後輩が告白屋を始めた。

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後輩が告白屋を始めた。

「ああ、彼女が欲しい……告白されたい……」

「なんですかせんぱい、告白されたいんですか」

「されたい……俺は愛に餓えている……」

「してあげましょうか」

「マジでっ!? え、なになに後輩ちゃん俺のこと好きだっ「千円で」

「金かぁ……」

「あんまり事前にあれこれ設定を決めておくと新鮮さがなくなってしまうと思うので、タイミングやシチュエーションは私の方で考えます」

「ああ、それはいいね、突然告白された方が嬉しいもんね」

「ただし私の努力と創意工夫に応じてオプション料金がプラスされます」

「それを選べないの俺!?」

「大丈夫です。お金を取る以上、私も本心からご満足いただけない場合は返金も辞さない覚悟で臨みます」

「ビジネスライクだよお……愛とはかけ離れた概念だよお……」

「どうするんですかせんぱい、してほしくないんですか、告白」

「うう……してほしいです……」

「商談成立ですね」

「スタンスが徹頭徹尾ロマンの対岸だよお……」

「ではサービスの提供をもって契約の履行とさせて頂きます。おたのしみに」

「もうそれでいいです……楽しみにしてます……」


────


 あれから一週間。後輩ちゃんはまだ何も仕掛けてこない。いつも何考えてるのかよくわからない子だったけど、まさか冗談だったのだろうか。


「あ、せんぱい」

「んお、後輩。よう」

「お待たせしちゃいました?」

「え? いや、別に……というか待ち合わせとかしてないよね? ここ廊下だし」

「よかった。じゃあ早速行きましょう」

「えっ? なにどこに? あっ有無を言わさぬ感じ?」


「着きました。ここが絶好のスポットらしいですよ、せんぱい」

「何の!? 俺の目が確かなら部室だよねここ!?」

「……いい風ですね」

「屋内なのに!? こわっ! 何が見えてるのきみには!?」

「ところで……どうでしょうか?」

「だから! 何が!」

「浴衣」

「ユカタ!? 最近は制服をユカタって呼ぶの!?」

「せっかくの夏祭りなので、思い切って着てみたんですが……ちょっと派手でしたかね?」

「なつま……あっ告白の!? 言ってよ! 戸惑うよ!」

「言ったらサプライズにならないじゃないですか」

「客を置き去りにしといてサプライズも何もないじゃないですかぁ……」

「それで、どうなんですか。浴衣」

「あっ続けるんですね……えっと、うん、よく似合ってるよ」

「えへ……うれしいです」

「えっ」

「なんですか」

「えっ、いや……後輩ちゃん表情筋動かせたんだ、と思って」

「ぶちます」

「威嚇から入ってよせめて!」

「茶々を入れないでください」

「俺が……悪いかぁ、いまのは……」

「……そろそろみたいですよ」

「……(何がだろう)」

「…………ひゅー……どんっ……」

「えっなにそれは」

「綺麗……ひゅー……どんどんっ……」

「…………花火か! 口で表現していくのねそこは!」

「……せんぱい」

「え? ……あ、うん」

「……」

「えっどこ行くの急に」

「……」

「オーディオ? えっ何で?」

「……」

♪~

「何でいきなりシークレットベース流すの!?」

「せんぱい……ずっと好きでした。付き合ってください」

「カットだカット!」

「ご満足、頂けましたか?」

「頂けませんよ! 最初から最後まで台無しだったよ!」

「真剣に考えて準備もしてきたんですが」

「いや……わかった、良いよ。発想は良いよ。夏祭り。浴衣の後輩。花火がよく見える秘密のスポットで二人きり。夏の夜空に昇る花火をバックに告白。シークレットベース流したくなるのもわかるよ。でもちょっとなんだろうなぁ~致命的に違うんだよなぁ~」

「なんですか。ハッキリ言ってください」

「ノリが違うんだよぉ……演出が完全に恋愛モノじゃなくてコメディのそれなんだよぉ……」

「真剣にやったんですけど……」

「うぅん……わかった。俺もこう、今回のでちょっと空気感掴んだから。だからせめてあの、オーディオはやめて。次たぶん笑っちゃうから」

「わかりました」

「……一応言っておくけど、歌えばいいってことでもないからね」

「……わかりました」

「心配だよぉ……」

「今回はご満足頂けなかったということで、代金は結構です。次回をご期待ください」

「期待してます……」


────


 また一週間経った。前回と同じペースなら、たぶんそろそろ──


「せんぱい。初詣に行きましょう」

「…………今の時期はセミの鳴き声がうるさいと思うけど、わかった。行こうか」


「やっぱり元旦は混んでますね」

「そうだねぇ(やっぱり部室なのか)」

「……はーっ……」

「……(なんだ、手に息を……)」

「……はーっ……」

「あー……人多いし、はぐれないように手繋ごっか」

「えへ、はい」

「……えー、その、後輩ちゃんの今日の服装は……」

「振袖です」

「なるほど! 綺麗だよすごく! 今日は髪をアップにしてるのも暑いからじゃなくて晴れ着に合わせてってことなんだね?」

「えっ」

「えっ」

「そうです」

「……」

「そうです」

「はい」

「そうですから」

「はい。似合っててすごくかわいいです」

「えへ。ありがとうございます」

「……(かわいいからいいや)」

「あ、せんぱい。やっと順番来ましたよ……からんからん……ぱん、ぱん……」

「……ぱん、ぱん」

「…………せんぱいは、何をお願いしました?」

「ん……今年は何か良いことありますように、かな。後輩ちゃんは?」

「えへ、教えてほしいですか?」

「教えて教えて」

「それじゃあお耳を拝借……」

「うんうん」

「せんぱいとずっと一緒にいられますように……って」

「えっ」

「ふふ。なんちゃって。帰りましょせんぱい!」

「あっ、ちょっ待って後輩ちゃ「いかがでしたか」

「うおおいきなり素に戻らないでよビックリするよ!」

「今回はちゃんと告白できたと思うんですが」

「あぁ、うん。今回はすごく良かったよ。かなりドキドキした」

「えへ……こほん。では……ご満足、頂けましたか?」

「はい、もちろんです」

「では今回の代金二千五百円になります」

「結構オプション料高いんだね!?」


────


 週一ペースで後輩ちゃんに告白されるようになって結構経った。二人で下校中の歩道橋の上で夕陽をバックに。クリスマスデートの帰りに後輩ちゃんの自宅の前で。卒業式のあと桜の木の下で涙ながらに。放課後校舎裏に呼び出されてラブレターを渡されて。屋上で一緒に昼ご飯を食べながら事も無げに。手作りのチョコを渡された後に本命だと言われて。こうして考えるとずいぶん色々なシチュエーションで告白されたものだ。


(……でも、なんかなぁ)


 何か違う。いつからかはわからないが、俺はそう感じるようになっていた。後輩ちゃんの告白力(?)はどんどん上がっている。毎回の告白のクオリティも高い。財布はどんどん薄くなっているけれど、そんなことではもちろんなく。

 根本的に何かが違う。そんな、出所のわからないもやもやとした感情がここ最近の俺の中でずっと燻り続けていた。


「……んぱい、せんぱい」

「ん。あ、ごめん、ちょっとボーっとしてた」

「……せんぱい。好きです」

「お? どしたの、今回は随分シンプルだね。千円?」

「……もう、お金はいいんです」

「うん?」

「色々……練習、しましたけど。やっぱり、普通に伝えるのが一番な気がしたんです」

「……」

「今までのお金もお返しします。どうせ告白する口実を作るためのものでしたから」

「せんぱい。私、せんぱいのことが好きです。付き合って、ください」

「……あー……なるほど」

「ダメ、ですか……?」

「ダメだね」

「……そう、ですか。わかりま「俺さ、いま気付いたんだ」

「?」

「本当は俺、彼女が欲しいわけでも告白されたいわけでもなかった。ドキドキしたかったんだ」

「……」

「さっき告白されたとき、俺はドキドキしなかった」

「……」

「嬉しくなっちゃったんだ」

「えっ」

「だから、ダメ。これじゃお金は払えません」

「だ、だからお金はもういいんですって」

「代わりに、もっとドキドキするシチュエーションにしよう」

「え?」

「後輩。好きだ。付き合ってくれ」

「……せんぱい」

「ご満足、頂けましたか? ……なんてな」

「……ふふ。はい、もちろんです」

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