無口な彼女と頑張る彼
甘川 十
無口な彼女と頑張る彼
「雫さん!」
「なに?」
「好きです!今日こそ頑張ります!」
「そう」
ある大学の食堂の一角で雫と誠は向き合っていた。
正確には本を読んでる雫に誠が迫っているだけなのだが。
「雫さん!」
「なに?」
「今日は何を読んでいるですか?」
「小説」
「ファンタジーですか?」
誠は雫の顔を覗き込む。かなり至近距離にもかかわらず、雫は表情を崩さない。
いつものことなのか、誠は気にせず、話を続ける。
「いいえ」
「それ以外ですか?」
「そう」
「その本は好きですか?」
「好み」
「く・・・」
なぜか急に落ち込む誠。
「そこは好きって言ってくださいよ」
「言わない」
「いいじゃないすか!そろそろすきっていってくれても!好きって言わせたら付き合ってくれるんですよね?!」
そう誠は雫に一目惚れして告白した。雫はよく告白される。今までは一蹴だったのだが、今回は違った。
誠に出した条件はこう。
『私にすきという言葉を言わせたら付き合う』
というものだった。
「だめ」
「そんなに俺のこと嫌いですか!」
「違う」
「なら好きか嫌いで答えてください!」
「嫌」
「くう・・・」
「まだまだ」
少し楽しそうに誠を見る雫。
そんな雫を悔しそうに見た誠は、
「今日こそは言わせますからね。この2週間の成果を見せてやります!」
と立ち上がりそう宣言した。
そして、雫と誠の戦いは始まった。
「雫さん!いきますよ」
「どうぞ」
「loveの日本語訳は?!」
「愛」
「冬の定番スポーツは?」
「スケート」
「穴を掘る農具は?!」
「穴掘り」
「甘辛の味付けの煮汁で煮た料理は?」
「煮魚」
「アモーレの日本語訳!」
「愛してる」
「ごちそうさまです!」
「どうも」
「調味料のさしすせそ、すは何?」
「酢」
「treeの日本語訳は?」
「木」
「今の質問と前の質問繋げて言うと?」
「キス」
「僕の名前は?」
「誠君」
「Coolの意味は?!」
「かっこいい」
「今の質問と前の質問繋げて言うと?」
「誠君かっこいい」
「ありがとうございます!!」
「どういたしまして」
((((趣旨変わりかけてんぞ!!!!))))
食堂にいた雫と誠以外のその場にいた人たちは心の中でそうツッコム。
その視線に気づいたのかハッとする誠。
そんな視線など気にせず、本に目を向けている雫。
「話がそれました」
「君のせい」
「続きいきますよ!」
「どうぞ」
そして、この後もたくさん質問を繰り返す誠。
しかし、その質問を巧みに一言でかわす雫。
その攻防は昼休みが終わるまで続いた。
「もう時間ね」
「く・・・またしても・・・」
「残念」
「次こそ言わせてみせます!」
「楽しみ」
「では、またあとで!」
そう言って誠は食堂を出ていく。
雫はそんな誠をずっと見つめていた。
そして、誠が出ていって足音が聞こえなくなったのを確認した雫はぽつりとつぶやいた。
「・・・また会える♪」
((((もう付き合っちまえよ!!!))))
食堂にいた人が雫の顔をみてそう思ったのも無理はない。
雫が誠のことをどう思っているか一発でわかる顔なのだ。
というか誠以外は知っている。
けれども、雫はまだこの勝負を続けたいのだ。
誠が雫のために必死になってくれるのをもっと見たいから。
こうして、雫と誠の不毛な攻防は続くのであった。
無口な彼女と頑張る彼 甘川 十 @liebezucker5
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