お昼休みの教室

 昼休み。

 如月きさらぎ桜花おうかの机に、二人の女子が集まっていた。桜花の友人の佐藤さとう霧江きりえ橋田はしだ恵美えみである。


「ねえ桜花、今度はなに作るの? 家で見たのは全自動固茹で卵殻むき機だったよね」

「恵美には教えない」

「なんで? アドバイスしてあげたじゃない。ゆで卵の殻をむくだけの機械が学習机より大きいのはおかしいって。固茹で卵しかダメで、半熟だと機械が壊れるなんてのは実用性に欠けるって」

「それだけじゃないんだけど。もっとすごい性能なんだけど」

「どうせむいた後の殻が捨てやすくなったとかでしょう」

「はいはい、それくらいで。お昼にしましょう」


 眼鏡を光らせながら霧江が提案する。恵美が桜花の発明品をからかい、霧江がまとめるいつもの流れだ。


「私ちょっとパス」


 うつ向きながら発せられた桜花の小さい声は、まさしく悲鳴、悲しい鳴き声だった。


「また? またバイト代全部使っちゃったの?」


 霧江が心配そうな顔で桜花の顔を覗き込む。言い方からすると、こういうことはよくあるのだろう。


「カクトワ・カールVer.3の開発費が思ったよりかかって……。週明けにはバイト代が入るから……」

「じゃああと3日か。今日のお昼の分は私たちが分けてあげるとして、土日のご飯は家に持っていってあげる」

「恵美ありがとう。この恩は必ず返す。バカでムカつくこともあるけど大好き」

「この場面での正直さは美徳じゃないよ!」

 恵美が桜花の肩を笑いながら叩いた。


 仲の良い者同士でグループ分けされた昼食の時間、あちこちで様々な話に花が咲いている。


「恵美のお店のお弁当は本当に美味しいね」

「お腹空いてるからでしょう。それ私のあげた、普通のお惣菜よ」

 霧江が苦笑いしている。

「まあ、うちのお弁当は手間隙かかってるからね。いつかその手間を桜花の発明品で補ってくれることを期待してるよ。先行投資、先行投資」

「本当にありがとう。私は恵美と結婚したいよ」

「んー、桜花はいらない。霧江の方が現実的に助けてくれそう」


 後ろの方で男子が咳き込んだ。別の場所では昨晩のTV番組の話をしている。


「観た? 昨日の『MAGIC2』。最近よく落ち目の俳優出すよね」

「ああ、紫輝子! なんか演技っていうか、そのまま出てきました感がすごいから苦手」

「わかる、なに演じても紫輝子って感じ」


 また別の場所では男子グループの話が盛り上がっている。


「昨日バイト先の電気屋にさ、すげえオヤジがきたんだわ。『この店の電池を全てくれ』とか言って、店員二人でカゴ4つ分」

「それいくらくらい?」


 少し前に咳き込んでから、ろくに話を聴いていない小野和明が尋ねた。


「確か18万くらい。在庫分は出さなかったけど、店長喜んでた」

「そうなんだ。災害時のストックかな?」

「いや、それが一月一回くらいの割合で同じことするんだとよ」


 和明は他愛ない話をしながら桜花を目で追う。首がガクガクしているようだが大丈夫だろうか。

 昨日桜花が怒って帰ったこともあり、まだ今日は話せていなかった。

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