第5話 「う…うん…善隆…」

 〇王寺善隆


「う…うん…善隆…」


 コノちゃんが、耳を噛んできた。

 ああ…ヤバい!!


「だ…ダメだよ…コノちゃん…そんな事したら…」



 母が集めているコルネッツのクマ。

 それを、コノちゃんも集めてると知って、家に誘った。

 その時は…別にやましい気持ちなんてなかったのに。

 真剣にクマを見つめてる姿とか…はしゃぐ姿見てるうちに…

 なんて可愛い子なんだ。

 そう思えてきて…


 そうしてると、処女だと打ち明けられて…俺の童貞の悩みなんて、小さい事だと何てことない顔してくれて…

 なんて心の広い女の子なんだ。

 そう思うと、一気に気持ちが高ぶった。


 初めて同士、うまくヤり…付き合いたい!!

 そんな思いより、コノちゃんと付き合いたい!!

 純粋にそう思えた。

 そして、いきなり結婚の約束もした。

 両親にも紹介した。


 コノちゃんは知れば知るほど…可愛い子だ。

 実は茶道も華道も書道も嗜むという、奥ゆかしい面もあって…そのギャップにも萌えた。

 それについては、両親もすごくコノちゃんを気に入って。

 一人息子の嫁にふさわしい、と認めてくれた。



「あっ…ダメだよ…もう…」


「どうして?耳噛んでるだけなのに…感じやすいのね…」


 ああ…コノちゃん、本当に男性経験ないのかい?

 聞きたくて仕方ないけど…聞いたら、傷付けてしまうかもしれない。

 キスして抱き合ってるだけなのに、こんな事されると…俺は、次に進みたくて仕方ない。

 だけどコノちゃんは…


「だって、善隆…モテるから…あたしと最後までいったら、すぐに飽きて捨てちゃいそうだもん…」


 って、目を潤ませる。

 そんな事、絶対ありえないのに!!


「コノちゃん…俺…我慢できなくなるよ…」


「うふっ…善隆、欲張りねっ。」


「だって…ほら…胸の谷間なんて…見える服着ちゃって…」


 ああ、なんだよ。

 この誘惑してます感たっぷりの服。


「…触りたい?」


「触りたい!!」


「…やっぱり…体目当て?」


「ちっちち違う!!コノちゃんだから…コノちゃんだから、触りたいんだよ…」


 焦らすなよ!!って言いたい所だけど…そこは本当に自分でも不思議と…抑えられる。

 俺、本当にコノちゃんの事好きなんだな…



「…じゃ、こっち来て?」


 二度めの俺の部屋。

 コノちゃんは、俺の手を引いて………ベッドに!!


「ええ…えっ?」


「最後までは…まだダメだよ?」


「う…ううううううん…」


 コノちゃんは、ベッドにゆっくり座って…俺の手を…胸に!!


 うわわわわわわわわあああああああー!!

 なんて…なんて柔らかいんだ!!


「あんっ…」


「か…可愛いよ…コノちゃん…」


 谷間に、顔を埋める。

 なんだこれ!!

 この柔らかさ!!


「もう〜…善隆ったら、えっち。」


「…ここ、キスしていい?」


 谷間を指差して言うと。


「…善隆にだけ…だよ?」


 あああああ…なんて可愛いんだ!!コノちゃん!!

 チュッ。

 谷間に、キス。


「あんっ…」


 うう…我慢できない…

 右手で、モニュッ。


「ううんっ…」


 はあああ…

 左手でコノちゃんの肩を抱き寄せて、右手で胸を優しく揉みながら…キスをした。


「ん…んん…はあっ…」


 最近は、学校帰りでも待ち合わせをして、公園で何度もキスをした。

 …いつも思うけど…

 コノちゃんのキスは、すごい。

 ああ、もう最高だ!!



「コノちゃん…」


 ゆっくりと、ベッドに押し倒す。


「…今日は…上だけ…ね?」


「え?」


「だから、下は触らないで…?」


「う…うん…」


 そうだ。

 一度に進もうなんて、自分勝手な男になってしまうところだった。

 俺はコノちゃんを大切にする。

 そう決めたじゃないか。


「途中で、嫌になったら言って?おお俺は…コノちゃんの…その…むむ胸を…見たいけど…」


 つい、どもってしまった。

 緊張すると、出てしまうクセ。

 バレてるかな…


「…うふ。善隆…優しい。大好き。」


 はああああああ…


 コノちゃんはそう言って、俺を抱きしめた。

 ああ、なんて柔らかいんだ!!女の子の体って!!

 そして…なんていい匂い!!


「ボタン…はは外すよ?」


「うん…恥ずかしいな…」


「ごご…ごめんね…」


「…ううん、いいの…善隆なら…」


 ズキューン。


 胸元のボタンを外して、出てきた下着がまた…

 フリフリで、リボンもついて…

 コノちゃん!!可愛すぎる!!


「そんなに…見ないで…」


「か可愛いよ…コノちゃん…」


 片方のカップをめくって…今まで生で見た事のないピンク色の物に出会ってしまって…


「こ…コノちゃんっ…!!」


 つい、むしゃぶりついてしまった!!

 もう我慢できなーい!!


「あっあんっ、善隆っ…ああんっ…」


 コノちゃんの可愛い声が、耳元で…

 ああ、もうそれだけで俺は…っ!!


「ねえ…善隆っ…ああっ…」


「んっ…んん…?」


「クリスマス…どこか…ホテル…」


「……」


 顔を上げて、コノちゃんを見る。


「…え?」


「どこか、ホテルで…一緒に過ごせる?」


「あ………ああ!!もちろん!!」


 頭の中で、どこのホテルにしよう!!と、うちのホテル一覧表を広げる。


「もっと…すごい事…しちゃうのかな…」


 コノちゃんは、恥ずかしそうに胸を隠しながら…そう言った。


「す…すすすごい事…?」


「だって…クリスマスだし…特別な日だから…あたしを、善隆に…プレゼントしちゃうっ。」


「……」


 あ。ダメだ。

 鼻血が出そうだ。

 俺、違う事考えろ。

 違う事…


「…コノちゃん、プレゼントは、何がいい?」


「え?プレゼント?」


「うん…クリスマス…特別な物がいいかな…」


「…善隆、優しいっ。」


「わっ…わわ…」


 コノちゃんが起き上がって、俺に抱きついた。

 どうしてそうなったのか分からないけど、コノちゃんの下着が取れて、おっぱいがポロッ…


「あっ、やだっ!!」


「……」


 貧血っぽくなってしまった俺は、そのままベッドに倒れ込む。

 この歳まで我慢してた。

 コノちゃんに出会うためだったんだ。


「…あたし、コルネッツのクッションが欲しいな…」


 倒れ込んでる俺の隣に並んで、コノちゃんが言った。

 コルネッツのクッション…


「いいよ…」


「ほんとっ!?」


 はしゃいで、位置を変えたコノちゃんの胸が…

 俺の腕にポヨンと乗っかった。


「……」


「善隆、だーい好きっ。」


「…俺も…コノちゃん…だーい好き……」


 大好きだ。

 だけど…

 俺、今こんな状態で…

 クリスマスに…童貞捨てられるかな…?



 * * *


 〇浅香 音


「…相談?」


「うん。」


 終業式。

 コノが美容院に行くと言って、早く帰って。

 特に何もすることがないあたしは、家でうだうだしてた。

 そこへやって来たのは…


 王寺善隆。

 今やコノの彼氏。



「何の相談?」


 玄関に立ったまま、そう問いかけると。


「…ちょっと…ここじゃ…」


「……」


 部屋にはあげたくない。

 リビングならいいけど…でも、今日誰もいないんだよね。

 それに…あたし、今寂しい女だからな…


 コノの彼氏とは言え、一度はあたしにモーションかけてた男。

 もし、そんな雰囲気になったら…

 あたし、流されない自信がない。



「…何の相談?」


 もう一度聞くと。


「…コノちゃんの事で…」


 王寺君は、真剣な顔で言った。


「…どうぞ。」


 なんだ。

 王寺君、ちゃんとコノの事、好きなんだ。

 何となく、あたしへのあてつけかなって思ってたけど。

 それなら安心。



「で?何?」


 コーヒーを出して、正面に座った王寺君に問いかける。


「…実は…」


「うん。」


「コノちゃん…その…」


「何。」


「す…すごく…その…」


「は?」


「すすす…すすすごく…」


「……」


 何言ってんだろ。


「その、すごく、キスが上手くて。」


「………で?」


「…本人、初めてだって言うんだけど…」


「……」


 コノ。

 あんた…

 何嘘ついてんの。



「だけど…なんかこう…何もかもが…上手くて…」


「……」


「あっ、まっまだ最後までは…してないんだけど…その…」


「……」


「なんて言うか…俺ら…初めて同士…なんだよね…」


「えっ。」


「…やっぱ…驚くか…」


 コノのは嘘だとして…

 王寺君、童貞!?


「…別に…悪くないんじゃない?どうして悩むの?」


 冷静に、冷静に…


「…なんて言うか…コノちゃん…すごくて…」


「あー…なんかさ、あいつ…ビデオとか見てたし。」


「え?」


「うん。初めてのために勉強しとかなくちゃって。あたしは、別にぎこちなくてもいいんじゃない?って言ったんだけど、相手をガッカリさせたくない、幸せを感じるセックスをしてもらいたいって…うん…色々…勉強してた。」


 …誰とは聞いた事ないけど…

 コノには、寝る相手がいた。

 恋人じゃない。って言ってたのは、体の相性が良かったからだと思う。

 あたしはセフレとかあり得ないけど、コノにはそういう存在がいた。



「ビデオ…そ…そうなんだ…」


「うん。だから、色々上手いのは…王寺君のためだよ。」


「…そっか…コノちゃん…良かった…」


 目の前の王寺君は、心底ホッとした顔。

 うーん。

 いい奴じゃん。

 コノ…ちゃんと付き合えよ?



「…こうしちゃいられない。」


 突然、王寺君が立ち上がった。


「え?」


「俺も、コノちゃんを気持ちよくしてあげる勉強しなきゃ。」


「……」


「じゃ、ありがとう。」


「あ…ああ、うん…頑張って…」


 つまり…

 エロビデオを見る、と。

 そんな爽やかな顔で言われてもな…



「ふふ…」


 小さく笑う。

 コノめ…

 あいつの事だから、うまくつって豪華なプレゼントをもらう気なんだろうな。

 でも、王寺君、本気だよ。

 …上手くいくといいな。


 * * *


 〇朝霧好美


『あー、コノ?』


 新しいブーツ。

 足取り軽やかに、ホテルへ向かってると…

 音から電話。


「うん。何?」


『今日デート?』


「うん。」


『一昨日さあ、王寺君がうちに来たよ。』


「えっ?」


 足が止まる。


「何?どうして、善隆が音んちへ?」


『善隆…ふふっ。もうすっかり恋人同士ねえ。』


「…で?どうして?」


『あんたの事で、悩んでた。』


「あたし?」


『うん。自分は初めてだから、コノの事いい気持ちにできるか心配って。』


「まっ…まさか、それであんたのとこに指導してくれって!?」


『まーさか。王寺君、あんたに夢中だよ。』


「……」


『初体験同士ねえ…』


「……」


 もはや、あたしは何を言われても仕方ない。

 ウソつき女だ。


『真面目な顔して、コノのために研究するって、すっとんで帰った。』


「……」


『あんたも、ちゃんと王寺君の事、見てあげなよ?』


「…どういう事?」


『王寺君の顔が、コルネッツのクマに見えてない?』


 バレてる!!

 …でも…


「…最初は、そうだったんだよね…」


『やっぱり。』


「うん…でも、何回か会ってると…すごく純粋な人だなって…」


『そうだね。』


「…あたし、処女じゃないって…バレてるよね…」


『ああ、うまく言っといたよ。』


「え?」


『相手を気持ち良くしてあげたいからって、ビデオ見て研究してたって。』


「なっ何よそれー!!」


『まあまあ、いいじゃない。今夜楽しみだね。頑張って。じゃあね。』


「……」


 音との電話は、そこで終わった。


 …何、あたし…

 一人でエロビデオ見てた怪しい女…って事になってるわけ?

 やだ!!


 …だけど…

 今は、善隆に処女じゃないってバレる方が…嫌かも…


 本当、最初はコルネッツのクマに見えてた。

 可愛いって言われるたびに、なんでも買ってもらえるって有頂天になってた。

 でも…一昨日美容院に行って。

 鏡に映ってる自分を見て。

 善隆、この髪型気に入ってくれるかな。

 この髪型、可愛いって言ってくれるかな。

 って…

 そう思ってたあたしがいた。


 高いホテルの、いい部屋で…

 コルネッツのクマをプレゼントしてもらいながら…って。


「……」


 ホテルのロビーに着くと、善隆はもうソファーに座って待ってた。

 あたしを見つけて、すごく嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。


「コノちゃん、髪型変えたんだ。すごく似合うよ!!」


「…ありがと…」


 善隆の肩越しに…大きなクリスマスツリー。


「…どした?体調悪い?」


「…ううん…」


「コノちゃん?」


「……」


「どっ…どどどど…」


 善隆がどもってる。

 緊張してるんだ。

 あたしが、目の前で急に泣き始めて、どうしたらいいか困ってる。


「なっなな何か…俺…気に障った?」


「ううん…ううん、違うの…善隆…ごめんね…」


「何?どうして…謝るの?」


 今日の善隆は、メガネをしてない。

 素の、善隆。

 あたしの、大事な善隆。


「…善隆の顔見たら…嬉しくなって…」


「…え?」


「あたし、幸せ者だなあって。善隆、大好き。」


 そう言って、善隆に抱きつくと。


「…コノちゃん…」


 善隆は、どもらずに…あたしの背中に手を回した。



 それからあたし達は、部屋をキャンセルして…寒いけど、手を繋いで外を歩いた。

 コルネッツのクッション、高くて自分には買えなかった、って。

 善隆は、コルネッツのハンカチをプレゼントしてくれた。

 あたしへのプレゼントは、自分の小遣いで買いたかったから、って。

 意外とお小遣い少ないんだよ、って。

 あたしは、そんな善隆も好きだなって思った。


 ダリアに行って、二人で小さなケーキを食べた。

 すごく美味しくて、自然と笑顔になれた。

 こんな気持ちにさせてくれる善隆が、大好き。



「ね、善隆。」


「ん?」


「あたしの事、好美って呼び捨てにして?」


「えっえええっ?」


「じゃあ、あたしがよっちゃん、とか、よしくんって呼ぼうか…」


「どっどっどうして急に?」


「だって、あたしだけ呼び捨てって…何となく…エラそうじゃない?」


 あたしがそう言うと。

 善隆は少し緊張した面持ちで…あたしの手を優しく握って。


「…こ…好美…」


 真っ赤になって、そう言ったのよ…。

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