしているうちに、二人は異変に気づく。キッチンではもうもうと黒い煙が噴出していた。

「あっアカン、トーストが・・・・・。」

オーブントースターの中では、二枚の食パンが真っ黒になっていた。

「あーあ、やり直しやな。」

「シンちゃんでも失敗することあるんやな。」

「ボクは結構いつも失敗だらけやで。前の結婚も失敗してるしな。」

「ホンマやな。リナとは失敗せんといてな。」

そんな話題が自虐ネタになるところが大阪らしい。大阪弁だからさほど嫌味に聞こえないところがいいのかもしれない。

焼き直したパンは、今度は綺麗なこんがりとしたキツネ色に焼けた。コタツの上のテーブルには、シンプルなモーニングセットが準備された。

今朝も昨晩と同じように肩寄せあいながら一つの面に並んで座っている。

狭いことこの上ないだろうに、二人はそんなことを気にしない。もし本当に神様がいるのならば、二人のためにここの時間を永遠にすべきだっただろう。


ゆっくりできるとはいえ、進也は仕事に出かけなければならない。リナも着替えをバッグに片付けて、進也と一緒に部屋を出る。

もちろん部屋を出る直前に、熱い口づけを交わしていることはいうまでもない。

「いつものロータリーでええのかな?」

「うん、ええで。いつものちゃりんこ置いてあるし。」

朝の時間は夜と同じようにとは行かない。時間で言えば二十分は多めに見ておかないといけない。それでも先方との待ち合わせ時間も余裕を持って約束しているので、進也は少しも慌てない。

「こうやって送ってもらうのが、これから何度もあるんかな。」

クルマが走り出してしばらくしてからリナが話を切り出す。

「リナはバスで帰ってもええんやで。この前もそうやったやろ。」

「そうやな、仕事の用事ができひんときは、そうしてもらうしかないかな。それよりもボクが早く引越ししたらええんやろ。」

「一緒に住めるとこ探そか。」

「大胆やな。お母さんがエエって言うたらな。」

「慎重やな。いきなり家を出てきてもエエねんで。どうせお父さんがアカンて言うたら、そうしようと思てるし。」

そう言って少し下を向くリナ。

「お父さん、アカンて言うかな。そんな悲壮な顔したらアカン。お父さんがエエって言うまで頑張るし。」

「うん。」

進也はリナを励まし、自分の気持ちに喝を入れる。

やがてクルマはK市駅ロータリーに到着し、リナは荷物と共に帰宅する。

「次はいつ会えるんかな?」

切り出したのは進也だった。

「リナは次の土曜日は休みやで。お昼に会えるで。」

「じゃあどっかデートに行こか。行きたいとこ考えといて。」

「うん。」

そう言って手を振って別れた。

そこから先、進也がする事は、普段どおりの仕事をこなす事だけだった。予定していた得意先との交渉を無事に終えた進也は、もう一軒、さらに山奥の豊能町まで足を伸ばし、別の得意先にも顔を出した。これがいいタイミングでの訪問となり、サプライズにも近い注文をもらえた。そのことと、この日は直帰することを会社に伝え、自宅へと向かう。

しかし、帰宅途中にK市があることを思い出してリナへ電話する。

「仕事が早く終わったんやけど、K市に寄ったら会える?」

「会いたい。今友だちと出かけてるけど、すぐに戻る。」

「友だちをほったらかしてええの?」

「エエねん。今ちょうどシンちゃんの話をしてたとこやし。みんなシンちゃんに会いたいって言うてるし。いつものロータリーの北側にファミレスあんの知ってる?そこで待ってるから。」

「いきなり顔見せは恥ずかしいな。」

「シンちゃんもお友達んとこへリナを連れて行ったやろ。今度はリナの友だちんとこへ来なアカンねん。」

確かに、それもそうだと思った進也は、行く旨を伝えて電話を切った。目指すK市駅ロータリーまでは一時間ほどかかりそうだった。


進也が約束のファミリーレストランについたのは午後五時を少し回った頃。店内を見渡すと見慣れたリナの顔を発見した。

「シンちゃーん、ココやで。」

と手を招いて呼ぶリナ。四人がけのテーブルに、リナの隣だけが空いていた。進也は通り一遍の挨拶と自己紹介だけしてリナの隣に座る。

「シンちゃん、リナの親友のナナとシオリ。な、別に全然オッチャンやないやろ。」

「ホンマやな、エエ感じのお兄さんみたい。」

「頼りになりそうやな。若い男の子とは風格が違うなあ。」

もちろん大阪の女の子なので、話を鵜呑みにしてはいけない。初顔なので思い切りのいいヨイショであると自覚しなければならない。

「めっちゃ優しいねんで。若い子らと全然ちゃうから。」

ナナはリナの新しい彼氏に興味津々。

「せやけど、バツイチなんやろ?お子さんいてはるんですか?」

結構踏み込んだことを聞いてくる。流石はナニワレディだ。それでもニコヤカに返さなければならない。

「自分に子供がおるなんて忘れてたわ。リナちゃんと一緒におったら、そんなこと思い出しもせなんだな。」

すると今度はシオリがリナに矛先を変える。

「彼氏は一人暮らしなんやろ?もう彼氏の部屋には行ったん?」

これもかなりストレートで敏感な質問だ。今時の女の子ってこんなに話の内容が強烈なのかと思う。

「そんなん内緒や。せやけどいつかは一緒に住みたいって思てるで。」

「内緒って言う時点で行ってるやん。でも幸せそうでええなあ。うらやましいなあ。」

どうやら彼女たちは現在彼氏募集中らしい。

「ウチも年齢の許容範囲広げようかな。別に三十までにこだわらんでもええよな。」

「ところでどうやって彼氏と出会ったん?」

ナナが切り出した質問は、二人が一番答えにくい設問だった。進也が黙ってリナの顔を見ていると、リナは困ったような顔をして進也に助けを求めた。

すると、進也は秀雄と親方に話したエピソードを思い出した。

「ある日、大阪駅で荷物をひっくり返して困っている女の子の手助けをしたことがあってな、その女の子が彼女やったっていうのが出会いかな。」

そういえばホルモン屋で、そんな感じのことを聞かれたことを思い出したリナも、その話に合わせる。

「そうやねん。ほんでお礼にお茶でもって、冗談半分で誘ったらついて来はってん。ほんでしゃあなしに話してたら面白い人やし、ほんなら今度はお茶のお礼にご飯って誘われたから、その次の日に一緒に晩御飯食べてん。」

リナも作り話が上手いかも。もしかしたら作家になる才能があったりして・・・。

それでも進也はリナの耳元でそっと耳打ちする。

「そのあたりで止めといた方がええかもよ。」

ウソをつくのは苦労する。ウソを誤魔化すためにまた別のウソを作らなければならないからである。

「まあ、そんなこんなで今に至るっていうことかな。」

「それって、新手のナンパやん。どっちがどっちか知らんけど。ウチも大阪駅でキャリーバッグひっくり返してみよっかな。ええ男が声かけて来てくれへんかな。」

ナナが真剣に考え込む。

「あんた、自分のバッグの中身を見せられるか?きったないもんばっかりしか入ってへんやろ?やめとき、やめとき。」

シオリが適度に突っ込むあたりは大阪らしい。

冗談ではしゃぐ時間帯が終わったのか、急に神妙になり出すナナとシオリ。そして切り出したのはナナだった。

「進也さん、リナをよろしくお願いします。ウチ、リナが前に付き合うてた彼氏を知ってるねんけど、最後は酷かってん。自分が浮気した上に、リナのこと殴って逃げよってん。せやから優しい男の人に会えて良かったなって言うててん。お願いやからリナのことずっと優しくしてあげて下さい。お願いします。」

「ナナちゃんやったっけ。ボクはリナのことが大好き。年齢差のことも考えてるし、彼女のことを守らなアカンと思てる。女性のことでは一回失敗してる人間やし、ボクにとっても神様がくれた最後のチャンスやと思てる。」

ナナはリナの手を握り、

「この人はエエ人や。前のあのチャランポランとえらい違いや。この人を離したらアカンで。幸せにしてもらいや。」

「ウチもはよこんなエエ人と巡り会いたいな。」

シオリがポツリとこぼした。

「あのな、あんたらに言われんでもシンちゃんがエエ人やってずっと前から解ってるし、せやから一緒におるんやし。せやからあんたらにも紹介すんねやし。」

話の最後の方は少し鼻声だった。

ナナはシオリに向かって自分たちのプランを提案した。

「さあ、こっからは二人だけにしてあげよ。ウチらはぼちぼち退散しよか。リナの新しい彼氏を見定めるっていう目的は果たしたし。」

「そやな、帰ろか。リナ、ご馳走様やで、色々と。」

「ナナ、シオリ、色々と心配してくれてありがとう。」

ナナとシオリは席を立ち、リナと進也を残して店を出た。

「もしかしてボクは彼女らの面接試験には合格したんかな?」

「そうやな、おめでとう。」

「そうと決まったら、ご飯食べに行こか。」

「うん。もうちょっと西の方へいったら、美味しいうどん屋さんがあんねん。リナ今日はカレーうどん食べたい。」

「ええ考えやな、ボクも食べたくなってきたな。行こか。」

二人はリナの友だちによる審査を無事に終了し、ファミリーレストランを後にして、うどん屋へ向かうこととなった。


目的のうどん屋は、そこからクルマを走らせてわずか十分足らずで到着する。それなりに人気の店のようで、外で少し待つことになった。

待っている間、進也は先ほどのリナの友だちたちによる審査風景を思い出していた。

「彼女らはええ友だちやな。大事にしないかんな。」

「ヒデさんもエエ人やで。二人してええ友だちがおってよかったな。」

思えばいい友人というのは大切である。何かあったときに最も頼りになる存在となる。進也が秀雄と親方を、リナがナナとシオリを互いに紹介したということは、そういうことなのだろう。

やがて店に入ると暖かい空気が二人を包む。賑やかな店内はお客さんで一杯だ。

注文は予定通りカレーうどん。リナは張り切ってトンカツをトッピング。進也は牛ごぼうを乗せてみた。

リナは良く食べる。テレビ番組でよくある大食いではないのだろうが、そういえば進也との初デートも焼肉だった。

進也は良く食べる女の子は嫌いではない。逆に折角食事に連れて行ったのに、あまり食が進まない女性の方が苦手だ。彼の元妻もやはりそうだった。ベジタリアンではないのだろうが、肉も魚も好みが激しかったため、一緒に食事に行っても制限ばかりが多く、詰まらない思いを多くしていたようだ。

それに引き換えリナはどうだ。若いとはいえ、特に好き嫌いなく、さらにガッツリ食べてくれる。その食べっぷりにも惚れ惚れとしていた。

やがて二人の注文した品が運ばれてくる。リナの注文したカツカレーうどんのトンカツの大きさったら、まるで草履のようだった。

「すっごい大きさやな。食べられる?大丈夫?」

「平気やで。昨日一杯エネルギー使ったから、補充しなアカンし。シンちゃんもしっかりスタミナつけて、いつまででも元気でいてな。」

「なんかそれって、お年寄りに言うセリフちゃう?」

しまったと思ったのか、リナは片目を瞑って「ゴメン」と謝る。

「大丈夫。さあ食べようか。」

服を汚さないように紙エプロンをつけて、二人してずるずると豪快に麺をすすっていく。心もお腹も温かく満たされるのであった。


食事が終わり、リナを送ろうとクルマに乗り込む進也。

その後にリナが助手席に座る。

「なあ、このまま帰るん?」

「どっかへ連れて行ってもいい?あんまりよろしくないところへ連れて行くで。」

「シンちゃんの好きなところへ連れて行って。リナは子供とちゃうし。」

クルマの周りに誰もいないことを確認してから、進也は軽くリナにキスをした。

そしてそのままエンジンをかけてアクセルを踏みハンドルを回す。国道沿いにキラキラ輝いている大きな建物はおおよそそういった建物だ。

幹線道路を十分も走っているとすぐに小綺麗な建物が見つかる。進也はウインカーを出すと同時にハンドルを切った。

中に入ると、適当な駐車スペースに車を停めてドアを開く。そして、そっとリナの手を取り、「行こうか。」そう言って建物の中へと入っていく。

今時のホテルはウエイターなどと接見しない。全てがオートメーションで管理されているようで、部屋のチョイスから誘導まで、全く人と会わずに部屋まで行ける。但し、お帰りのお客さんとはすれ違うけどね。

進也は比較的スタンダードな部屋を選んでリナをエスコートする。

「勘違いせんといてな。別にこういうところに慣れてるわけやないで。何回か来た事がある程度やで。」

「別に来てたってかまへんし。リナも初めてちゃうから。」

部屋に入ると大きなベッドが目の前に居座っている。隣にはお洒落なソファーがあり、大型テレビまで設置されてていた。

ドアを閉めて鍵をかける。その瞬間に進也はリナを抱き寄せてキスをしていた。

「ここから先はボクは狼やで。もう誰も助けに来てくれへんで。」

「シンちゃんが助けてくれるもん。」

もう一度抱きしめながら唇を少々乱暴に弄ぶ進也。そのままベッドに押し倒した。

「シャワー浴びひんの?」

「まずはリナの匂いを確認しなアカンやろ。」

進也はゆっくりとリナの着ているものを一枚ずつ這いでいく。そして自らも順次脱衣を始める。部屋の中は暖房が行き届いているので寒くはない。

二人が生まれたままの姿になったとき、進也の右手はリナの胸の膨らみの頂点を弄び始めていた。クリクリとした感触が進也の獣の部分を奮い立たせる。

リナも負けじと進也の獣の部分を探っていた。すでに熱く天を目指している銃口は、いつでも柔肌を打ち抜く準備が整っていた。

この部屋のシャワールームはガラス張りである。中からも外からも良く見える。

「一人で入る?外から見ててあげる。」

「いやや恥ずかしい。一緒に入る。」

「一緒やったら恥ずかしないの?」

「だって、一緒やモン。」

ここでも二人で洗いっこ。二人はあっという間に泡だらけになる。

最初に攻撃を仕掛けたのは進也だった。湯船の端に手をつかせるとリナの顔は奥を向く。足を少し開かせて、丸見えになったクレバスの奥に舌を這わせる。AVなどでよく見かけるシーンかもしれない。かなりエロチックなシーンが展開されると、今度は縁に座らせて拳銃を顔の前に向けた。

リナは理解したように拳銃を祠に奉納させる。進也はリナの後頭部を両手で押さえ、祠の奥へと拳銃を突き刺す。リナが少し苦しそうな表情を見せたので慌てて抜き取ると、リナはニッコリと微笑んで、「大丈夫やで」と答えてくれる。

その間に広い湯船の中は湯で満たされる。体を湯に浸して向かい合うようにして座り、さらに上から覆いかぶさるようにリナの唇を攻撃し始める。両手を湯船のヘリに着いたままのリナの体は進也の攻撃に抗うことなく預けたままに従うしかなかった。そうしているうちに、進也の拳銃はリナの体をゆっくりと突き刺していた。

その動きはゆっくりであったが、それよりも胸の膨らみへの欲望の方が上回り、激しく弄ばれる左右の丘陵が湯の中で波打っていた。ときおり先端へ刺激を与えると、リナの祠から声が漏れる。

リナは次のステップを促すように進也に唇を投げつけた。リナの真意を理解した進也はリナの手を取って備え付けのマットに寝かせる。事前に温めておいたローションをふんだんにリナの体に塗りたくって、さらに万遍なく伸ばしていく。ときおりピクンと動く反応がセクシーだ。

仰向けの状態で下から手を伸ばすリナ。進也を迎え入れる体勢が整った。進也もリナの膝を折りたたんで、ゆっくりと、そして時に激しく拳銃を抜き差しする。

ローションで濡れた肌が互いの触れ合いを刺激的で妖艶な感覚に溺れさせていく。昨日の今日であるが、昨日とは異なる壮絶な刺激のために一気に高揚する進也。それでも、ここは堪えてみせた。

リナも刺激性の高いシチュエーションに、体の痺れは高いレベルを維持していた。一旦インターバルを入れようとする進也の体を押し倒して騎乗体勢に入る。リナの動きが激しくなる度に腰が逃げる進也。それを追いかけるリナ。

ここで決着をつけたくない進也は一時休戦を持ちかけた。

シャワーでぬるぬるとした粘液を洗い流し、すっきりとした体でシャワールームを後にする二人。バスタオルでぬれた体を拭き合いながらベッドへと移動する。

ベッドでのBGMはクラシックだった。誰の何と言う交響曲かは知らないが、バイオリンとフルートの演奏が丁度良いムードを醸し出していた。

リナは進也を仰向けにして銃口を祠に迎えに行く。進也は銃口を祠に任せて、自らは洞窟へ向かう。すでに滴るように光っている洞窟の入り口は、何かの侵入を待ち受けているかのように少し開いているようだった。

その少し開いているドアをそっと開けるようにして口づける。リナの漏れる声が遠くで木霊しているのが聞こえた。

進也もリナも互いが愛おしい。ただそれだけだった。リナの動きが激しくなったとき、進也はリナ進行軍の進撃中止願いを申し出た。快く申し出を受け入れたリナは体を入れ替えて、進也の動きを待つ。

すでに進也の拳銃は弾ける一歩手前まで来ていた。それでも洞窟探検へと挑む勇者は妖艶な香りを纏い、心地よい冒険を続ける。

されど、ここまでの過程でかなりの刺激を受けすぎていた拳銃は、その暴発を長時間にわたって避けることはできなかった。進也の意志にかかわらず激しくなるリズムは、拳銃の発射を促すだけだった。

昨日の言葉を思い出した進也は、瞬時のことで銃口を引き抜いた。その瞬間に銃弾は勢いよく発射されたのである。

「ゴメン、すぐにいっちゃった。」

「うふふ。リナで感じてくれたんやろ。ちゃんと外でイってくれたし。ご褒美あげる。」

そう言ってリナは、発射したばかりの銃口を祠の中に納め、中で鎮座する女神が綺麗に拭い始めた。

すると、消沈していた拳銃の鼓動がまたぞろ動き始めた。

「シンちゃん元気やな。頼もしいで。」

リナの動きはどんどん大胆になってっくる。進也も信じられないぐらいぐらいタフな自分を発見する。そして再戦を挑むのである。その勢いを制して、先ずはリナが騎乗作戦にとりかかる。自ら銃口を洞窟に誘引し、大きく激しく動き出す。

前後左右に踊る姿はいかにも妖艶だ。豊かな膨らみを持つ丘陵も、そのリズムと共に大きく揺れる。連戦であるがゆえに、多少の激しい振動でも充分に耐えうる状態の拳銃は、下から更なる攻撃を加えていた。

やがてダンスに満足を得た柔らかな女体は、うっとりとした目で進也を見つめ、進也の攻撃を待ち受ける。進也は背後からの攻撃を望み、浴室での体勢を再現する。

先ほどとは角度が変わる拳銃の攻撃に声が漏れる。

同時に丘陵への欲望も果たしている。

躍動的な攻撃を加えながらも、汗ばむバックラインの美しさに見とれていた進也は、動きを止めて光る背中に口づけを贈る。

リナの奉仕のおかげで挑めた再戦である。進也はその勢いのあるうちにフィニッシュを迎えたかった。燃え滾る欲望が冷めぬうちに、リナの体を表に返して、最後の力を振り絞り、思いの丈をリナの体に打ち込んだ。

最後のほとばしりは、リナの祠の中で放たれた。最後はリナの中で果てたかったが、洞窟内ではまだ禁猟期間であったため、願いを申し出て祠に逃げ込んだのだった。

「無理を言うてゴメンね。どうしてもリナの中で終わりたかった。」

「そう言うてくれて嬉しい。次はちゃんと用意しとくから、リナの中で終わってな。」

死ぬまで彼女を愛したい。進也は心からそう思っていた。


ベッドの上の二人は、まだ冷めぬ体の火照りを拭うように抱き合っていたが、その時間が永遠に許されるはずもなかった。

その時間を少しでも長く獲得するためには、一緒に住むしか方法はない。この日を境に二人はそのことを深く意識し始める。

進也の体もリナの体もまだ火照ったままだが、あまり遅くまでリナの体を拘束することを進也は善しとしなかった。

彼女はまだうら若き嫁入り前の乙女である。彼女の両親が納得する時間帯までに送り返す責任があると思っていた。

事実、後になって判るのだが、この時の進也の努力は無駄ではなかった。野放図な輩が多い世の中である。規律を制することで老夫婦の評価は悪いはずもなかった。

「また土曜日に会えるから、今日はこのあたりで帰ろう。リナもボクと会うときはなるべく早く帰るようにしようね。お泊まりのとき以外は。」

「うん。」

そして進也のクルマはリナを乗せていつものターミナルへ。そして、リナは自転車でさらに北へ、進也はクルマで南へと舵を取る。

十二月の風は、冷めやらぬ二人の体をそっと撫でながら、そ知らぬ顔で冬空を舞っていた。



進也は翌日会社で、いきなり秀雄に捕まる。

「おはよっ!」

「やあ、一昨日はご馳走様やったな。」

「アホ、ご馳走様はこっちやないか。えらい仲のええとこ見せ付けられて。ところで、あの後はどこへ行ったん?」

「そやからコーヒー飲んで、駅まで見送っておしまい。」

「んん、その言葉は信用できんな。実はな、あの後オイラは『エロナイ』に行ったんや。また、マヤちゃんに聞いてみたんやけど、オイラの思てた回答は得られなんだんや。せやけどヘルプに来たオネエちゃんに聞いたら全部喋りよったで。シンちゃん、マヤちゃんには口止めしてた見たいやけど、全部の嬢にはできんかったようやな。」

「何を聞いたん?」

「まずはシンちゃんが結構それなりに店に行ってたってことや。どうも察するに、行ってる回数はオイラよりも多いんちゃうかと思うな。ほんでお前さんのオキニの嬢はやっぱりミホや。もう一人の巨乳の女の子にシンちゃんの写真見せたら自分のお客さん違うって言うてたし。そこまで聞いたら極論に辿り着いたで。チヒロって言う子やったかな。ミホの卒業の日、ラストタイムに来た客はシンちゃんやったって認めよったし。さあ、どうやって弁解する?」

進也は驚いていた。秀雄の執念深さにである。

開き直るつもりはないが、バレてしまっては仕方がない。弁解するつもりもないが、これ以上は隠せないとも思った。

「そうや。ミホのラストタイムに行ったのはボクや。お別れしにな。今までお世話になりましたって。それでも月に一回か二回やで、行ってたのは。」

「ほう。それやったらオイラの方が回数は多いかな。ほんでもそんだけ行ってて一回も顔合わさんかったのも不思議やな。」

「マヤさんとは出勤日が違うねん。それに行ってる時間帯も違ったし。ボクは二次会の時間帯にはもうおらん。そんな行き方やった。」

「会社から直行か。そんなにええ子やったんか。って、ちゃうやろ。今の彼女がそのミホやないか。ミホの卒業の日に彼氏が来るって言う噂で、結局来たのがシンちゃんやって言うことは、そういうことやろ?それがこの間のあの彼女やろ?」

「そうやな。認めるしかないな。」

「チキショー、上手いことやりやがって。羨ましいだけやないか。オイラでもまだマヤちゃんと食事すらしたことないのに。どうやって落とすん、教えてえな。」

「落としたんちゃう。好きになっただけや。しかも本気で。ただそれだけやんか。」

「カッコええなあ。オイラも言うてみたいわ、そんなセリフ。ほんで、一昨日はあの後どうしたん?そのまま帰ったわけちゃうやろ?」

この答えには困った。どこまでホントのことを話せるのか。しかし、誤魔化したところで仕方のないことだし、親友にウソもつけまいと諦めた。

「あれから自分の部屋に連れて行った。」

「えっ?ほんで、もしかして泊まった?」

「ああ、泊まった。」

「ほんでどうしたん?」

「翌朝送って行った。翌日D社へ行くことになってたやろ、その途中に彼女の住んでる町があるねん。せやから近くまでクルマで送って行った。」

「ということは、前々からシンちゃんとこへ泊まるのは決まってたんやな。それでD社に直行の出張を入れたんやな。」

「そうや。お察しの通り。」

大きくため息をついてがっくりと肩を落とす秀雄。

「しかし、すごいな。普通はせいぜい一回コッキリのエッチに誘えるかどうかやって言うのに、彼女にまでしてしまうか。ちょっとすご過ぎるな。」

「ただ普通に彼女のことが好きになっただけやん。たまたま会うた場所があの店やったって言うだけやと思う。彼女、ホンマにどこにでもおる普通の子やねん。」

少し考えた様子でさらに問いかける。

「彼女、オイラんとこもヘルプに来たことあるんちゃうか。」

「ああ、何回かあるって言うてた。」

「あんまり覚えてないなあ。彼女の卒業の日はオイラんとこには来んかったからなあ。どんな子か見たいと思とったんやけど、もっとすごいモンが見れたわ。それにしても、シンちゃんがあの店に通ってたのがアレやな。」

秀雄は話の矛先を変更する。

「シンちゃんがなかなか乗って来いひんから、やっぱりああいう店は苦手やと思っとったのに。」

「苦手なのは今でも変わらんで。彼女やなかったら行ってない。それに、あんまり通ってるの知られたらバツが悪いと思ったから言えなんだ。黙ってたことは悪いとは思ってたけど出来たら知られたなかったし。」

「まあええ、まあええ。結果的に彼女が出来たんやし。素直に喜んどいたるわ。その代わり、彼女からマヤちゃんの情報を聞きだしてな。」

「それは無理や。自分で努力しぃ。もう彼女は店を辞めたんやで。」

「それもそうか。まあええわ。またホルモン屋に連れておいでや。」

秀雄の長い詰問時間がようやく終わった。

今まで隠していたことだったが、いずれは話すときが来るだろうとは思っていたし、告白したことで気が楽になった部分もあった。

今度ホルモン屋にリナが来るときは、付き合うことになるまでの経緯なんかを話すことになるのだろうなと思っていた。



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